「長く働いてくれる人を雇いたいが、人件費は抑えたい」
「社内で新たに正社員転換制度を設けて、従業員のモチベーションをあげたい」
「正社員へキャリアアップを希望する従業員がいる」
こういった悩みをお持ちの経営者の方、人事担当者の方は、キャリアアップ助成金(正社員化コース)を活用することをおすすめいたします。
キャリアアップ助成金(正社員コース)は、アルバイトやパートタイマーといった非正規雇用の従業員を、正社員に転換させた場合に支給される助成金制度です。
昨年は助成金額のアップや支給条件の緩和が行われており、今後ますます注目されるコースといえるでしょう。
しかし、キャリアアップ助成金は制度の改正が多く、審査も年々厳しくなっています。
せっかく準備をしても、申請ができない、審査に通らないといったことがないように、計画を作成する段階から注意が必要です。
今回の記事では、キャリアアップ助成金の2024年の最新情報から、具体的な申請方法、活用時の注意点などを解説いたしますので、ぜひご参考ください
キャリアアップ助成金(正社員化コース)を活用すべき企業とは
キャリアアップ助成金(正社員化コース)とは?
キャリアアップ助成金は、先にも述べたとおり、社内の非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するため、企業内で正社員化や処遇改善の取り組みを積極的に実施した事業主に対して支給する助成金制度です。現在、7つのコースがあります。
その中でも非正規雇用労働者(有期雇用労働者および無期雇用労働者)を、正規雇用の従業員へキャリアアップさせる取り組みを「正社員コース」といいます。
今回はこの「正社員化コース」に重点を絞ってご説明いたします。
2024年1月時点の助成金額、最新情報は?
キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、2023年11月に改正が行われ、支給される助成金額がアップし、支給対象者の条件も緩和されました。
最新情報として、
- 「助成金額」が見直し
- 対象となる有期雇用労働者の要件
- 正社員転換制度の規定に関する加算措置
- 多様な正社員制度規定に関する加算措置
上記4つをご紹介いたします。
ただし、2023年11月29日以降に正社員化を実施している従業員に限りますのでご注意ください。
「助成金額」が見直し
1つ目の拡充は「助成金額」が見直しされ、1人あたり「80万円」と増額されています。
申請は2期制となっていて、
- 第1期申請期間:転換後6か月分の賃金支給日の翌日から2か月間
- 第2期申請期間:上記の後の6か月分(7~12 か月目分)の賃金支給日の翌日から2か月間
と区切られている点も確認しておきましょう。
なお、1期あたりの支給額は40万円であり、正社員として賃金を「12か月」以上支払った場合に「80万円」の受給となります。
対象となる有期雇用労働者の要件
2つ目の拡充は「対象となる有期雇用労働者の要件」が緩和されました。
従前は、有期雇用の契約期間が3年を超えた労働者はキャリアアップ助成金(正社員化コース)の対象外となっていましたが、令和5年11月29日以降撤廃されています。
正社員転換制度の規定に関する加算措置
3つ目の拡充は「正社員転換制度の規定に関する加算措置」が設けられました。
1事業所当たり1回のみの支給ではありますが、1人目の転換時に
- 正社員転換による転換で80万円
- 加算措置による20万円
により、合計100万円(中小企業の場合)の助成金受給を目指すことができます。
多様な正社員制度規定に関する加算措置
4つ目の拡充は「多様な正社員制度規定に関する加算措置」です。
こちらも1事業所当たり1回のみの支給となります。1人目の転換時に
- 正社員転換による転換で80万円
- 加算措置による40万円
により、合計120万円(中小企業の場合)の助成金受給を目指すことができます。
活用すべき企業の特徴とは?
では本コース、どういった企業が活用すべきなのでしょうか。
3つの特徴をあげさせていただきます。
- 人手不足を解消したいが人件費の負担を軽減したい企業
- キャリアアップを希望する従業員がいる企業
- 働きやすい環境整備を推進したい企業
優秀な人材を採用し、長く働いてもらいたい。でも人件費は抑えた……といった人手不足を解消したい場合はもちろん、正社員化の制度を設け、従業員のモチベーション向上や「働きやすい会社」風土を構築したい企業にも、是非活用していただきたい制度となっています。
助成対象となる従業員・事業主の条件とは
本助成金の対象となる従業員、事業主の主な条件を解説いたします。
以下の条件に当てはまる場合、助成金の活用見込みがございます。当社へお問い合わせいただければ、受給の可否につきまして具体的にご案内させていただきますので、お気軽にご連絡ください。
対象となる従業員の条件とは
キャリアアップ助成金(正社員化コース)を利用するためには、従業員が制度対象となるのか確認が必要になります。特に注意すべき7個のポイントは次の通りですので、該当する方かどうか確認してください。
- 賃金の額または計算方法が、正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則等の適用を通算6か月以上受けて雇用される有期雇用労働者または無期雇用労働者(※)であること
- 無期雇用労働者とは…期間の定めのない労働契約を締結する労働者のうち、通常の労働者(正社員)に適用される労働条件が適用されていないことが確認できる者のことをいいます
- 正規雇用労働者として雇用することを約して雇い入れられた従業員でないこと
- 当該従業員の前職と現職の事業主同士が、資本的・経済的・組織的関連性からみて密接な関係がないこと
- 正社員化を行った適用事業所の事業主または取締役の3親等以内の親族以外の者であること
- 支給申請日において、正社員化後の雇用区分の状態が継続し、離職していない者であること。(自己都合退職等は除く)
- 支給申請後に有期雇用労働者、無期雇用労働者へ転換する予定のない者
- 定年までの期間が1年以上である者
対象となる事業主の条件とは
せっかく従業員の方がキャリアアップ助成金(正社員化コース)の対象者として、制度利用の見込みがあったとしても、会社側での要件も満たしておく必要があります。
こちらは15個のポイントにご注意ください。
- 雇用保険適用事業所であること
- 雇用保険適用事業所ごとに、キャリアアップ管理者を置いている事業主
- 雇用保険適用事業所ごとに、対象労働者に係るキャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主
- 実施するコースの対象労働者の労働条件、勤務状況および賃金の支払い状況等を明らかにする書類を整備し、賃金の算出方法を明らかにすることができる事業主
- キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主
- 有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換する制度を就業規則または労働協約その他これに準ずるものに規定している事業主
- 上記6の制度の規定に基づき、雇用する有期雇用労働者等を正社員化した事業主
- 正社員化された従業員を、正社員化後6か月以上の期間継続して雇用し、当該従業員に対して正社員化後6か月分の賃金を支給した事業主であること。
- 支給申請日において当該制度を継続して運用している事業主であること。
- 正社員化後6か月間の賃金を、正社員化前6か月間の賃金より3%以上増額させている事業主であること。
- 当該正社員化日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間に、当該正社員化を行った適用事業所において、雇用保険被保険者を解雇等事業主の都合により離職させていないこと
- 雇用する労働者を他の雇用形態に転換する制度がある場合にあっては、その対象となる従業員本人の同意に基づく制度として運用している事業主であること
- 正社員化日以降の期間、当該労働者を雇用保険被保険者として適用させている事業主であること
- 当該従業員が社会保険の適用要件を満たす事業所の事業主に雇用されている場合、社会保険の被保険者として適用させていること
- 勤務地限定正社員制度、職務限定正社員制度または短時間正社員制度に係る加算の適用を受ける場合にあっては、キャリアアップ計画書に記載されたキャリアアップ期間中に、上記3つの正社員制度を新たに規定し、有期雇用労働者等を当該雇用区分に転換した 事業主であること
助成金を受けるための必要な手続き、注意点とは
助成金の支給を受けるまでの手続きの流れ
助成を受けるために必要な手続きは、下記のステップのとおりとなります。ここでは各工程の手続きの詳細、注意点を解説いたします。
各工程で共通の注意点
キャリアアップ助成金(正社員化コース)を利用するにあたって、いずれの工程でも2つの点は必ず守る必要があります。
・法令違反のない労務管理を徹底させること
申請時には、タイムカード等と賃金台帳とを照合し、残業代がきちんと支払われているかどうかのチェックが入ります。未払い残業代の発生はないか等、事前の確認が必要です。
・従業員を一定期間内で解雇していないこと
正社員化日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間に、当該正社員化を行なった事業所において雇用保険被保険者の解雇を行なっていないことが求められます。
①キャリアアップ計画書の作成・提出
【手続きの詳細】
事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を決定し、計画対象者、目標、期間、目標を達成するために事業主が行う取り組みなどを、専用の計画書に記載します。
作成後は、事業所管轄のハローワークへ計画届を提出します。
【計画届作成時・提出時の注意点】
◯キャリアアップ計画書に記載する計画開始日について
計画実施日の前日までに、計画届を所轄のハローワークへ提出してください。
郵送も可能ですが、ハローワークが計画届を受領した日が「提出日」となるため、計画実施日までに提出が間に合わない可能性があります。また、何らかの不備があった場合には再提出となる可能性もあるため、余裕をもって届け出を行なう事がベストです。
◯キャリアアップ管理者の選任について
キャリアアップ管理者は、複数の事業所および労働者代表との兼任はできません。必ず事業所ごとに管理者を選任してください
◯計画作成にあたり、代表労働者の意見を聴くこと
計画の対象となる有期雇用労働者や無期雇用労働者の意見が反映されるよう、有期雇用労働者等を含む事業所における全ての労働者の代表から意見を聴いてください。
◯キャリアアップ計画の内容が変更になった場合
計画届提出後に計画期間等の変更が生した際は、「キャリアアップ計画変更届」を提出する必要があります。変更届が提出されていない場合、助成金を受給できない場合がありますので、内容に変更が生じた場合は速やかに変更届を提出してください。
②就業規則の改定
【手続きの詳細】
就業規則とは、社内のルールブックのようなものです。
具体的には、一定数の従業員を雇用している場合、就業規則に「従業員の契約期間」、「労働時間関係」や「賃金関係」等を定め、事業所管轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。
本助成金制度を活用するためには、就業規則に以下の内容を明示しなければなりません。
- 就業規則で正社員、契約社員、パートタイマーの適用範囲を定めること
- 有期雇用労働者からの転換の場合、契約期間に係る規定を確認できるか
- 「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」が正社員に適用されていることが明確に示されているか
- 転換制度(手続き、要件、実施時期)について就業規則で明示されており、かつ従業員に周知されているか
- 基本給、賞与、退職金、各種手当等について、いずれか一つ以上で正規雇用労働者と契約社員やパートタイマーについて賃金額や計算方法が異なる旨を定めていること
- 固定残業代が基本給に含まれている場合は、固定残業代に関する時間数と金額等の計算方法、 固定残業代を除外した基本給の額を、就業規則または雇用契約書等に明記すること
【就業規則改定時の注意点】
◯キャリアアップ助成金を利用したければ、就業規則が必要となる
従業員が常時10人未満の事業所の場合、「就業規則」の作成および労働基準監督署への届出義務は対象外となっていますが、キャリアアップ助成金を活用するのであれば、常時10人未満であっても就業規則の作成は必須となります。
しかし、届出までは求められていません。作成後は従業員へ周知し、本助成金の支給申請時に「就業規則」および「申立書」を提出することで足ります。
◯就業規則改訂後の正社員転換であること
計画届提出後でかつ就業規則改定後の正社員転換でない場合、助成金支給対象外となります。また、転換制度に規定したものと異なる手続き、要件、実施時期等で転換した場合も不支給となります
◯賞与は「原則、行なう」旨を定めること
OKな規定、NGな規定をそれぞれ例文で説明いたします。
OK:「賞与は、正社員に対し、原則として毎年〇月に支給する。ただし、業績悪化および個人の勤務成績により支給しない場合がある。」
NG:「賞与は、会社の業績および個人の勤務成績により支給する場合がある」
OKは「原則、支給する。例外的に支給しない」と読み取ることができます。
NGは「賞与は必ず毎年支給されるのか」を、曖昧に定めているため、就業規則の不備と判断される可能性が高くなります。
◯昇給の定めを「客観的な昇給、降給基準」で設けていること
ここでも、OKな規定そしてNGな規定をそれぞれ例文でご紹介します。
OK:「昇給は勤務成績その他が良好な労働者について、毎年○月○日をもって行うものとする。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は行わないことがある。
NG:「会社が必要と判断した場合には、会社は、賃金の昇降給その他の改定を行う。」
NGは、客観的な基準なく昇降給を行なう、という内容になっているため、本制度の要件を満たしません。
OKな場合のように、「勤務成績」といった客観的な基準を設けて昇給を行なう旨を定める必要があります。
◯基本給、賞与、退職金、その他の手当について、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の賃金額や賃金計算方法について違いがあることを定め、かつ、その違いを非正規雇用の従業員に6か月以上適用させていること
例えば
「正規雇用労働者は月給、契約社員やパートタイマーは時給とする」
「賞与は正社員にのみ行ない、契約社員やパートタイマーには行わない」
といったように、賃金額や計算方法が正社員とそうでない雇用形態とで「待遇差」があるよう、就業規則に定めなければなりません。
また、その「待遇差」を、本制度の支給対象者である非正規雇用の従業員に対し、6か月以上適用させていることも条件となっています。
③就業規則に基づく正社員化
【手続きの詳細】
上記で定めた内容に沿って、有期雇用労働者を正社員へ転換させます。
【正社員化の注意点】
計画届提出後でかつ就業規則改定後の正社員転換である必要があります。
計画届提出前または就業規則改定前の正社員転換である場合は、助成金支給対象外となります。また、転換制度に規定したものと異なる手続き、要件、実施時期等で転換した場合も不支給となります。
④正社員転換後6か月の賃金の支払い(第1期)
【手続きの詳細】
正社員化後6か月間の賃金を、転換前6か月間の賃金より3%以上増額させて支給します。
【正社員転換後6か月の賃金の支払いの注意点】
◯本助成金では「賃金」を以下のとおり定めており、3%以上の上昇の算定に含みます。
- 基本給および定額で支給されている諸手当(※)を含む賃金の総額
- ※名称の如何を問わず、実費弁償的なものや毎月の状況により変動することが見込まれるもの等は除く(通勤手当、精勤手当、固定残業代等)
- ※賞与は算定に含めない
◯原則、賃金額は減少させないこと
正規雇用労働者へ転換した場合であっても、合理的な理由がなく処遇の低下(基本給・
諸手当の低下等)が見られる場合、支給対象にならない場合があります。ここでいう「合理的な理由」とは、賃金規定の改定による給与額の減少等があげられます。
⑤支給申請(第1期)
【支給申請の手続き】
正社員化した対象労働者に対し、正規雇用労働者としての賃金を6か月分支給した日の翌日から起算して2か月以内に申請してください。
【支給申請の注意点】
◯申請期日の厳守
申請期日を1日でも超過すると助成金支給対象外となってしまいます。計画届提出時と同様に余裕をもったスケジュールで準備を行なう必要があります。
◯支給申請日のスタートは「賃金を6か月分支給した日の翌日」からの起算です。
よって暦の関係上、給与支払日が前倒しになった場合、その前倒しになった日の翌日から起算します。支給申請の提出日が固定化されていない点、注意が必要です。
◯提出すべき書類の多さ
支給申請時に提出すべき申請書、添付資料は併せて約10種類あり、多岐にわたります。また、約1年間分の従業員のタイムシートおよび賃金台帳を提出する必要があるので、過去の情報を適切に保管する必要もあります。
◯審査に時間を要する
一般的に、支給申請書を提出して助成金が入金されるまで約6か月程度かかるといわれています。
⑥正社員転換後7か月~12か月の賃金の支払い(第2期)
【手続きの詳細】
2023年11月以降、新たに設けられた工程です。
第1期と比較して賃金に減額がないこと、 第1期同様、通常の正社員に適用される労働条件が全て適用されていることが原則となります。
⑦支給申請(第2期)
第1期の申請方法と同様であると思われますが、⑦も制定されたばかりの工程であるため、具体的な流れは厚生労働省より今後、発表される見込みです。
まとめ
今回はキャリアアップ助成金(正社員化コース)についての最新情報、助成金額、そして支給までの手続きや注意点を解説いたしました。前半にも述べましたが、本コースに限らず、助成金制度を活用するにはスタート時点から不備のないよう、適切に工程を踏むことが重要となります。
キャリアアップ助成金は改定が多く、提出期日厳守な制度です。
当社でも複数のクライアントの助成金のご相談、サポートを行なっており、助成金制度の改定の都度、最新情報もご案内しております。申請に不安のある方、初めて本制度をご検討の方はぜひ、当社へご連絡ください。
この記事の執筆者
その他の記事
- お知らせ2024.09.039/26(木)~27(金)研修に伴う事務所不在のお知らせ
- ニュース一覧2024.08.26基本給を下げて手当で調整することのリスクとは?
- お知らせ2024.07.31-アーカイブ配信-【2024年8月開催】クリニックに必要な労務管理と経営に活用すべき助成金とは
- お知らせ2024.07.09夏季休業のお知らせ