雇用契約と業務委託契約の違いとリスクとは?社会保険・雇用保険の観点から会社が知るべきこと

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企業が人材を活用する際、「雇用契約」と「業務委託契約」のいずれを選択するかは、労務管理や法的リスク、コスト構造に大きな影響を与える重要な判断です。

一見似たように思えるこれらの契約形態ですが、実際には適用される法律や社会保険・雇用保険の義務、業務指示の範囲などに明確な違いがあること、ご存知でしょうか。

特に、社会保険や雇用保険の適用を誤ると、後々の追徴リスクや労務トラブルにつながりかねません。今回のコラム記事では、雇用契約と業務委託契約の違いを社会保険・雇用保険の観点から整理し、企業が契約形態を選ぶ際に押さえておくべきリスクとポイントについて詳しく解説します。

「契約書は交わしているから安心」と思い込まず、実態に即した正しい運用ができているか、今一度確認することが重要ですので、ぜひご一読ください。

雇用契約と業務委託契約の基本的な定義と特徴

企業が個人と契約を結ぶ際、「雇用契約」と「業務委託契約」は代表的な2つの契約形態です。

それぞれの契約には法的な根拠と異なる特徴があり、業務の内容や指揮命令の範囲に応じて適切に選択する必要がありますので、まずはそれぞれの契約形態の定義と特徴を明確にし、混同しがちなポイントを整理していきましょう。

雇用契約とは?

雇用契約は民法第623条で定められており、労働者が使用者(企業や個人)の指揮命令の下で労働に従事することを約束し、使用者がその対価として賃金(給与)を支払うことを約束する契約です。

雇用契約の主な特徴は以下の通りです

項目特徴
契約の目的労働力の提供そのもの
指揮命令関係あり
(使用者が労働者に対して、勤務時間、勤務場所、業務遂行方法などに具体的な指示を出す)
労働法規の適用あり
(労働基準法、労働契約法などの保護を受ける)
報酬原則として労働時間を基準に支払われる(賃金)
税金・保険使用者が源泉徴収や年末調整を行い、契約内容によっては社会保険・労働保険の加入義務がある
責任労働者は使用者の指揮命令に従い、業務を遂行する義務を負う

このように、労働者の保護を前提とした制度であるため、企業には多くの義務と責任が伴います。

業務委託契約とは?請負/委任/準委任の違い

業務委託契約は、法律上の特定の定義があるわけではなく、企業が業務の一部または全部を外部の企業や個人(フリーランスなど)に委託する際に結ぶ契約全般の総称です。民法上の「請負契約」「委任契約」「準委任契約」のいずれかに該当します。

業務委託契約は、以下の3つの民法上の契約形態に分類されます。

種類目的報酬が発生する基準
請負契約
(民法632条)
仕事の完成(成果物の納品)仕事が完成し、成果物が納品されたこと
委任契約
(民法643条)
法律行為の事務処理を遂行すること依頼された業務を遂行したこと(成果の有無は問わない)
準委任契約
(民法656条)
法律行為ではない事実行為の事務処理を遂行すること依頼された業務を遂行したこと(成果の有無は問わない)

また、主な特徴は以下の通りです

項目特徴
契約の目的仕事の完成(成果物) または 特定の業務の遂行
指揮命令関係なし(受託者は独立した事業者として、業務の進め方や作業時間などを自身の裁量で決定する)
労働法規の適用なし(労働法の保護を受けない)
報酬契約内容に基づき、成果物や業務の遂行に対して支払われる(報酬/外注費)
税金・保険原則として受託者が確定申告などを行い、社会保険・労働保険の加入義務は原則ない
責任受託者は契約内容に基づき、業務を遂行し、成果物を納品する義務を負う

業務委託契約はコストの変動リスクを回避できる一方で、契約内容の明確化と成果管理が極めて重要になります。

名義だけ業務委託でも実態で判断される「雇用契約」となるケース

契約の名称が「業務委託契約」であっても、その実態が雇用契約における「使用従属性が強いと判断された場合、法律上は雇用契約(労働契約)とみなされる場合があります。

この判断基準は、労働者性(労働基準法上の労働者として保護されるか否か)の有無を判断するために用いられます。

  • 指揮監督の有無に関する判断要素
    • 業務遂行上の指揮監督がある:発注者(会社)が、業務の遂行方法、時間配分、手順などについて具体的に指示している。
    • 諾否の自由がない:発注者からの仕事の依頼や業務指示を、受託者(働く側)が自由に拒否できない。
    • 拘束性が高い:勤務場所や勤務時間が指定され、その拘束性が強い(事実上の出勤義務がある)。
  • 報酬の労務対償性に関する判断要素
    • 勤怠管理がある:勤怠管理がタイムカードや日報で行われている
    • 欠勤控除がある:休んだ時間や日数に応じて報酬が減額されている。

これらの要素を総合的に考慮し、「指揮監督下の労働」であり「報酬が労働の対価」として支払われている実態が強ければ、形式的な契約名義にかかわらず労働者と認定され、労働基準法などの保護が適用されます。この場合、企業は労働法規に基づく責任(残業代の支払い、有給休暇の付与、社会保険の加入など)を負うことになります。さらに、労災事故が発生した場合には企業側が重い責任を問われることにもなりかねません。

形式よりも実態が重視されるという点を企業として正しく理解し、契約内容と運用実態の整合性を常に確認しておくことが求められます。

社会保険と雇用保険の適用範囲の違い

契約形態によって、企業に課される社会保険・雇用保険の加入義務は大きく異なります。

誤った取り扱いをしていると、後から多額の保険料を遡って徴収されるリスクがあるため、制度の基本と契約ごとの違いをしっかり理解しておく必要があります。ここでは、それぞれの契約形態における保険制度の適用範囲と、例外的に対象となるケースについて詳しく見ていきましょう。

雇用契約における社会保険・雇用保険の基本知識

雇用契約(正社員、契約社員、パート、アルバイトなど)で働く労働者は、原則として以下の保険の適用対象となります。

  • 健康保険・厚生年金保険
    • 強制適用事業所(法人事業所など)に雇用され、以下のいずれかに該当する者。
      • 正社員・フルタイム労働者。
      • 短時間労働者(パート・アルバイト)の場合
        • 勤務時間及び日数が正社員の4分の3以上である者
        • 以下のすべての条件を満たす者(2024年10月以降、企業規模によって条件が異なる場合あり)。
          • 週の所定労働時間が20時間以上
          • 2ヶ月以上の雇用の見込みがある
          • 月額賃金が8.8万円以上
          • 学生ではない
  • 雇用保険
    • 週20時間以上勤務し、31日以上の雇用見込みがある場合

各種保険料は企業と労働者が折半で負担し、企業側には保険料の徴収・納付義務が生じます。また、企業は適切な届出を行う義務を負っており、怠ると行政指導や罰則の対象となることもあります。

業務委託契約者の保険加入義務と選択肢(国民健康保険/国民年金など)

業務委託契約者(フリーランス、個人事業主)は、企業との間に雇用関係がないため、原則として労働者とはみなされません。

したがって、企業が保険料を折半・負担する社会保険(健康保険・厚生年金保険)や雇用保険の加入義務はありません

業務委託契約者は、独立した事業者として、以下の公的保険に自ら加入・手続きを行います。

制度加入義務保険料負担
国民健康保険義務(職場の健康保険加入者などを除く)全額自己負担
国民年金義務(20歳以上60歳未満)全額自己負担

ただし、任意的な手続きが多く、加入漏れが起きやすいため、委託者に対して保険制度の説明や注意喚起を行うことも、企業としての信頼維持に寄与するといえるでしょう。

業務委託でも「雇用保険等が対象になる」可能性のあるケースと基準

形式的に「業務委託契約」を結んでいても、その実態雇用契約(労働者)と判断される場合は、労働者として社会保険や雇用保険の適用対象となる可能性があります。

これは、契約の名称に関わらず、「使用従属性」(企業に指揮監督され、労働力を提供している度合い)が強いかどうかで判断されます。

労働者と判断される主な基準としては、

  • 業務遂行上の指揮監督の有無
    • 具体的な指示がある:業務の進め方や場所、時間などについて、委託元から詳細な指示を受けている。
    • 諾否の自由がない:仕事の依頼を自由に断ることができない。
  • 時間的・場所的拘束性の有無
    • 勤務時間の管理:始業・終業時刻が指定され、遅刻や早退がチェックされるなど、従業員と同様の管理を受けている。
    • 勤務場所の指定:常に委託元のオフィスで勤務することが義務付けられている。
  • 報酬の労務対償性(労働に対する対価性)
    • 時間給に近い:成果物ではなく、働いた時間に応じて報酬が支払われている。
    • 欠勤時の控除:休んだ時間や日数に応じて報酬が減額される。
  • 事業者性の有無
    • 専属性:他社の仕事を受けることが制限・禁止されている。

結論として、業務委託契約であっても、実態として上記のような強い「指揮監督関係」や「労働時間に対する対価性」が認められれば、企業は法律に基づき、その契約者を労働者として雇用保険や社会保険に加入させる義務が生じます。

企業としては、契約書上の文言だけでなく、業務実態との整合性を重視した運用が不可欠です。万が一のリスクを回避するためには、社内の労務管理体制の見直しと、定期的な契約内容の確認が推奨されます。

判断基準:どちらの契約形態になるかの見分け方

前述のとおり、契約が「業務委託契約」であったとしても、実態が「雇用契約」とみなされるケースは少なくありません。

契約形態は、名称ではなく業務の実態により総合的に判断されます。ここでは、契約形態を見分けるための主要な判断基準について、厚生労働省や裁判例に基づき整理します。

使用従属性・指揮命令関係の有無

契約形態を見極める上で、最も重視されるのが「使用従属性」、すなわち企業側の指揮命令に従って働いているかどうかという観点です。

雇用契約に該当する場合、労働者は企業の管理下に置かれ、業務内容、手順、納期などについて明確な指示を受けるのが一般的です。また、上司や担当者から日常的に業務指示を受けているか、報告義務や指示への従属が日常的に求められているかどうかも重要な判断材料となります。

一方、業務委託契約の場合は、業務の遂行方法や時間配分、手順について原則として受託者の裁量に委ねられます。

成果さえ満たしていれば、プロセスに企業側が干渉することはできず、受託者が自らの判断で業務を完了させる自由がある点には、注意が必要です。したがって、企業側が日常的に業務を細かく指示しているようであれば、形式的には業務委託契約でも、実質的には雇用契約と判断されるリスクが高まるでしょう。

勤務時間・場所・代替性などの拘束性

契約形態の判断には、勤務時間や場所、業務の遂行に関する自由度の有無も大きく影響します。

雇用契約の場合、勤務時間が明確に定められ、始業・終業時刻が企業によって管理されていることが一般的です。勤務場所についても、企業の事業所などが指定され、在宅勤務などを自由に選べるわけではないケースが多く見られます。さらに、業務を遂行するのは契約当人であることが前提とされ、他者への再委託や代替は原則として認められていません。

これに対して、業務委託契約においては、業務を遂行する時間や場所に関して受託者の自由度が高く、リモートワークや柔軟なスケジュール調整が可能です。また、受託者が他の事業者やフリーランスに業務を再委託することも契約次第で許容される場合があります。

このように、拘束性の強弱は雇用契約か業務委託契約かを見分ける重要な手がかりとなり、企業による過度な管理や拘束がある場合には、形式よりも実態を優先して雇用関係と判断されるおそれがあります。

報酬形態・業務の成果/完成義務の有無

報酬の支払い方や、業務における成果責任も、契約の性質を判断する上で欠かせない視点です。

項目雇用契約(労働契約)の要素業務委託契約の要素
契約の目的労働力の提供
(労務の提供そのもの)
仕事の完成(成果物の納品)
または業務の遂行
報酬の対価労働力の提供に対する対価成果物の納品 または 業務遂行行為そのもの
報酬形態の原則時間給または月給(賃金)。
原則として労働時間に基づき支払われる。
成果報酬(請負)
または期間・工数報酬(委任/準委任)。
成果(完成)義務原則なし。
決められた時間、場所で労働を提供すれば、成果の有無にかかわらず賃金が支払われる。
あり
(契約の種類による)。
成果義務の種類該当なし請負契約:仕事の完成義務(成果物の納品)がある。委任・準委任契約:業務を遂行する義務(善管注意義務)があるが、成果の完成義務はない。
報酬と欠勤の関連欠勤・遅刻などにより働かなかった時間分は報酬(賃金)が控除される(労働の対償性)。業務の進め方や時間管理は受託者の裁量であり、欠勤による報酬控除は原則発生しない。
瑕疵担保責任/契約不適合責任該当なし
(労働者として負う責任とは異なる)
あり。
特に請負契約では、納品した成果物に契約内容と異なる点(瑕疵)があった場合、修補や損害賠償などの契約不適合責任を負う。

このように、業務成果への責任と、報酬の条件がどこに置かれているかは、契約の本質を見極める大きな手がかりとなります。

ただし、判断基準は単独で用いるのではなく、総合的に見てどちらの性質が強いかが最終的な判断ポイントとなります。企業としては、形式だけでなく運用実態との整合性を重視し、必要に応じて専門家と連携することがリスク回避の鍵となるでしょう。

メリット・デメリットを会社の視点で比較

企業が人材を活用する際、雇用契約と業務委託契約のどちらを選ぶかは、コスト、管理負担、法的リスクに大きく影響します。

それぞれに明確なメリットとデメリットがあるため、単にコスト面だけで判断するのではなく、長期的な事業運営や法令遵守の観点からも総合的に検討することが重要です。

雇用契約のメリットとコスト・リスク

雇用契約の最大のメリットは、安定した労働力を企業が長期的に確保できる点にあります。

社員は企業文化や組織体制に深く関与しやすく、教育・育成を通じてスキル向上や業務の標準化が期待できます。また、職場に対する帰属意識が高まりやすく、チームワークを前提としたプロジェクトにも柔軟に対応しやすくなるでしょう。

一方で、コスト面の負担は小さくありません。

給与だけでなく、社会保険料の事業主負担、交通費、賞与、福利厚生などが発生し、固定費として企業の財務を圧迫する可能性があります。さらに、労働関係法令に基づく各種手続きや義務(有給休暇の付与、時間外労働の管理など)も発生し、コンプライアンス管理が不可欠です。

リスクとしては、労働者との関係性が悪化した場合の訴訟リスク、解雇に関する制限、長期休業時の対応などが挙げられます。これらを適切に管理するには、労務管理体制の整備が欠かせません。

業務委託契約のメリットとコスト・リスク

業務委託契約の大きなメリットは、必要な業務を必要なときに柔軟に外部人材へ依頼できる点です。

契約期間や業務範囲を明確に定めることで、プロジェクト単位のコスト管理が可能となり、人的リソースの最適化につながります。また、社会保険や雇用保険の負担が原則不要なため、固定費を抑えやすい点も企業にとって魅力です。

ただし、リスクも存在します。

委託先が期待通りの成果を出さなかった場合や、納期・品質に問題があった場合、直接的な業務指揮ができない分、企業側のコントロールには限界があります。

また、業務内容が曖昧だったり、指揮命令が強くなりすぎたりすると、契約の実態が「雇用」とみなされ、過去に遡って保険料や賃金の支払いを命じられるケースも考えられます。契約書の整備とともに、実際の業務運用も慎重に進める必要があります。

法令遵守・労務トラブル回避の観点での注意点

近年、労働局や社会保険事務所による調査が厳格化しており、「契約書では業務委託」と記載されていても、実態が雇用であれば、企業は法的な責任を問われるケースが増えています。

特に、「偽装請負」と指摘された場合は、過去2年分の保険料支払いや労働関係法令違反による行政指導を受ける可能性があり、企業の信用や経営に重大なダメージを及ぼします。

そのため、法令遵守の観点では、契約形態に応じた適切な業務設計と、日常的な運用の整合性が不可欠です。契約締結前には、業務の指揮命令や勤務管理の方法、報酬の支払い基準などを精査し、必要に応じて専門家(社労士・弁護士など)と連携して内容を検討することが望ましいでしょう。

労務トラブルは未然に防ぐことが最も効果的な対応策です。契約後の運用が形式と矛盾していないか、定期的に見直しを行い、法的リスクの最小化を図ることが、持続可能な人材活用戦略の鍵となります。

実務対応と制度・法令の動向について

働き方の多様化が進むなかで、契約形態に関する労務管理の重要性は年々増しています。

行政による監査強化や制度改正の動きも活発化しており、企業は形式的な契約書の整備にとどまらず、運用実態との整合性を確保する体制を整えることが求められています。ここでは、現場で押さえるべき書類上のポイントと、トラブルを未然に防ぐための内部体制について解説します。

契約書・就業条件通知書などの明記すべき事項

契約書類は、後のトラブルを防止する上での「法的な証拠」となる非常に重要な書類です。

労働条件通知書は、労働基準法により、使用者(会社)が労働者に対して、採用時に必ず交付しなければならないと義務付けられている書面であり、下記の内容は必ず明示する必要があります。

  • 労働契約の期間
  • 就業場所および業務内容
  • 始業・終業時刻、休憩、休日等の労働時間に関する事項
  • 賃金の決定・支払い方法・締切・支払日
  • 退職に関する事項

一方、業務委託契約においては、民法上の契約自由の原則があるため、法定の様式はありませんが、次のような項目を盛り込むことがリスク回避につながります。

  • 業務内容および遂行方法の自由度
  • 成果物の定義と納期
  • 報酬額および支払条件
  • 契約期間と解除条項
  • 機密保持・競業避止・再委託の可否など

契約書には、「業務の独立性」や「指揮命令関係がないこと」を明記し、雇用関係と誤解されない文言を明確に記載することが重要です。実態が契約内容に一致していることが、後のトラブル時の防衛線となります。

トラブル回避のための監査・内部チェック体制

書面上の整備に加え、実際の運用状況が契約内容と一致しているかを社内で定期的にチェックする体制づくりも欠かせません。

特に、以下のようなポイントについて内部監査やチェックリストを用いた定期的な確認が推奨されます。

  • 業務委託者に対し、勤務時間や作業場所を実質的に指定していないか
  • 報酬の支払いが成果物ベースになっているか(時給・日給になっていないか)
  • 指揮命令や業務指示が常態化していないか
  • 契約期間が不当に長期化しておらず、更新のたびに見直しが行われているか

加えて、2024年以降、厚生労働省や年金事務所などが偽装請負の是正に向けた調査を強化しており、企業が監査対象になるリスクも増しています。これに備え、社内の人事・法務・経理部門が連携し、契約の一元管理や文書保管、対応履歴の記録などを徹底することが求められます。

さらに、第三者による労務監査(社労士・外部コンサル等)の導入も有効です。専門家の視点での契約チェックを定期的に行うことで、形式と実態の乖離を早期に発見・是正することが可能になります。

会社が取るべきアクションプラン

雇用契約と業務委託契約の違いを理解した上で、企業として最も重要なのは「実態と契約が一致しているか」を定期的に確認し、必要に応じて是正措置を講じることです。

ここでは、企業が今すぐに取り組むべき実践的なアクションプランを、チェックリストと対応ステップに分けて紹介します。

現状の契約を棚卸すチェックリスト

まずは、自社内で結ばれているすべての雇用契約・業務委託契約について棚卸しを行い、以下のような観点で確認しましょう。

  • 契約書の内容が最新かつ明確に記載されているか
  • 契約と実際の勤務実態(指揮命令・勤務時間・報酬形態など)が一致しているか
  • 雇用契約なのに「業務委託契約書」が用いられていないか
  • 業務委託契約者の中に、実質的に社員と同じ働き方をしている人はいないか
  • 保険の加入状況(厚生年金・健康保険・雇用保険)が適正か
  • 契約更新・再契約の際に内容を見直しているか

このようなチェックを定期的に行うことで、リスクの芽を早期に発見し、トラブルを未然に防ぐことができます。

契約形態変更・保険加入対応のステップ

実態調査の結果、契約形態の見直しが必要となった場合は、以下のステップで対応を進めるとスムーズです。

  1. 該当者の業務内容・勤務条件を再確認
    • 実態が雇用である場合、契約形態の変更が必要。
  2. 対象者との合意形成と契約書の再作成
    • 新たに雇用契約を締結する場合は、就業条件通知書の交付を忘れずに。
  3. 社会保険・雇用保険の加入手続き
    • 加入基準を満たす場合は速やかに届け出を行い、保険料負担を開始。
  4. 社内説明・関係者への周知
    • 勤務形態や報酬体系の変更について、社内での誤解を防ぐために説明を徹底。
  5. 労務管理体制の再構築
    • 契約更新時のルールや定期監査体制を整備することで再発防止へ。

制度変更は慎重な対応が求められますが、早期に適切な措置を講じることが、将来的な訴訟リスクや行政指導の回避につながります。

社内規程整備・法務/社会保険専門家との連携

最後に、制度的な裏付けとして、社内規程の整備や外部専門家との連携体制を築くことが重要です。

  • 就業規則や契約ルールを最新の法令に基づき見直す
  • 契約類型ごとに社内マニュアルを策定し、人事・現場間の認識を統一する
  • 社会保険労務士(社労士)や弁護士と顧問契約を結び、随時相談できる体制を整備
  • 労務監査や契約審査を第三者に委託し、客観的なチェックを受ける

こうした体制が整っていれば、突発的なトラブルが発生した際にも、迅速かつ法的根拠に基づいた対応が可能となります。形式と実態のズレを見逃さず、契約管理の透明性と整合性を高めることで、持続可能な人材活用と法令遵守の両立が実現できるでしょう。

業務委託契約・雇用契約に関してよくある疑問

契約形態をめぐる実務では、書面上の取り決めだけでは解決できないグレーゾーンが存在し、多くの企業が判断に迷う場面があります。ここでは、実際に企業から多く寄せられる質問とその対応方針について、専門的な観点から解説します。

「業務委託だから保険料負担がない」は本当に安全なのか?

結論から言えば、「契約書に業務委託と書かれているから保険料負担の義務はない」と安心するのは極めて危険です。社会保険や雇用保険の適用判断は契約書の記載ではなく、実際の業務実態に基づいて行われます。

たとえば、勤務時間が固定されていたり、企業から日常的に業務指示を受けていたりする場合、形式が業務委託であっても、行政機関から「実質的な雇用関係」と判断される可能性があります。その結果、過去に遡って保険料の徴収や是正勧告を受けるケースも少なくありません。

したがって、「保険料を回避するための業務委託」はリスクが高く、契約形態はコストではなく業務の実態に基づいて選定すべきです。

雇用保険・社会保険料の過去分遡及リスクはあるのか?

実態が雇用と判断された場合、最大で2年間分の社会保険料および雇用保険料を遡って請求されるリスクがあります。

これには事業主・被保険者の双方の負担分が含まれ、企業にとっては予想外の財務負担となり得ます。

また、悪質なケースでは労働基準監督署から是正勧告や、労災隠しとみなされる恐れもあります。さらに、労働者側が訴訟を起こし、未払い賃金や残業代の請求に発展することも考えられるでしょう。

このような遡及リスクを回避するためにも、契約内容と運用実態の乖離を放置せず、定期的な契約見直しと専門家のチェックが欠かせません。

フリーランス契約者から社会保険や雇用保険への加入を求められたらどう対応すべき?

フリーランス(業務委託)契約で働く個人が、「雇用保険に入りたい」と申し出てきた場合、それだけで企業に加入義務が生じるわけではありません。しかし、その申し出の背景には、実態として雇用に近い働き方をしているという認識がある可能性があります。

このようなケースでは、まずは当該業務の内容、勤務形態、報酬体系などを客観的に見直し、本当に業務委託契約として成立しているかを確認する必要があります。

もし実態が雇用に該当すると判断されれば、契約の変更および雇用保険の加入手続きを行うことが求められます。

逆に、実態が業務委託に適しているのであれば、保険適用外であることを文書で丁寧に説明し、委託者本人が国民健康保険・国民年金に加入すべきことを案内するのが適切な対応です。曖昧な状態を放置せず、明確な判断と記録を残しておくことがトラブル予防につながります。

まとめ:契約形態の正しい理解と対応が企業の健全経営を支える

雇用契約と業務委託契約は、法的性質・保険制度・企業責任が大きく異なるため、その選択と運用を誤ると重大な法令違反や金銭的リスクに発展するおそれがあります。

本記事では、それぞれの契約形態の基本的な違いから、社会保険・雇用保険の適用範囲、実態に基づく判断基準、企業視点でのメリット・デメリット、さらに実務対応のチェックポイントまでを包括的に解説しました。

重要なのは、「契約書の文言」ではなく、「実際の業務実態」が優先されるという点です。企業は形式だけに頼ることなく、日常的な管理体制の見直しと、継続的な契約の棚卸しを行うことで、法令遵守と柔軟な人材活用の両立を目指すべきでしょう。

社会保険労務士法人ステディでは、企業様の契約管理・社会保険対応・労務トラブル防止に関するご相談を専門的に承っております。現状の契約内容の確認や、リスクの洗い出し、制度対応のアドバイスなど、初回のご相談も丁寧に対応いたします。

「これって雇用? 業務委託?」と判断に迷う場面がありましたら、ぜひお気軽に社労士へご相談ください。専門家の視点から、御社の健全な労務運営をサポートいたします。

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