「フレックス休暇」という言葉を耳にしたことはありますか?
近年、多様な働き方を推進する企業が増える中で、従業員の自由な休暇取得を可能にするフレックス休暇制度が注目されています。従来の有給休暇やフレックスタイム制とは異なり、より柔軟な運用ができる点が大きな特徴です。
しかし、「どんな制度なのか?」「メリット・デメリットは?」「導入するにはどうすればいいのか?」と疑問に感じる方も多いのではないでしょうか。企業にとっては生産性向上や従業員満足度の向上につながる一方で、適切な管理が求められる制度でもあります。
本記事では、フレックス休暇の基本概念や有給休暇との違い、企業が導入する際のポイント、成功事例を詳しく解説します。「導入してよかった!」と思える制度にするためのコツや専門家視点のアドバイスも紹介するので、ぜひ最後までご一読ください。
フレックス休暇の基本概要
現代の働き方は大きく変化しており、企業は従業員のワークライフバランスを考慮した柔軟な制度を取り入れる必要があります。その中でも「フレックス休暇」は働き方改革に利用できる制度です。これは従業員が自分の都合に合わせて自由に休暇を取得できる仕組みであり、従来の有給休暇とは異なる特徴を持ちます。
本章では、フレックス休暇の基本的な概念と、有給休暇との違いを詳しく解説します。
フレックス休暇とは?
フレックス休暇とは、従業員が一定の範囲内で自由に休暇を取得できる制度を指します。
通常の有給休暇とは異なり、より柔軟な休暇取得が可能になる点が特徴で、企業によって制度の設計は異なりますが、以下のような形式が一般的です。
フレックス休暇の主な形式
- 年間の休暇日数を定め、従業員が自由に取得できる(例:年間3日間のフレックス休暇を付与)
- 一定の期間で利用するように制度化可能(例:夏休みとして7月から9月で利用ができる)
- 有給・無給の組み合わせ(例:有給休暇とは別に、追加のフレックス休暇を設けるケースもある)
この制度は、フレックスタイム制と組み合わせることで、より自由度の高い働き方を実現できるため、導入する企業が増えています。
フレックス休暇の目的
フレックス休暇は、単なる休暇制度ではなく、企業の生産性向上や従業員のエンゲージメント向上を目的としています。
例えば、繁忙期と閑散期のメリハリをつけることで、効率的な働き方が可能になったり、育児や介護などのライフイベントとの両立をしやすくすることができます。
有給休暇との違い
フレックス休暇と有給休暇は、どちらも「従業員が取得できる休暇」という点では共通していますが、制度の目的や運用方法に明確な違いがあります。
フレックス休暇と有給休暇の主な違い
項目 | フレックス休暇 | 有給休暇 |
---|---|---|
法的義務 | 法律上の義務なし(企業が独自に導入) | 労働基準法に基づき義務化 |
取得単位 | 日単位・時間単位など柔軟に設定可能 | 原則として日単位 |
付与の仕組み | 企業が独自のルールで設定 | 法律に基づき付与(6か月以上勤務などの条件あり) |
消化義務 | 企業の裁量で決定 | 5日以上の取得が義務(年5日の有給休暇義務化) |
企業の目的 | 柔軟な働き方の促進、生産性向上 | 従業員の健康管理・労働環境の改善 |
企業がフレックス休暇を導入する理由
有給休暇は法的に義務付けられた制度ですが、フレックス休暇は企業が独自の裁量で設計できるため、従業員のニーズに合わせた休暇制度を作ることが可能です。例えば、以下のようなケースで有効活用できます。
- プロジェクト単位で働く社員向けに、繁忙期の負担を減らすための休暇を設定
- フルタイムではないが、一定の働き方を求めるパート社員向けの柔軟な休暇制度
- 海外拠点と時差がある職種で、生活リズムを整えるための休暇を提供
このように、フレックス休暇は企業独自の働き方改革の一環として導入できる点が大きな強みです。
企業が従業員の働きやすさを追求する中で、フレックス休暇はより重要な制度になっていくでしょう。
フレックス休暇のメリットとデメリット
フレックス休暇は、従業員にとっても企業にとっても大きなメリットをもたらす制度です。特に、従業員のワークライフバランスを向上させることや企業の生産性を向上させることが期待できます。
しかし、その一方で適切に管理しないと業務の停滞や勤怠管理の負担増といったデメリットも発生する可能性があります。本章では、フレックス休暇のメリット・デメリットについて、具体的な例を交えながら詳しく解説します。
メリット:柔軟な働き方の実現
フレックス休暇は、企業側と従業員側の双方にとって柔軟な働き方を可能にする重要な仕組みです。特に、ライフスタイルの多様化や個々の事情に合わせた労働環境の最適化に貢献します。
従業員のワークライフバランス向上
フレックス休暇の導入により、従業員は自身の生活スタイルや家庭の事情に合わせた休暇取得が可能になります。
例えば、以下のようなシーンで活用できます。
- 子どもの学校行事や習い事に合わせた休暇取得
- 病院の通院や役所の手続きなど、平日にしかできない用事のための休暇取得
- リフレッシュや趣味の時間の確保(有給休暇とは別枠で取得できる場合)
従業員の視点では、プライベートと仕事のバランスが取りやすくなるため、ストレス軽減や満足度向上につながるのが大きなメリットです。特に、育児や介護と両立しながら働く従業員にとっては、非常に有効な制度と言えます。
企業の生産性向上
フレックス休暇の導入は、企業側にとっても以下のようなメリットをもたらします。
- 従業員のモチベーション向上 → 自由度の高い働き方ができることで、業務への集中度が増す
- 業務の効率化 → 必要なタイミングで休暇を取れるため、休暇取得を巡るストレスが減少し、仕事のパフォーマンス向上につながる
- 離職率の低下 → 柔軟な制度があることで従業員の満足度が向上し、長く働き続ける環境を整えられる
また、企業がフレックス休暇を導入していること自体が採用の際のアピールポイントとなることもあります。特に、優秀な人材確保のために柔軟な働き方を提供する企業が求められる時代になっているため、導入の検討価値は十分にあります。
デメリット:運用上の課題
一方で、フレックス休暇を導入することで発生する可能性のある課題も無視できません。特に、休暇の取得状況のバランスや管理の負担増加が問題となるケースがあります。
休暇取得の偏りによる業務影響
フレックス休暇は従業員の自由度を高める制度ですが、取得が特定の時期に集中すると業務が滞るリスクがあります。
例えば、
- 繁忙期に多くの従業員がフレックス休暇を申請し、業務が回らなくなる
- 同じ部署のメンバーが一斉に休暇を取ることで、残った社員の負担が増える
- 特定の人だけが休暇を取得しやすくなり、不公平感が生まれる
このような事態を防ぐためには、企業側が取得ルールを明確に設定し、バランスを取る仕組みを整えることが重要です。
例えば、部署ごとの取得上限を設けたり、業務との調整を必須にするルールを設定したりすることで、円滑な運用が可能になります。
勤怠管理の複雑化
フレックス休暇は有給休暇とは異なり、企業ごとに独自のルールを設定するため、勤怠管理が複雑になるというデメリットもあります。
具体的には、
- 時間単位で取得できる場合、勤怠システムが対応していないと管理が難しい
- 有給休暇とフレックス休暇の違いを従業員が理解していないと、運用が混乱する
- 休暇の取得理由を求めるかどうかのルールを明確にしないと、不公平感が生じる
このような課題を解決するためには、
- 勤怠管理システムの導入・運用ルールの明確化
- 従業員向けの研修・ガイドラインの作成
- 管理職への適切なトレーニング
といった対策を行うことが必要になります。企業ごとに制度の設計が異なるため、どのように管理すればスムーズに運用できるかを事前にしっかり検討することが不可欠です。
フレックス休暇の導入事例
フレックス休暇の導入は、企業の働き方改革や従業員のワークライフバランス向上に大きく寄与しています。事例をご参考に、自社導入のヒントに繋がれば幸いです。本章では、株式会社ワークスアプリケーションズの取り組みをご紹介いたします。
成功事例:株式会社ワークスアプリケーションズの取り組み
フレックス休暇制度の導入
株式会社ワークスアプリケーションズは、従業員の柔軟な働き方を推進するために、独自の「フレックス休暇制度」を導入しています。

この制度では、土日・祝日・年末年始の日数と所定休日105日(うるう年は106日)の差の日数分を「フレックス休暇」として付与しています。2022年度の例では、年間で17日分を自由に取得されているようです。
フレックス休暇導入のためのステップ
フレックス休暇をスムーズに導入し、効果的に運用するためには、事前の準備が不可欠です。特に、就業規則の改訂と労使協定の締結、勤怠管理ツールの導入は、制度を安定的に運用するための重要なステップとなります。本章では、これらの具体的な進め方とポイントについて詳しく解説します。
就業規則の見直しや労使協定の締結
フレックス休暇導入の第一歩は、就業規則の改訂です。フレックス休暇は企業が独自に設計する制度であるため、労働基準法上の有給休暇とは異なり、法律上の義務はありません。そのため、適用範囲や取得ルールを明確に定め、従業員に誤解なく運用できる仕組みを整えることが重要です。
① フレックス休暇の定義と適用範囲を明確化
就業規則には、以下の内容を具体的に記載する必要があります。
- 対象者の範囲:正社員のみ対象とするのか、契約社員やパート・アルバイトも対象とするのかを明確にする
- 取得可能日数:年間何日間のフレックス休暇を付与するのかを定める
- 取得単位:1日単位、半日単位、時間単位での取得が可能かどうか
- 取得方法:申請方法(事前申請・当日申請)、上長承認の有無
- 繰越の可否:翌年への持ち越しを認めるかどうか
例えば、**「年間10日間のフレックス休暇を付与し、1時間単位での取得を可能とする」**といったルールを明記することで、従業員が迷わず制度を利用できるようになります。
② 労使協定の締結
フレックス休暇を導入する際は、労使協定の締結が推奨されます。特に、労働時間管理や休暇の取得ルールに関する合意形成を図ることが、後のトラブルを防ぐために重要です。
労使協定のポイント
- 休暇取得ルールの策定(繁忙期の取得制限の有無など)
- 取得申請プロセスの明確化(事前申請が必須か、事後申請も可能か)
- 業務への影響を最小限にするための運用ルール(チームごとの取得調整など)
労働組合や従業員代表との話し合いを通じて、全社的に納得感のある制度設計を行うことが成功のカギとなります。
勤怠管理ツールの導入
**フレックス休暇の適正な運用には、勤怠管理ツールの活用が欠かせません。**特に、時間単位での休暇取得を可能にする場合、**手作業での管理では煩雑になり、ミスが発生しやすくなります。**そのため、自動で記録・集計ができるシステムを導入し、正確なデータ管理を行うことが重要です。
① 勤怠管理ツール導入のメリット
- 休暇取得の透明性向上:誰がいつフレックス休暇を取得しているのかを可視化し、不公平感を解消
- 業務調整のしやすさ:休暇申請がリアルタイムで確認できるため、上長やチームメンバーとの調整がスムーズになる
- 労務管理の負担軽減:休暇取得状況が自動集計され、管理部門の負担が減る
② フレックス休暇に対応したシステムの選び方
フレックス休暇を適切に管理できる勤怠管理システムを選ぶ際は、以下のポイントを重視しましょう。
- 時間単位の休暇取得に対応しているか
- クラウド型でどこからでもアクセス可能か(リモートワーク対応)
- 従業員が簡単に申請・取得状況を確認できるか
- 給与計算システムと連携できるか
例えば、「ジョブカン」「KING OF TIME」「クラウド勤怠」などのクラウド勤怠管理システムは、フレックス休暇のような特別な制度についても管理対応しており、多くの企業で活用されています。
③ 勤怠管理システムの導入ステップ
- 自社の運用ルールを整理(フレックス休暇の取得単位、申請フローを確定)
- システムを選定し、無料トライアルを活用して比較検討
- 導入前に労務担当者や管理職へ研修を実施
- 従業員へガイドラインを提供し、使い方を周知
- 試験運用を経て本格導入へ移行
システム導入は、単にツールを入れるだけでなく、社内の業務フローに適した形で運用できるように設計することが重要です。
専門家からのアドバイス:フレックス休暇導入の成功ポイント
フレックス休暇を導入するだけでは、必ずしも効果的に運用できるとは限りません。制度を形だけ作っても、従業員に浸透しなければ十分に活用されず、逆に業務の混乱を招く可能性もあります。フレックス休暇の成功には、制度の理解促進、業務フローの調整、そして定期的な見直しと改善が不可欠です。本章では、導入を成功に導くための専門家視点のアドバイスを詳しく解説します。
従業員への周知と教育
フレックス休暇の最大の落とし穴は、従業員が制度を理解していないことです。 どれだけ優れた仕組みを作っても、ルールが曖昧だったり、使い方がわかりにくいと、利用が進まないだけでなく、不公平感が生まれるリスクもあります。 そのため、導入時には従業員への周知と教育が必須です。
① 具体的な利用方法を明確に伝える
従業員にとって、制度の存在を知るだけでは不十分です。実際にどのように休暇を取得すればよいのかを、具体的な手順とともに説明することが重要です。例えば、以下のような情報を伝えると、スムーズに制度が浸透します。
- 取得方法(申請の流れ、必要な手続き)
- 取得可能な単位(時間単位か、日単位か)
- 取得ルール(繁忙期の制限、業務調整の必要性)
- 給与や勤怠管理との関係(有給・無給の違い、残業計算への影響)
社内ポータルサイトにFAQを掲載したり、導入時に説明会を開くことで、従業員が迷わずに利用できる環境を整えることが理想です。
② 管理職向けの研修を実施
フレックス休暇は、管理職の理解と協力なしでは定着しません。 例えば、上司が「業務に支障が出るから」と取得を阻むような態度をとると、従業員は制度を使いづらくなります。そのため、管理職には以下の点を理解してもらうための研修を行うことが重要です。
- フレックス休暇の意義(生産性向上・離職防止への効果)
- 部下の休暇取得を促すための適切な声かけ
- 休暇申請が業務に影響しないよう調整する方法
特に**「部下が休暇を取りやすい環境をつくることも、マネジメントの一環である」という意識を持たせることが重要**です。
業務フローの再設計と調整
フレックス休暇を導入すると、休暇取得のタイミングが従業員ごとに異なるため、業務の調整が必要になります。 例えば、同じチームのメンバーが同時に休暇を取ってしまうと、業務が停滞してしまう可能性があります。そのため、事前に業務フローを再設計し、休暇取得がスムーズに行える体制を整えることが重要です。
① 役割分担を見直し、休暇時の対応策を決める
フレックス休暇を取りやすくするためには、休んだ人の業務を誰がどのようにフォローするかを明確にすることが不可欠です。以下のような方法を取り入れると、業務への影響を最小限に抑えられます。
- 業務の属人化を防ぐため、チームでの情報共有を徹底する
- 引き継ぎマニュアルを整備し、休暇中でも業務が停滞しないようにする
- プロジェクトやタスクの進捗を見える化し、誰でもフォローしやすい環境を作る
特に、「この業務は○○さんしか対応できない」という状態を避けることが重要です。定期的に業務の棚卸しを行い、チーム内で役割を分散させましょう。
② 休暇取得の調整ルールを設ける
フレックス休暇は、個人の裁量で取得できるのがメリットですが、一方でチーム全体のバランスも考慮する必要があります。 そのため、以下のようなルールを設定すると、休暇取得がスムーズになります。
- 繁忙期の休暇取得は事前申請制にする
- 1日の休暇取得者数に上限を設ける(例:「同じチームで同日に取得できるのは2人まで」)
- プロジェクトや納期に影響が出ないよう、スケジュールを調整する
休暇を取得しやすい環境を作りつつ、業務に支障が出ないようにバランスを取ることが大切です。
定期的な運用状況の見直しと改善
フレックス休暇は、一度導入すれば終わりではなく、定期的に運用状況をチェックし、必要に応じて改善していくことが重要です。 企業の状況や従業員のニーズは変化するため、制度も柔軟にアップデートしていく必要があります。
① フィードバックを収集する
定期的に従業員アンケートを実施し、制度の問題点や改善点を把握しましょう。例えば、以下のような質問を設定すると、制度の運用改善に役立ちます。
- フレックス休暇を取得しやすいと感じるか?
- 取得にあたって不便を感じる点はあるか?
- ルールや手続きがわかりやすいか?
- 制度の改善点や希望はあるか?
定性的な意見も含めて分析し、必要に応じて制度を調整することが大切です。
② 運用データを分析し、必要に応じて制度を改訂
勤怠管理システムを活用し、休暇取得の実態データを分析することも重要です。例えば、以下のようなデータをチェックすると、制度の課題が見えてきます。
- 休暇の取得率(部署・職種別)
- 特定の時期に取得が偏っていないか
- 一部の社員だけが多く取得していないか
これらのデータをもとに、必要であれば取得ルールの見直しや、追加の制度設計を行うことで、より使いやすい仕組みへと改善できます。
まとめ:フレックス休暇制度の導入にお困りの方はご相談ください
フレックス休暇を成功させるためには、従業員への適切な周知と教育、業務フローの調整、そして定期的な運用見直しが不可欠です。導入後も継続的に改善を行いながら、従業員が安心して利用できる制度を確立することが、企業の成長にもつながるでしょう。
弊社では、フレックス休暇制度の導入コンサルティングも行っております。今後、福利厚生の一つにフレックス休暇の導入を検討されている企業様はお気軽にご相談ください。
この記事の執筆者

- 社会保険労務士法人ステディ 代表社員
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