企業の義務!健康診断を実施していますか?診断項目・対象となる従業員を社労士が解説

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従業員を雇用すると、企業は従業員が安心して働き続けられるように、心身の健康を確保する必要があります。

その一つとして、労働安全衛生法により企業は一定の従業員に対して健康診断を実施することが義務付けられております。

企業の規模や業種によらず対応をしなければ法律違反になってしまいますので、健康診断に関する法的根拠や健康診断を実施すべきタイミングについて解説をいたします。

健康診断の実施は企業に義務はあるのか?

健康診断の実施については、労働安全衛生法第66条によりルール付がされています。

事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。

e-GOV「労働安全衛生法」より引用

この定めにより、会社は従業員に対して医師による健康診断を実施する義務があります。

小さな会社やクリニックにも労働安全衛生法は関係するのか?

労働安全衛生法によると

  • 労働者:労働基準法第九条に規定する労働者(同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者及び家事使用人を除く。)をいう。
  • 事業者:事業を行う者で、労働者を使用するものをいう。

上記のように定義がされています。そのため、従業員を数人しか雇用していない会社や、個人で事業を営んているクリニックであっても、一人でも従業員を雇用している以上労働安全衛生法の対象となります。

従って、健康診断の実施についても同様に義務が発生するため注意が必要です。

健康診断はなぜ必要なのか?

従業員に対して健康診断の実施が義務付けられている背景としては

  • 従業員の健康や安全に配慮し、適性な配置(業務配置)を行うための検査
  • 従業員自身の身体状況を把握し、業務に起因して起こる健康障害の早期発見

このような背景があるからです。

従業員が仕事をすることで発生する事故や病気を防ぐだけでなく、体調不良を早期発見することで安心して働ける環境作りにつなげることが可能です。

健康診断は正社員だけでいい?パートも必要?

健康診断の対象者は「常時使用する労働者」と定めれています。

この常時使用する労働者については正社員の方が対象になると考えておられる方もおられますが、実はパートやアルバイトであっても該当する可能性があるため注意が必要です。

常時使用する労働者とは、

  • 雇用する期間
    • 雇用期間に定めがない
    • 1年以上の長さで雇用契約を結んでいる(1年以上引き続いて雇用されている実績がある場合も含む)
  • 労働時間数
    • 1週間あたりの労働時間数が通常の従業員の4分の3以上である

このように雇用されている方が対象となります。

そのため、健康診断の実施については正社員やパート・アルバイトのように雇用形態だけで判断しないようにしましょう。

なお、労働時間については4分の3未満であっても、同種の業務に従事する通常の従業員と概ね2分の1以上であるときは、健康診断を実施することが望ましいとされています。

健康診断の種類と診断項目

会社が実施する必要のある健康診断は主に次の種類があります。

健康診断の種類対象者実施するタイミング
雇入時の健康診断常時使用する労働者雇入れの際
定期健康診断常時使用する労働者
※特定業務従事者を除く
1年以内ごとに1回
特定業務従事者の健康診断労働安全衛生規則第13条第1項第2号に掲げる業務に常時従事する労働者該当する業務への配置替えの際および6月以内ごとに1回

雇入時の健康診断とは

雇用する従事者本人の健康状態を把握することと、従事者を配置する部署に対する医学的合理性の確保を目的として実施をします。

診断項目

下記すべての項目について診断する必要があり、検査項目を省略することはできません。

  1. 既往歴及び業務歴の調査
  2. 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
  3. 身長、体重、腹囲、視力、聴力(千ヘルツ、四千ヘルツ)
  4. 胸部エックス線検査
  5. 血圧
  6. 貧血検査(血色素量、赤血球数)
  7. 肝機能検査(GOT、GPT、γーGTP)
  8. 血中脂質検査(血清トリグリセライド、HDLコレステロール、LDLコレステロール)
  9. 血糖検査*1(グルコースの量の検査)
  10. 尿検査(蛋白、糖)
  11. 心電図検査

ただし、従業員本人が自ら健康診断を受診してから3ヶ月以内の場合であって、結果を証明する書面が提出された場合のみ受診済みの項目は省略が可能とされています。

実施するタイミング

雇入れ時の健康診断は、名称にあるように「従業員を雇用(採用)」するときに実施する必要があり、概ね1~3ヶ月以内の実施が目安になります。

なお、通達(昭23.1.16基発第83号、昭33.2.13基発第90号)によると「雇入れの際とは、雇入れの直前又は直後をいうこと」と解釈されていますので、入社前に受診いただくことも可能です。

定期健康診断とは

雇用している従事者が、業務を起因として健康状態に異常がないのか、また生活習慣などで疾病が発生していないのか、問題点の有無を把握するために定期健康診断は実施がされます。

万が一問題があった場合には配置転換や保健指導をすることにより、発症や進行予防することも可能です。

診断項目

雇入れ時の健康診断の項目と同様の項目となります。

実施するタイミング

1年以内ごとに1回、定期に実施する必要があります。

この定期的とは、毎年一定の時期を意味しますので、タイミングについては各企業が適宜決めることが可能です。

特定業務従事者健康診断とは

特定業務従事者健康診断とは、深夜業や騒音を発する場所など、健康に負担の大きな業務を行う従事者が対象となります。具体的には下記のいずれかの業務となりますので、ご確認ください。

  • 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
  • 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
  • ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
  • 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
  • 異常気圧下における業務
  • さく岩機、鋲打機等の使用によつて、身体に著しい振動を与える業務
  • 重量物の取扱い等重激な業務
  • ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
  • 坑内における業務
  • 深夜業を含む業務
  • 水銀、砒素、黄りん、弗化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
  • 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
  • 病原体によつて汚染のおそれが著しい業務
  • その他厚生労働大臣が定める業務

診断項目

診断項目については、雇入れ時の健康診断および定期健康診断の項目と同様になります。ただし、胸部エックス線検査及び喀痰検査については、年1回で良いとされています。

実施するタイミング

対象となる業務に配置転換を行った際や、その後6ヶ月以内毎に1回実施する必要があります。

健康診断の費用は会社負担?従業員の自己負担?

労働安全衛生法等で会社に義務付けられている健康診断の費用は、法律上で健康診断の実施が義務付けられていますので、会社が負担すべきものとされています。

ただし、従業員が法令に定められている項目以上(人間ドックなど)の検診を希望する場合には、従業員の自己負担としても差し支えないでしょう。

健康診断の受診を断る従業員がいる場合の対応は?

今回のコラム記事でご紹介している健康診断は、労働安全衛生法上実施義務があります。そのため、会社だけでなく従業員側にも受診する責任がありますので、その旨を説明しましょう。

万が一、それでも受診拒否をする従業員に対しては懲戒処分の検討も考えられますので、対応策についてご確認ください。

従業員に理由をヒアリング・対応方法を検討

従業員が健康診断を受診しない理由としては

  • 日々の仕事が忙しく、健康診断を受診する時間が確保できない
  • かかりつけ医がいるため、会社が指定する病院に健康診断を受ける必要がないと考えている

上記のような場合が考えられます。業務の都合上、健康診断を受けられないのであれば従業員の上長や責任者と調整を行うなど、会社から一定の配慮を行います。

また、会社が指定する医療機関での健康診断を受けたくない従業員に対しては、本人の希望する医療機関等で健康診断を受診いただき、その結果を提出しても差し支えないことを説明しましょう。

就業規則を確認し、懲戒処分を検討する

それでも健康診断の受診を拒む従業員に対しては、懲戒処分の実施を考えることになります。

ただし、懲戒処分を行うためには

  • 会社として健康診断の受診を促していることを書面などで記録していること
  • 就業規則上に服務規律・懲戒事由が整備されていること

上記が必要になります。また、懲戒処分が問題なく実施ができたとしても、思わぬ労務トラブルを招く可能性がありますので、専門家に相談をしながら慎重に進めることをオススメいたします。

まとめ

健康診断の実施は、会社の規模や業種によらず実施する必要があります。とはいえ、最後にご紹介しましたように、健康診断を拒否される場合も考えられます。

健康診断が実施できないと「50万円以下の罰金」に処される場合があります。そのため健康診断については就業規則などでしっかりとルール化しておき、従業員に周知しておきましょう。

社会保険労務士法人ステディでは、労務トラブルを未然に防止する就業規則の作成・整備を得意としていますので、お気軽にご相談ください。

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