自社の非正規雇用従業員を正社員へ転換させた際に支給される、「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」。
従業員のキャリアアップを図りながら、その費用を政府が助成してくれるということもあり、従業員の戦力化を図る中小企業にとっては注目度の高い制度です。
しかし、毎年定期的に制度改正されており、年々審査が厳しくなっていることご存知でしょうか?
キャリアアップ助成金は、支給申請まで約1年以上かかる計画期間の長い制度です。せっかく取り組むのですから、少しでも助成金の受給率を高めたいですよね。今回はキャリアアップ助成金を活用する上での注意点を社労士が解説いたします。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)は審査が厳しい?
キャリアアップ助成金(正社員化コース)(以下、正社員化コースといいます。)は、年々審査が厳しくなっているのは確かです。
「正社員」と「非正規雇用従業員」の定義が詳細に定められ、それを就業規則に適切に明示しているか、対象の従業員に一定期間、その適用を受けさせているのか等、細かい部分がチェックされるようになりました。
審査がスムーズに進むためにも、正社員化コース制度改正の都度、自社のキャリアアップ計画内容に問題はないか、見直すことが必要不可欠となっています。
そもそも正社員化コースとは?
前述したとおり、雇い入れた有期雇用の従業員を正社員へ転換させた場合に、一定の条件を満たした会社に支給される助成金です。
なお、2024年度におけるキャリアアップ助成金(正社員化コース)に関する内容は下記コラム記事で解説していますので、併せてご一読ください。
正社員化コースの審査に落ちる主な要因
正社員化コースについて、弊社でもお客様からよくお問い合わせをいただきますが、下記の3つの点をクリアできずに「不支給」になってしまうケースがあります。
【不支給となる主な要因】
- 就業規則の不備
- 正社員化のタイミングが条件を満たしていない
- 正社員化後の賃金上昇率が条件を満たしていない
ここからは、各項目の注意点を解説していきます。
就業規則の不備
こちらが本記事で最もお伝えしたい内容となっています。
令和4年10月以降、正社員化コースの支給条件が厳しくなり、「正社員」と「有期雇用従業員」の定義が細かく設定されました。この定義を就業規則に定めておかないままキャリアアップの計画を進めても、助成金不支給となってしまいます。
では、どういった内容を就業規則に明示する必要があるのでしょうか。
「正社員」「非正規雇用」の定義を定めていない
就業規則に、正社員と非正規雇用従業員の区分および定義を会社の実情に合わせ、定める必要があります。こちらを定めていなかった場合、正社員化コースの側面として「有期雇用従業員」を「正社員」へ転換させたと判断されません。
有期雇用の期間についてもしっかりと明示してください。
正社員に「昇給」かつ「賞与または退職金制度」の適用がない
「正社員」の定義がより詳細に設定されました。
上記適用を受けることができない正社員化は、助成金の対象外となります。
また、この内容を適切に就業規則に明示する必要があり、その内容にも注意が必要です。
ここでは昇給の定め、賞与の定めの例をそれぞれ紹介します。
昇給の定めについては、
- 客観的な基準を設けているか?
- 一律で給与が据え置きになるような規定になっていないか?
上記2点について確認しておきましょう。
続いて、賞与の規定は
- 「原則支給する」ことが前提になっているか?
明確な記載ができているか確認が必要です。
正社員と非正規雇用の「待遇の差」を定めていない
助成金の対象となる「非正規雇用従業員」の定義もより詳細に定められました。
正社員化コースとしては、以下の者を対象となる労働者と定めています。
つまり、正社員と賃金面で待遇差がある有期雇用の従業員を正社員化させなければ、正社員化コースの条件を満たさない、ということです。
ここでいう「待遇差」は、基本給、賞与、退職金、各種手当等のいずれか一つ以上である必要があります。(通勤手当を除く。)
例えば、
「正社員は基本給を月給とし、契約社員は基本給を時給とする」
といった定めも、基本給の計算方法が異なるので、「待遇差」として条件を満たします。その他、以下の例文も「待遇差」があると判断されます。
※賞与を、正社員には「原則、支給する」非正規雇用従業員には「原則、支給しない」として、待遇差を出しています。
※手当を正社員と有期雇用従業員の待遇差として定めている場合、その手当は正社員転換後に支給する必要があります。
「正社員転換制度」を定めていない
正社員転換制度について就業規則に詳細に定めることも条件となっています。
かつ、その制度に沿って正社員転換を行なうことが重要であり、就業規則に定めた基準以外で正社員化したことが判明した場合、助成金不支給となってしまいます。
例え、就業規則に明示した以上の待遇で正社員化したとしても、それは“就業規則の制度に沿った正社員転換”とは判断されず、助成金不支給となってしまいますので、注意が必要です。
そして、定める内容としては以下の項目があげられます。
- 試験等の手続き
- 対象者の要件
- 転換実施時期
厚生労働省が発行しているリーフレットに就業規則への規定例が紹介されておりますので、ご参考ください。
正社員化のタイミングが条件を満たしていない
就業規則の規定が問題なく整備できていたとしても、キャリアアップ助成金の審査では「正社員化するタイミング」が厳格にチェックされることになります。
特に注意しておくべき「3つのタイミング」を解説いたしますので、ご確認ください。
キャリアアップ助成金計画期間「前」に正社員化している
キャリアアップ計画期間中に各種取組を行なう場合が助成対象となるため、キャリアアップ計画期間外の正社員化は助成金対象とはなりません。
キャリアアップ計画期間=キャリアアップ計画届の届出日ではないので注意しましょう。
正社員転換制度を就業規則に明示する前に正社員転換している
前述したとおり、就業規則に「正社員転換制度」を明示することが正社員化コースの条件として必要ですが、その制度を施行した「後」に、正社員化を実施する必要があります。
施行前の正社員化では条件を満たさないので、就業規則の施行日と対象従業員の正社員転換日には注意が必要です。
非正規雇用従業員が、正社員との「待遇差」を6か月以上受けていない
正社員と有期雇用の従業員の「待遇差」を定めなければならないことを前述で解説しましたが、その待遇差の適用を非正規雇用従業員が「6か月以上」受けていることも必要となります。
正社員転換前後の賃金上昇条件を満たしていない
就業規則の整備も問題なく、有期雇用で採用していた従業員の正社員登用も問題なく行えたとしても、「賃金上昇条件」を満たせていない場合、残念ながら助成金を受けられないことになります。
賃金上昇に含めることができない手当で賃金をUPさせている
正社員化後の6か月の賃金が、正社員化前の6か月間の賃金より3%以上増額させていることが正社員化コースでは必要です。
賃金が3%以上増加している確認は、正社員化前後の諸手当を含めた賃金総額を比較することになりますが、以下の手当は名称を問わず賃金総額に含めることができないため、注意が必要です。
合理的な理由なく、正社員転換後に基本給や手当を減額している
正社員化した後に合理的な理由がなく処遇の低下(基本給・諸手当の低下等)を行なった場合は、支給対象にならない場合があります。
ここでいう「合理的な理由」とは、賃金規定の改定による給与額の減少等があげられます。(つまり、全従業員に影響が出る賃金改定による基本給・諸手当の低下であれば「合理的な理由」として認められる場合があります)
キャリアアップ助成金を安心して進めるために
今回は正社員化コースの審査の厳しさ、注意点について解説いたしました。
毎年、年度初めの改定はもちろん、年度途中でも制度の変更が多くなっているのが現状です。
本助成金を活用してみたいが、制度が煩雑なため、取り組みに躊躇している企業様、計画は実施しているが、助成金が支給されるのか不安の企業様は、助成金に詳しい社労士のアドバイスを受けることをおすすめします。
特に正社員化コースについては、就業規則の整備状況が一つのポイントになります。
就業規則に記載している内容次第では、受給・不受給の判断が異なる場合もありますので、注意しておきましょう。
当社でも複数のクライアント様のキャリアアップ助成金をお手伝いしております。お悩み事がございましたら是非、当社へご連絡ください。
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