新しい戦力として従業員を採用しても
- 仕事ができると聞いて雇用したけど、ミスが多い
- 基本的なPCの操作もできないので、仕事を任せられない
会社と従業員のミスマッチはどの組織においても起こり得ます。そのため従業員の能力・スキルを見極めるために試用期間を設けるケースが一般的ですが「試用期間中であれば、能力不足を理由に解雇できるのか?」という点については慎重な判断が必要になります。
通常解雇は「客観的かつ合理的な理由」がなければ権利の濫用として無効になりますが、試用期間中はどのような考え方になるのか解説いたします。
試用期間中の能力不足者はどう対応すべきか?
中小企業、大企業問わず多くの会社では従業員を採用する際に「試用期間」を設けています。
一般的には「入社後3か月は試用期間とする」と求人や雇用契約書に記載し、3か月間の勤務実績や勤務態度から本採用するかどうか判断するための「従業員を評価する期間」とすることがあります。
経営者の方とお話していると「試用期間なのだから、解雇(本採用をしない)は自由にできると思っていた」と誤解されている方も少なくありません。試用期間中であっても、従業員の方を簡単に辞めさせることはできませんので、法的要件から見ていきましょう。
試用期間中における解雇の法的要件を確認
試用期間中に従業員の能力不足がわかり、解雇(本採用をしない)する場合でも、通常の解雇と同じように法律上の要件を満たす必要があります。
解雇に関しては労働契約法16条により
「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
と定められています。
そのため試用期間中の従業員に対して能力不足を理由に解雇するのであれば「合理的な理由があるのか」「解雇の判断が従業員の状況からして相当であるか(バランスがとれているのか)」を整理した上で判断しなければ、トラブルの種は大きくなると言えます。
試用期間中に解雇をする場合の踏むべき手順
従業員の能力不足を理由に、試用期間中に解雇する場合、従業員の能力不足について会社が証明する必要があります。
能力不足を証明する客観的資料を集めておく
従業員を解雇してトラブルになると裁判になるケースが多く、その際「解雇の判断が法的に有効であることを」を客観的に立証しなければなりません。
単純に「他の従業員に比べて仕事ができないか」という説明では、解雇権の濫用として解雇は無効と判断されます。
予め、下記のような項目がしっかりと説明できるように、客観的な資料を集めておきましょう。
- 求人要項や雇用契約書において従業員に求めているスキルや業務内容
- 役職者の場合は達成すべき項目を示し、従業員に説明している資料
- 例:営業課長であれば、課の売上目標等
改善命令による結果を集めておく
例え従業員の能力が、他の従業員と比べて明確に不足している場合であっても、会社側が指導・教育できていなければ合理的な解雇とは言えません。
- 期待する能力になるように、会社としてどのような指導・教育・訓練を実施したか
- 従業員の能力が発揮できるように、適切な人材配置を行ったか(人事異動・部署転換等)
このような取り組みを行ったとしても、従業員の能力不足が改善されないと説明できる証拠も集めておく必要があります。
試用期間中の具体的な問題事例と対処法
試用期間中の従業員を辞めさせたいと思う背景としては、
- 遅刻や欠勤が多い
- 仕事上のミスが多い
- 仕事の覚えが悪い
こういった状況が主に考えられます。
解雇を検討する前に、会社として従業員をフォローする必要がありますので、具体的な対処法について確認していきましょう。
遅刻・欠勤が多い場合の対応
遅刻や欠勤が多い従業員は、職場の規律に影響を及ぼします。また、場合によっては取引先へ迷惑が掛かることも考えられます。
まずは、従業員との個別面談を通じて、遅刻や欠勤をしてしまう理由を確認することが重要です。
もし理由が従業員の家庭的な問題など外部要因に基づいている場合、柔軟な勤務体系やサポートを提供することも一つの解決策です。
一方、行動の改善が見られない場合は、従業員に対して具体的な改善目標を設定し、期限を定めることが効果的です。社会人として遅刻や欠勤は本来あるまじき問題ですが、本人の意識改善を求めましょう。
仕事上のミスが多い場合の指導方法
仕事上のミスが頻繁に発生する場合、従業員には追加の研修や指導が必要かもしれません。特に専門的な業務の場合は、先輩社員によるOJTでフォローすることも大切です。
まずは、ミスの原因を特定し、従業員がそれを理解しているか確認します。次に、具体的な改善策を従業員と一緒に考えながら、必要に応じて定期的な面談を行います。
この過程で、ポジティブなフィードバックと励ましも重要です。ミスが繰り返される背景として、仕事のプレッシャーに耐えられていない可能性もあります。
仕事のミスを責めるばかりですと、悪循環を及ぼしますので注意しましょう。
仕事の覚えが悪い場合の教育
新しい従業員が仕事を覚えるのに苦労している場合、個別の教育プランの策定が効果的です。
これには、仕事の手順や責任を段階的に教えるアプローチが含まれます。また、業務を体系的に行えるようにチェックリストの作成・利用も、仕事の理解を深めるのに役立ちます。
さらに、同僚や上司からの定期的なフィードバックやサポートも重要です。従業員が一定の進歩を見せない場合は、職務内容の調整や他の職種への配置換えも検討する必要があります。
予防策と長期的な解決
試用期間中でも一定の要件を満たすことで解雇することは可能ですが、予防策としては「採用」「教育」「従業員エンゲージメント」といった3つの観点で取り組みが重要となります。
採用プロセスの改善と適切な候補者の選定
試用期間中の問題を未然に防ぐ一つの鍵は、採用プロセスの改善です。
人手不足だからといって、会社の求める人材像(考え方、スキルや経験)に合致しない求職者の方を無理に採用したとしても「期待している能力がなかった」と感じる可能性が高まります。
求職者に求めるスキルや経験、会社の組織風土に適合する方の特徴などをしっかりと精査した上で採用活動を行いましょう。
また、面接のプロセスでは、実務試験や能力テストの導入も効果的です。面接だけで求職者の能力を判断することは難しいため、客観的に判断できる材料を増やしていきましょう。
新入社員研修と職場環境の整備
従業員を採用し、その方が会社で活躍できる人材になるためには、適切な研修とサポートが大きく関わります。
サポートとしては
- オリエンテーション(オンボーディング)プログラム
- スキルトレーニング
- メンターシステム
といった体制づくりが考えられます。
新入社員が会社に馴染み、能力を発揮していただけるような基盤が築けるように会社側からもバックアップを行いましょう。
効果的な人材管理と従業員のエンゲージメントの高め方
従業員のエンゲージメントを高めることは、組織の生産性と成功に直結しています。
エンゲージメントの向上については、従業員の声を聞き、意見を尊重する文化を育むことが不可欠です。
定期的なアンケートやミーティングを通じてフィードバックを受け取り、それを改善策に反映させることが大切です。また、従業員の成果を認識し、適切に報酬を与えることで、モチベーションを高め、長期的な所属意識を醸成しましょう。
まとめ:試用期間中の能力不足者への効果的な対応法
試用期間は、新入社員が会社に適合するかどうかを判断するための重要な期間です。
本コラムでは、試用期間中に能力不足と判断された従業員に対して、効果的かつ法的に適切なアプローチを取る方法について解説いたしました。
採用した従業員の能力が、期待よりも低いとしても会社側で教育・指導し、能力を高める取り組みは必要不可欠です。
能力不足の解雇であっても、法的な要件を満たせていない場合には「不当解雇」として解雇が無効になりえますので、慎重な判断をおすすめいたします。
より詳細な情報や個別の相談が必要な場合は弊社までお気軽にご相談ください。
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