クリニックや医療機関のお客様から
- スタッフは10人いるが、就業規則の作成はしなくても問題はないか?
- 素行の悪いスタッフからクリニックを守るためにはどうすればいいのか?
こういったご相談をよくお聞きします。
就業規則は雇用する従業員が常時10人未満の場合、作成・届け出する義務はありませんので、スタッフが増えてから就業規則の作成を検討する院長も少なくありません。
しかしながら、10名未満のクリニック・医療機関であっても就業規則を作成・整備しておかなければ経営リスクは経営リスクは非常に高まりますので、整備することをおすすめいたします。
今回の記事では、クリニックおよび医療機関で作成しておくべき就業規則・条文について解説をいたします。
クリニック・医療機関における就業規則とは?
就業規則とは、クリニックで勤務する従業員の働き方・禁止事項についてルール化する書類です。
職員とのトラブルを防止するために重要であり、常時10人以上の職員(正社員・パート・アルバイト問わず)を雇用している場合には作成する義務が発生します。
クリニック・医療機関において就業規則を作成する場合、
- 絶対的必要記載事項
- 相対的必要記載事項
- 任意記載事項
上記の3つについて注意する必要がありますので、それぞれ確認していきましょう。
絶対的必要記載事項とは
「絶対的必要記載事項」とは、労働基準法により就業規則を作成するのであれば必ず記載をしなければならない事項のことで、記載できていない場合は法的要件を満たしませんのでご注意ください。
- 始業時刻・終業時刻
- 休憩時間
- 休日
- 休暇
- 労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算の方法
- 賃金の支払の方法
- 賃金の締切り及び支払の時期
- 昇給に関する事項
- 退職に関する事項、解雇事由
相対的必要記載事項とは
「相対的必要記載事項」は、クリニックや医療機関内において、制度・ルールを設けるのであればその内容を就業規則に記載しなければならない事項となります。
制度・ルール自体は設けなくとも問題ありませんが、制度化してしまうと就業規則に記載する必要がありますので確認しておきましょう。
- 退職金制度を設ける場合は退職金に関する事項
- 賞与や最低賃金額の定めをする場合は、これに関する事項
- 従業員に食費、作業用品その他の負担をさせる場合は、これに関する事項
- 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
- 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
- 災害補償や業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
- 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
- その他、事業場の全従業員に適用される定めをする場合においては、これに関する事項
任意記載事項とは
「任意的記載事項」は、絶対的必要記載事項、相対的必要記載事項以外の事項です。
労働基準法上明記されていないもので、制度・ルール化だけでなく、その内容を就業規則に記載するかどうかクリニック側で決めることができます。
しかしながらクリニック・医療機関においてはこの「任意記載事項」が重要になります。トラブルを防止するためにも、制度化・就業規則への明文化をおすすめいたします。
任意記載事項:就業規則の適用範囲
正職員(正社員)だけでなく、パートやアルバイトを雇用する場合、就業規則の内容がどの雇用形態に適用されるものか記載しておきましょう。
例えば
- 正職員にだけ支給したい手当や賞与がある
- 正職員にだけ付与したい特別な休暇がある
こういった場合であっても、就業規則に「クリニックに雇用されるすべての職員に適用する」と記載があればパートやアルバイトにも正職員と同じように取り扱う必要があるのです。
任意記載事項:服務規律に関する規定
クリニック・医療機関におけるルールとして「服務規律」も重要な内容となります。
服務規律では
- 勤務時間中の仕事への専念
- セクハラ、パワハラの禁止
- クリニック内の重要機密の保持
といった内容を定めておきましょう。また、身だしなみについても規定することも可能です。
任意記載事項:休職に関する規定
その他、任意記載事項では「休職」に関しても定めておきましょう。
近年うつ病が増加している傾向にありますので、こういった病気を理由に一定期間休職が発生することも考えられます。
休職のための手続きから、復職時の手続き、復職できない場合のルールなどを検討してください。
クリニック・医療機関での就業規則の条文例
クリニックを経営されておられるお客様から「就業規則を作りたいが、厚生労働省のモデル就業規則は使ってもいいのか?」とよくご相談をいただきます。
厚生労働省のモデル就業規則をはじめ、インターネットでは就業規則の雛形を簡単にダウンロードできますが、クリニック・医療機関では利用はおすすめできません。
インターネットで公開されている就業規則は、一般企業向けに作成されていることが多く、医療特有の内容に対応できていないケースが見られます。
クリニックや医療機関の現状と異なる就業規則を使ってしまいますと、トラブル防止ではなくトラブルの火種になるため注意してください。
実際に弊社がクリニック・医療機関向けに提案している就業規則の条文例をご紹介しますので、参考にしてみてください。
労働時間・出退勤
近年、働き方改革の影響によりクリニックにおいても労働時間の管理が義務付けられています。負担が大きくなると感じる経営者の方もおられると思いますが、職員の労働時間を適切に管理することは、不要な労働時間の削減にも繋がります。
労働時間・出退勤に関する規定・条文例
職員は、始業時刻に業務を開始できるように出勤し、終業後は特別な用務がない限り速やかに退社しなければならない。職員はこの出勤・退勤の時間について当院が指定したタイムカード、ICカード等により正しく記録をするものとする。なお、入退館記録、パソコンの使用記録等の客観的なデータと職員が記録した始業及び終業の時刻の間に差異があるときは、当該職員に対し、その理由を聴取し、必要に応じて是正を行うこととする。
分院などによる配置転換
クリニックや医療機関では、分院などで職員の勤務先が変更となる場合があります。そのため医院から職員に向けて配置転換の可能性や、原則命令のため拒むことができない規定を設けておくことで円滑に進められます。
分院などによる配置転換に関する規定・条文例
当クリニックは、業務上必要がある場合、職員に対して就業する場所(分院等を含む。)及び従事する業務の変更を命ずることがある。職員は正当な理由がある場合を除き、これを拒むことはできない。
服務規律
患者の個人情報や、薬剤や医療機器など医院にとって重要な備品の取り扱いについて、注意点を記載しておく必要があります。
服務規律に関する規定・条文例
在職中及び退職後においても、業務上知り得た当院又は患者様の病状、病歴、患者様の家族・親族関係の機密を漏えいしないこと。
当クリニックの許可なく、職務以外の目的で当院の施設、物品等を使用してはならない。また、医療機器及び薬剤を含む備品等を大切に取り扱い、消耗品の節約に努め、物品及び書類は丁寧に扱い、保管すること。
まとめ
クリニック・医療機関であっても就業規則の作成は行うべきであり、医院経営に重要な役割を担っています。
また、労務管理の観点からも医療業界は一般企業と異なりますので、医療職で起こりやすいトラブルを想定した内容に整備しておきましょう。
社会保険労務士法人ステディでは、クリニック・医療機関に向けた人事労務のサービス提供を積極的に行っております。少しでも就業規則や日々の労務管理でお悩みがある場合、お気軽にご相談ください。
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