契約社員の解雇は、企業にとっても労働者にとっても重要な問題です。 「契約期間が決まっているから、いつでも解雇できる」 と思っていませんか?
実は、契約社員の解雇には 厳格な法的ルール が存在し、不適切な対応をすると 不当解雇として訴えられるリスクがあります。
本記事では、契約社員を解雇する際の正当な理由や適切な手続きについて、 労働基準法や裁判例をもとにわかりやすく解説します。
企業の人事担当者だけでなく、契約社員として働く方にも 「もし解雇されたらどう対応すべきか」 確認いただけるよう解説いたします。
✔ 契約社員を解雇できるケースとは?
✔ 企業が違法な解雇で訴えられるケースとは?
✔ トラブルを防ぐための適切な対応とは?
これらのポイントを 専門家の視点でご紹介しますので、法律の基本知識から、実際の対応策まで、これ一つでしっかり理解いただければ幸いです。
契約社員の解雇に関する基本知識
契約社員の解雇には、正社員とは異なるルール が適用されます。
一般的に「契約社員だから簡単に解雇できる」と思われがちですが、実際には 法律による厳格な制限 が設けられています。
まずは契約社員と正社員の雇用契約の違いについて確認し、続いて契約社員の解雇が難しい理由を法的観点から解説します。
違法な解雇に当たる 「不当解雇」 の定義や適用範囲についてもご紹介しますので、企業側のリスク管理はもちろん、契約社員として働く方にとっても「解雇されたときにどう対応すべきか」基礎知識を押さえておきましょう。
契約社員と正社員の違い:雇用契約の特徴
契約社員と正社員では、雇用契約の形態や法的な扱い が異なります。この違いを理解することが、契約社員の解雇に関する問題を正しく判断するための第一歩となります。
① 契約の期間
- 正社員:雇用期間の定めがない(無期雇用)。
- 契約社員:雇用期間が決められている(有期雇用)。
契約社員は、雇用契約書に記載された期間のみ雇用が保証される仕組みになっています。つまり、企業側は 契約期間満了時に雇用を終了させることができます。
② 解雇のルール
- 正社員:企業側が解雇するには「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要(労働契約法16条)。
- 契約社員:契約期間中の解雇は原則として禁止(労働契約法17条)。ただし、「やむを得ない事由」があれば可能。
契約社員は「 期間の定めがある 」という性質上、正当な理由がなければ契約期間中に解雇することは難しい 仕組みになっています。
③ 雇用の安定性
- 正社員は定年までの雇用が前提であり、原則として長期的な雇用関係が続く。
- 契約社員は、契約満了時に更新がなければ雇用終了となる。
そのため、 契約社員は解雇されるというよりは「契約が更新されない」ケースの方が一般的 です。
契約社員の解雇が難しい理由:法的背景と保護制度
「契約社員はすぐに解雇できる」と思われがちですが、実際には法律で強く保護されています。契約社員の解雇が難しい理由を、 法的な背景と企業側が直面するリスクを交えて解説します。
① 労働契約法による解雇制限
労働契約法第17条では、 契約社員の契約期間中の解雇を原則として禁止 しています。契約期間中に契約を解除できるのは、 「やむを得ない事由」がある場合のみ です。
(契約期間中の解雇等)
引用元:e-GOV「労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)」
第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
✔ 「やむを得ない事由」とは?
- 労働者側の重大な問題(例:犯罪行為、就業規則違反)
- 業務の継続が不可能(例:会社の倒産、大幅な事業縮小)
- 健康上の理由で就業が困難(例:長期療養が必要な疾病)
このような特別な事情がない限り、契約期間中の解雇は 無効と判断されるリスク があります。
② 不当解雇の訴訟リスク
契約社員を違法に解雇すると、裁判で「不当解雇」と判断され、損害賠償請求を受ける可能性があります。
特に、契約を更新して長期間勤務している契約社員の場合「実質的に正社員と同じ扱い」と見なされることがあり、解雇がさらに困難になります。
✔ 違法な解雇のリスク
- 地位確認請求(「解雇は無効」として職場復帰を求められる)
- 未払い賃金の支払い請求(解雇期間中の給与を支払う義務が生じる)
- 慰謝料請求(精神的苦痛を理由に損害賠償を請求される)
企業にとっても大きなリスクとなるため、解雇を慎重に判断することが重要です。
「不当解雇」とは何か?契約社員の場合の適用範囲
「不当解雇」とは、法律や就業規則に違反し、正当な理由なしに労働者を解雇することです。契約社員の場合も、不当解雇が適用されるケースがあります。
① 契約社員が不当解雇と認められるケース
契約社員の場合、 以下のような理由での解雇は「不当解雇」に該当 する可能性があります。
- 労働者側に明確な問題がないのに、突然解雇された
- 契約更新を期待していたのに、合理的な理由なく更新されなかった
- 会社の業績悪化を理由に契約期間中に一方的に解雇された
- 上司とのトラブルが原因で解雇された
特に、「 長期間更新されてきた契約社員 」が解雇された場合、実質的に正社員と同じ扱いになり、不当解雇と認定されやすくなります。
② 不当解雇にならないための企業側の対策
企業が契約社員を解雇する際には、以下の対策を講じることでリスクを軽減できます。
✔ 企業がやるべきこと
- 解雇理由を明確に書面で通知する
- 就業規則や労働契約に基づいた手続きを厳守する
- 労働者と十分に話し合い、納得を得る努力をする
- 解雇予告や解雇予告手当を適切に支払う
このように、 契約社員の解雇には慎重な対応が求められます。
企業側が法的リスクを理解し、適切な手続きを踏むことで、 無用なトラブルを避けることが可能 になります。
契約社員の解雇を検討する際に押さえるべき法的ポイント
契約社員の解雇は、正社員の解雇よりも慎重に判断しなければならないという特徴があります。契約社員は有期雇用であり、契約期間内の解雇は厳しく制限されているため、適切な手続きを踏まずに解雇すると違法とみなされるリスクがあります。
そのため、企業がどのような場合に解雇が認められるのかを正しく理解し、適切に対応することが重要です。
本章では、契約社員の解雇に関する労働契約法第17条の規定、解雇時に必要な解雇予告通知書の作成ポイント、さらに契約満了時の「雇い止め」と解雇の違いについて詳しく解説します。
適切な解雇手続きを知り、企業の法的リスクを回避するために、ぜひ最後までご覧ください。
労働契約法第17条:「やむを得ない事由」の定義と適用例
契約社員の解雇が難しい理由の一つが、労働契約法第17条による解雇制限です。この法律では、契約期間中の解雇を原則として禁止しており、例外的に「やむを得ない事由」がある場合のみ解雇が認められる仕組みになっています。
① 「やむを得ない事由」とは?
「やむを得ない事由」とは、契約を継続することが社会通念上、極めて困難である状況を指します。具体的な例として、以下のようなケースが挙げられます。
✔ 「やむを得ない事由」に該当するケース
- 重大な規律違反(例:犯罪行為、職場での暴力、重大なハラスメント行為)
- 業務遂行能力の著しい欠如(例:業務命令に従わない、極端に低い業務遂行能力)
- 企業の経営破綻(例:倒産や大幅な事業縮小により契約を維持できない)
- 長期間の就業不能(例:重篤な疾病により業務を継続できない)
② 「やむを得ない事由」に該当しないケース
一方で、以下のような理由では解雇が認められない可能性が高いため注意が必要です。
✖ 「やむを得ない事由」に該当しないケース
- 業務のパフォーマンスが期待より低い
- 職場での人間関係が悪い
- 会社の一方的な経営判断(合理的理由がない)
- 契約期間中に業務量が減った
企業が契約社員を解雇する場合は、「やむを得ない事由」に該当するかを慎重に検討し、適切な手続きを踏むことが不可欠です。
解雇予告通知書の書き方と注意点:必要な記載事項
契約社員を解雇する際、法律上、企業は解雇予告を行う義務があります(労働基準法第20条)。これに違反すると解雇予告手当の支払いが求められるため、注意が必要です。
また、解雇理由が不明確な通知書では、労働者から異議を申し立てられるリスクもあるため、適切な記載を心がけることが重要です。
① 解雇予告通知書に必要な記載事項
✔ 解雇予告通知書に必ず記載すべき項目
- 労働者の氏名
- 解雇日(解雇が発効する日)
- 解雇の理由(具体的に明記)
- 解雇予告手当の有無
- 問い合わせ先(担当部署や連絡先)
- 発行日・企業名・代表者名
② 解雇予告通知書の記載例
解雇予告通知書
○○○○様
当社は貴殿との雇用契約について、以下の通り解雇を決定しました。
解雇日:2024年○月○日
解雇理由:貴殿は2024年○月○日に就業規則に違反し、会社の秩序を著しく乱したため、労働契約法第17条に基づき、やむを得ず解雇を決定しました。
解雇予告手当:支給の有無を記載
お問い合わせ先:○○会社 人事部(連絡先○○-○○-○○○○)
2024年○月○日
○○株式会社 代表取締役 ○○○
③ 解雇予告通知書作成時の注意点
- 曖昧な理由を書かない(「業務に支障がある」などの抽象的な表現は避ける)
- 法的に問題ない理由を明記する(労働契約法17条の要件を満たしているか確認)
- 労働者と事前に話し合う(突然の通知はトラブルの原因となる)
適切な解雇予告通知書を作成することで、企業の法的リスクを減らし、不当解雇の主張を回避することが可能です。
契約満了時の「雇い止め」と解雇の違い
契約社員の雇用終了には「解雇」と「雇い止め」の2種類があります。この違いを理解し、適切に対応することが重要です。
① 「雇い止め」とは?
「雇い止め」とは、契約期間の満了に伴い、企業が契約を更新せずに雇用を終了させることです。これは解雇とは異なり、原則として解雇予告は不要です。
✔ 雇い止めの主なケース
- 初回の契約満了(契約更新なし)
- 契約更新がある場合でも、合理的な理由に基づいて更新しないと判断
② 「雇い止め」と「解雇」の違い
雇い止め | 解雇 | |
---|---|---|
適用対象 | 契約満了時 | 契約期間中 |
企業側の自由度 | 一定の制限あり | 厳しく制限 |
法的リスク | 長期雇用の場合はトラブルの可能性あり | 不当解雇リスクが高い |
解雇予告義務 | 原則なし(例外あり) | 必要(30日前予告or手当支給) |
③ 企業が気をつけるべきポイント
- 長期間更新されていた契約社員の雇い止めは慎重に(実質的に正社員扱いされる可能性あり)
- 契約更新を期待させる発言は避ける
- 雇い止めの理由を明確にし、文書で通知する
このように、「解雇」と「雇い止め」では対応が異なるため、適切な判断を行うことが重要です。
実際に認められた契約社員解雇の事例
契約社員の解雇は原則として厳しく制限されていますが、例外的に解雇が認められるケースも存在します。
企業が契約社員を解雇する際は、法律に基づいた正当な理由が求められ、不適切な解雇は「不当解雇」として無効になるリスクがあります。しかし、労働者側に重大な問題がある場合は、契約期間中であっても解雇が認められることがあります。
本章では、 契約社員の解雇が認められた事例を紹介しながら、どのようなケースで解雇が可能なのかを解説します。
企業のリスク回避はもちろん、契約社員として働く側が知っておくべきポイントも詳しく説明していきます。
採用時の経歴詐称が発覚したケース
経歴詐称が発覚した場合、契約社員であっても「解雇が妥当」と判断されることがあります。
特に、業務に必要なスキルや資格に関する詐称は、企業にとって重大な信用問題となるため、解雇が正当とされやすいです。
① 解雇が認められた具体的な事例
✔ 経歴詐称による解雇が有効とされた判例
- 専門資格を要する職種(例:医療、法律、建築)での学歴・資格詐称
- 営業職で「前職での実績」を偽っていた
- プログラマーが「実務経験10年以上」と申告していたが、実際は未経験だった
これらのケースでは、「企業は詐称がなければ採用しなかった」と主張し、裁判でも契約の前提が崩れた と判断されることが多いです。
② 経歴詐称による解雇が無効となるケース
一方で、以下のような場合は解雇が不当とされる可能性があります。
✖ 解雇が無効と判断されるケース
- 職務に直接関係ない資格の詐称(例:「英検1級」と履歴書に記載したが、実際は2級だった)
- 学歴の軽微な誤記(例:卒業年度の記載ミス)
- 業務遂行能力に影響を与えない経歴詐称
ポイント: 経歴詐称が業務に直接的な影響を与えるかどうかが、解雇の正当性を判断するポイントになります。
無断欠勤や副業による懲戒解雇事例
契約社員の勤務態度が著しく悪い場合、企業は解雇を検討することができます。
特に、 無断欠勤や禁止された副業が発覚したケースでは、解雇が妥当と判断されることがあります。
① 無断欠勤による解雇
長期間の無断欠勤は、契約社員であっても「就業意思がない」と判断される可能性が高い です。
✔ 解雇が認められた例
- 2週間以上の無断欠勤を繰り返した
- 会社からの連絡を無視し、理由を説明しなかった
- 過去に何度も遅刻・欠勤を繰り返していた
✔ 解雇が無効と判断された例
- 病気で出社できなかったが、後から診断書を提出
- 1回の無断欠勤のみで即解雇された
- 会社からの聞き取りに誠実に対応し、反省していた
企業側は即時解雇するのではなく、事前の警告や聞き取りを行うことが望ましいでしょう。
② 許可されていない副業の発覚
近年、副業を認める企業も増えていますが、就業規則で副業を禁止している場合、副業が発覚すると懲戒解雇が認められることがあります。
✔ 解雇が認められた例
- 本業と競合する会社で働いていた(情報漏洩のリスクがある)
- 勤務時間中に副業を行っていた(業務に支障が出た)
- 会社の許可なくアルバイトをしていた(契約違反)
✖ 解雇が無効と判断された例
- 副業が本業に影響を与えていなかった
- 就業規則に「副業禁止」の明確な規定がなかった
- 本業の勤務時間外に、問題のない副業をしていた
ポイント: 副業禁止のルールがある場合は、契約時に労働者へ明確に説明することが重要です。
暴力・暴言行為が繰り返された場合
職場での暴力・暴言は、企業の秩序を著しく乱す行為であり、懲戒解雇の正当な理由になり得ます。
特に、上司や同僚への暴力、パワハラ・セクハラ行為が常習化している場合は、契約社員であっても解雇が認められる可能性が高いです。
① 暴力・暴言による解雇が認められたケース
✔ 解雇が認められた例
- 同僚や上司に対し、繰り返し暴言・脅迫を行った
- 職場内で暴力を振るい、他の社員に怪我をさせた
- 顧客に対して暴言を吐き、企業の信用を著しく毀損した
✔ 解雇が無効と判断された例
- 一度だけ口論になり、軽い暴言を発したが、すぐに謝罪した
- 上司のパワハラに対して反論した結果、解雇された
- 証拠がなく、事実関係が不明瞭だった
ポイント: 暴力・暴言による解雇が有効になるのは、証拠が明確であり、悪質な行為が繰り返されている場合です。
企業側は、録音データや証言を集め、解雇理由を具体的に示すことが重要です。
契約社員解雇が認められなかった事例とその理由
契約社員の解雇は一定の条件を満たせば可能ですが、企業側が適切な手続きを踏まずに解雇を行った場合、裁判で「不当解雇」と認定され、無効になるケースも少なくありません。
特に、解雇理由が曖昧だったり、企業側の対応に問題があったりする場合、解雇は無効と判断される可能性が高くなります。
本章では、実際に契約社員の解雇が認められなかった事例を紹介し、企業がどのような点に注意すべきか を解説します。
また、労働者側が「不当解雇」に対してどのように対応できるかについても触れていきます。
職場内トラブルで懲戒解雇が無効とされたケース
企業は職場内の秩序を守るために懲戒解雇を行うことができますが、その適用には慎重な判断が求められます。
特に「懲戒解雇に値するほどの問題だったのか?」という点が問われることが多く、企業側の一方的な判断ではなく、客観的にみて妥当である必要があります。
① 懲戒解雇が無効とされた事例
✔ 解雇が認められなかったケース
- 同僚との口論が原因で解雇されたが、暴力行為はなかった
- 上司の指示に反論したことを「職務命令違反」とされた
- 一度のミスを「重大な過失」として扱い、即解雇された
- 事実関係が曖昧なまま解雇が行われた
✔ 裁判での判断ポイント
- 労働者の行動が 本当に懲戒解雇に値する重大な違反だったのか
- 企業側が 事前に適切な指導や注意を行っていたか
- 証拠(書面・映像・証言など)が十分に揃っているか
例えば、「同僚と口論になったが、手を出していない」というケースで解雇された場合、裁判では「軽度の言い争い程度では、解雇が妥当とは言えない」と判断され、解雇が無効になると考えられます。
② 懲戒解雇を有効にするためのポイント
企業が懲戒解雇を検討する際は、以下の点を事前に確認することが重要です。
✔ 適切な懲戒解雇の判断基準
- 就業規則に解雇理由として明確に記載されているか
- 過去に同様のケースで一貫した処分が行われているか
- 事実関係を確認し、適切な調査を実施したか
- 口頭指導や警告を行った後の最終手段としての解雇か
安易な懲戒解雇は企業にとっても大きなリスクとなるため、慎重な対応が求められます。
配置転換や指導不足が原因で解雇が認められなかった事例
企業が契約社員を解雇する理由として「業務能力が不十分」というものがありますが、企業側の指導や環境整備が適切でなかった場合、解雇が無効とされることがあります。
特に、配置転換や教育不足が原因で成果が出せなかった場合、労働者の責任ではなく企業の責任とされることが多いため、注意が必要です。
① 解雇が認められなかった具体的な事例
✔ 配置転換が原因で解雇が無効とされるケース
- 営業職で採用されたが、突然技術職に配置転換され、業務が遂行できなかった
- 短期間で異なる部署に繰り返し異動させられ、十分な教育がなかった
- 本来の業務とは異なる業務を命じられ、対応できないことを理由に解雇された
✔ 指導不足による解雇が無効とされるケース
- 入社後、十分な研修や指導を受けていないのに「能力不足」として解雇
- 上司から適切なフィードバックを受ける機会がなく、突然解雇された
- 企業側が育成計画を立てていなかったため、業務を遂行できなかった
これらのケースでは、労働者の責任よりも企業側の管理責任が問われるため、解雇は無効と判断されやすくなります。
② 企業側がすべき対策
企業が契約社員を解雇する前に、以下の対応を行っていたかを確認することが重要です。
✔ 適切な対応のチェックリスト
- 配属前に十分な説明を行い、労働者が納得していたか
- 配置転換の理由が合理的で、労働者に適応する機会を与えたか
- 解雇の前に、具体的な業務指導や教育プログラムを提供していたか
- 業務評価の基準を明確にし、本人に改善の機会を与えたか
企業側の指導や配置の問題がある場合、労働者の業務遂行能力の不足を理由に解雇することは困難です。
特に、「本来の業務とは違う仕事を与えた結果、パフォーマンスが低かった」といった場合、解雇は不当とされる可能性が高いため、注意が必要です。
トラブルを防ぐための実務的なポイントと注意事項
契約社員の解雇や雇い止めは企業と労働者の間でトラブルが発生しやすい領域です。特に、契約時の取り決めが曖昧であったり、退職をめぐるコミュニケーションが不適切であったりすると解雇無効の主張や訴訟リスクにつながる可能性があります。
これを防ぐためには、契約段階で適切な取り決めを行うこと、適切なプロセスを経て労働者に納得してもらうことが重要です。本章では、契約時に明確化すべき事項と、トラブルを回避しつつ円満退職へと導く「退職勧奨」の進め方について詳しく解説します。
契約時に明確化すべき事項:更新条件と終了条件の明記方法
契約社員の解雇や雇い止めをめぐるトラブルの多くは、契約時の取り決めが曖昧であることが原因です。企業が一方的に契約を打ち切ったと労働者が主張した場合、雇い止めの正当性を証明できなければ、不当解雇とみなされるリスクがあります。
そのため、契約書には**「更新条件」と「終了条件」を明確に記載** し、トラブルを未然に防ぐことが重要です。
① 更新条件の記載方法
契約社員の契約が更新されるかどうかは、企業の判断に委ねられるケースが多いですが、更新の可能性がある場合は、その基準を明確に記載しておくことが推奨されます。
✔ 更新条件の例
- 業務の必要性が継続する場合
- 契約期間中の勤務態度や業務遂行能力が一定の基準を満たした場合
- 事業計画の変更がない場合
不明確な記載(例)
- 「必要に応じて更新する」
- 「会社の判断により契約を更新することがある」
適切な記載例
- 「会社が契約更新を判断する基準は以下の通りとする
- 業務遂行能力が評価基準を満たしていること
- 事業の存続および業務継続が必要と判断された場合
- 労働者が契約更新を希望している場合」
更新基準を具体的に明記することで、労働者に**「更新の可能性があるかどうか」** を事前に示すことができ、更新を期待させすぎることによるトラブルを防ぐことができます。
② 契約終了条件の明記
契約満了時の「雇い止め」が不当と主張されるリスクを避けるため、契約終了の条件を明確にしておく ことも重要です。
✔ 契約終了の条件の例
- 契約満了時に業務が終了する場合
- 労働者の業務遂行能力が求められる水準に達しなかった場合
- 企業の経営状況により、契約更新が困難になった場合
適切な記載例
- 「本契約の期間満了時において、業務遂行状況・企業の経営状況を考慮し、契約更新の可否を決定する」
- 「本契約は〇年〇月〇日をもって満了し、特段の取り決めがない限り更新されない」
契約の終了条件を事前に明示することで、契約満了時のトラブルを大幅に減らすことができます。
円満退職を促す「退職勧奨」の進め方と注意点
契約満了時や業務縮小により契約社員との雇用関係を終了させる際、適切な手続きを踏まずに一方的に解雇を伝えると、トラブルに発展するリスクが高まります。
企業としては、可能な限り円満な形で契約を終了させるための「退職勧奨」を検討することが重要です。
① 退職勧奨とは?
退職勧奨とは、労働者に対して自主的な退職を促す行為 を指します。これは「解雇」ではなく、労働者が自主的に退職する形を取るため、企業の法的リスクを軽減できるメリットがあります。
✔ 退職勧奨の特徴
- 解雇ではなく、労働者の同意を得るプロセス
- 企業の一方的な決定ではなく、話し合いの結果としての退職
- 退職金や転職支援を提供することで、円満な形を模索できる
② 退職勧奨の進め方
退職勧奨を適切に行うには、労働者が納得できる形で話し合いを進めることが重要です。
✔ 退職勧奨のステップ
- 事前準備
- 退職勧奨の理由を明確にし、企業の意向を整理する
- 労働者の状況を把握し、話し合いの戦略を立てる
- 必要に応じて、退職金や転職支援策を検討する
- 労働者との面談
- 本人の意向を確認しつつ、退職を検討してもらう
- 企業の状況や退職勧奨の理由を丁寧に説明する
- 転職支援や退職金の提示を行い、前向きな選択肢を提示する
- 合意形成
- 労働者が納得した場合、退職届の提出を促す
- 退職条件(退職金・有給消化の可否など)を明確にし、書面で記録する
- 最終的に労働者が自主的に決定した形にする
✔ 退職勧奨の適切な表現
- 「会社の業績を踏まえると、契約更新が難しい状況です」
- 「今後のキャリアを考えると、転職の可能性を検討することも一つの選択肢です」
- 「会社としても支援できることがあれば相談に乗りたいと考えています」
注意点
- 退職を強要しないこと(「絶対に退職しなければならない」と言わない)
- 複数回にわたって執拗に勧奨しないこと(パワハラとみなされる可能性がある)
- 書面での合意を取ること(口頭のみの合意では後から撤回されるリスクがある)
契約社員の雇用で困ったらで失敗しないために
契約社員の解雇は、労働法や判例に基づく厳格なルールがあり、企業側が適切な手続きを踏まなければ、不当解雇とみなされるリスクがあります。
また、解雇後に労働者から法的措置を取られたり、労働基準監督署や裁判所から違法性を指摘されたりすると、企業の信用や経営にも悪影響を及ぼしかねません。
このようなリスクを回避し、適切に契約社員の解雇を進めるためには、専門家(弁護士・社労士)の知見を活用し、企業のコンプライアンスを徹底することが不可欠 です。
お困りの際は、弁護士や社労士にご相談されることを推奨いたします。
弁護士や社労士への相談タイミングとは?
契約社員の解雇を進める際には、企業が独自の判断で解雇を決定する前に、専門家の助言を得ることが重要です。
特に、解雇が法的に認められるかどうかの判断や、リスク回避策を講じる上で、弁護士や社労士に相談する適切なタイミングを知っておくことが求められます。
① 弁護士に相談すべきタイミング
✔ 弁護士に相談するケース
- 解雇に関して労働者から異議申し立てや訴訟の可能性がある
- 労働基準監督署からの指導が入る可能性がある
- 解雇の理由が「業績不振」や「勤務態度の問題」など、曖昧である
- 契約社員との間で解雇トラブルが発生し、解決が難しい
- 従業員数が多く、解雇に関する社内規定を整備する必要がある
弁護士は、法的な観点から「解雇が有効かどうか」 をアドバイスするだけでなく、トラブルが発生した際の交渉・訴訟対応まで対応できます。
また、万が一裁判になった場合も、企業側の立場を守るための適切な主張を組み立てることが可能です。
② 社労士に相談すべきタイミング
✔ 社労士に相談するケース
- 契約社員の雇用契約書の作成や、就業規則の見直しを行いたい
- 解雇の手続きを進める際に、法的な適合性を確認したい
- 解雇を回避するための「退職勧奨」や「雇い止め」の進め方を知りたい
- 労働基準監督署からの調査に対応する必要がある
- 解雇に関する社内研修を実施したい
社労士は、日常的な労務管理の専門家であり、解雇に関連する法的リスクの回避や適切な手続きを支援 する役割を担っています。
特に、事前に適切な契約書や社内規定を整備し、解雇をめぐるトラブルを未然に防ぐためのアドバイスを得ることができます。
✔ 弁護士と社労士の役割の違い
弁護士 | 社労士 | |
---|---|---|
主な業務 | 訴訟対応、交渉、法的リスク評価 | 労務管理、契約・規則整備、行政対応 |
相談のタイミング | 重大なトラブル発生時、訴訟の可能性がある場合 | 日常的な労務管理、契約や解雇手続きの適正化 |
対応範囲 | 法律的な判断・交渉・訴訟代理 | 労務手続きの適正化、行政への届出・対応 |
このように、企業は解雇を検討する前に、社労士の助言を受け、トラブル発生後は弁護士と協力して対応する ことで、リスクを最小限に抑えることができます。
弊社では、企業の解雇に関するご相談も対応しておりますので、お困りの経営者様・人事労務担当者の方はお気軽にご相談ください。
この記事の執筆者

- 社会保険労務士法人ステディ 代表社員
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