突然、労働基準監督署(労基署)の職員が会社を訪れ、「通報を受けて調査に来ました」と告げられた――そんな状況に直面したら、経営者や労務担当者はどう対応すべきでしょうか。
労基署からの調査は、従業員や第三者からの内部通報を受けて行われるケースが多く、対応を誤ると企業イメージの悪化や行政指導、最悪の場合は送検に至ることもあります。
本記事では、労基署に通報があった場合に会社が取るべき具体的な対応と、事前に準備しておくべき対策について、専門家の視点からわかりやすく解説します。トラブルを未然に防ぎ、健全な労務管理体制を構築するための参考にしてください。
労働基準監督署に通報された会社がまず確認すべきこと
労基署からの突然の調査は、多くの企業にとって想定外の出来事です。しかし、慌てずに冷静な対応を取ることで、事態の悪化を防ぐことができます。
まずは通報の内容と自社の法令遵守状況を正確に把握し、問題のリスクレベルを客観的に評価することが重要ですので、調査に対して企業が最初に行うべき確認事項をご紹介いたします。
通報内容の把握:何が問題で・いつ通報があったのか
最初にすべきことは、「通報の中身を把握すること」です。労基署は通報者の個人情報を明かしませんが、調査のきっかけとなった事案については、調査の概要から判断することができます。
たとえば、
- どのような内容が通報されたのか(例:長時間労働、未払い残業、ハラスメントなど)
- いつ頃の出来事か
- 複数の通報が重なっていないか
この段階で事実関係に心当たりがある場合は、速やかに情報を収集し、状況把握を進めましょう。逆に、全く心当たりがない場合でも、隠蔽的な対応は厳禁です。調査には誠実に協力する姿勢が求められます。
社内の法令遵守状況の棚卸し:労働基準法/安全衛生法/その他関連法規
通報された事項だけでなく、関連する他の法令遵守状況も同時に確認することが、監督署の立ち入り調査に備えるための最善の防御になります。監督官は、通報内容以外にも不審な点があれば調査範囲を広げるからです。
| 法令・項目 | 具体的な確認ポイント |
|---|---|
| 労働時間・賃金 (労働基準法) | 🔸 残業代の計算と支払いに間違いはないか(特に割増率)。 🔸 サービス残業が発生していないか、勤怠記録と業務実態が一致しているか。 🔸 休憩・休日(週1日または4週4日)が適切に付与されているか。 |
| 就業規則・契約 | 🔸 就業規則が従業員に周知されているか。 🔸 労働契約書や雇用条件通知書の内容が法令に準拠しているか。 |
| 安全衛生管理 (安全衛生法) | 🔸 健康診断の実施と、結果に基づく事後措置(医師の意見聴取など)は適切か。 🔸 産業医の選任と、長時間労働者への面接指導は実施されているか。 🔸 危険な作業場や設備について安全管理体制が整っているか。 |
| ハラスメント | 🔸 パワハラ、セクハラ、マタハラに対する相談窓口が機能し、周知されているか。 |
特に中小企業では、「制度はあるが実態が伴っていない」というケースが少なくありません。この機会に、実務と法令のギャップを洗い出し、改善の優先順位をつけることが肝要です。
リスクの程度を見極める:軽微な違反か重大事案か
法令違反と一口に言っても、そのリスクの程度はさまざまです。労基署の対応も、軽微な指導レベルから、是正勧告、送検に至る重大事案まで幅があります。自社におけるリスクの深刻度を正確に判断するためには、以下の視点が重要となります。
| リスクの程度 | 具体的な事案の例 | 対応の緊急度 |
|---|---|---|
| 重大事案(高リスク) | 未払い賃金の額が大きい(数千万円単位)。過労死ラインを超える長時間労働が常態化している。 不当解雇や業務上の重篤な労働災害が発生している。 | 極めて高い。 直ちに外部の弁護士や社労士に相談し、是正計画を立てる。 |
| 中程度 | わずかな計算ミスによる残業代の未払い。 就業規則の記載不備。 休憩時間の付与方法に解釈の余地がある。 | 高い。 迅速に正確な事実を確認し、是正措置(支払い、規則改定など)の準備に入る。 |
| 軽微 | 単純な書類の整理不備(従業員名簿の記載漏れなど)。 労働条件通知書の交付時期が遅れた。 | 通常。 速やかに是正措置を講じ、是正の証拠を整える。 |
たとえば、「一部社員に対する残業代の未払い」が意図的でなく、金額も軽微であれば、是正指導で済む可能性があります。一方で、「恒常的なサービス残業」「重大な労災隠し」などは、企業全体のコンプライアンス体制が問われ、刑事責任に発展する恐れもあるでしょう。
適切なリスク評価のためには、社会保険労務士や労務専門の弁護士と連携し、第三者の視点での検証を行うことも有効です。
労働基準監督署が突然来る“立ち入り調査(臨検)”の流れと特徴
労働基準監督署の立ち入り調査、いわゆる「臨検監督」は、企業にとって重大な行政対応のひとつです。
とりわけ、事前の連絡もなく突然行われるケースでは、現場が混乱しやすく、対応を誤ると余計な疑義を招く可能性もあります。そのため、あらかじめ調査の基本的な流れと分類、調査官の目的を理解しておくことが、冷静な対応につながります。
立ち入り通知の有無とその意味
労基署の立ち入り調査には、「予告型」と「無予告型」があります。
予告型は、調査予定日が事前に文書または電話で通知されるケースで、通常は定期的な監督や労働時間の是正指導などが目的とされます。
一方、無予告型は、通報や労災発生といった緊急性の高い事案に基づき、調査当日に突然訪問されるもので、より深刻な問題が疑われている可能性が高いと言えるでしょう。
この通知の有無によって、調査の緊張感や調査官の姿勢も大きく異なります。無予告型の場合、調査官が最初から現場の実態に踏み込む意図を持っており、証拠隠滅や形だけの整備を防ぐ狙いがあるのが特徴です。
調査当日の主なプロセス:書類提出・担当者聴取・現場調査
立ち入り調査の当日は、まず調査官が身分証を提示し、会社の代表者または人事・労務担当者に対して調査の趣旨を説明します。その後、直ちに必要書類の提出が求められます。一般的に、労働条件通知書、賃金台帳、出勤簿、就業規則、36協定届などが確認対象となります。
次に、調査官は労務管理の実態を把握するため、担当者に対して詳細なヒアリングを行います。労働時間の管理方法や残業代の支払状況、休憩・休日の取り扱い、労働災害の発生有無など、質問は多岐にわたります。場合によっては、従業員本人への個別聞き取りが行われることもあります。
また、調査官が社内の執務スペースや休憩所、タイムレコーダーの設置場所などを実際に確認する「現場調査」が実施されることもあります。これにより、書面上と実態との乖離がないかをチェックしているのです。
定期監督・申告監督・呼び出し調査・再監督の違い
労基署の調査にはいくつかの種類があり、それぞれ目的や進行の仕方が異なります。
まず「定期監督」は、特定業種や中小企業を対象とした定期的な労務監査で、予防的な意味合いが強いものです。通知が事前に行われることが多く、比較的協力的な姿勢が評価されやすい傾向にあります。
一方、「申告監督」は、労働者などからの通報・申告を契機に実施されるもので、調査官が違反の有無を確認するために臨検を行います。無予告で行われることが多く、是正指導や勧告につながりやすい性質を持っています。
また、「呼び出し調査」は、立ち入りではなく企業側を労基署に呼び出して聴取・書類提出を求める形式で、比較的軽微な事案や確認目的で行われます。
「再監督」については、過去に是正指導があった企業に対して、その後の改善状況を確認するために行われる調査です。前回の指導内容に対して適切な対応がなされていない場合、より厳しい措置が取られる可能性があるため注意が必要です。
このように、調査の種類によって企業のリスクレベルや対応の緊急度も大きく異なります。日頃から法令遵守の体制を整えておくことが、すべての場面において共通する最善の備えといえるでしょう。
会社の具体的な対応ステップ
労働基準監督署の調査に直面した際、企業は段階を踏んだ対応が求められます。
場当たり的な対応ではなく、正確かつ誠実な対処をすることで、企業の信頼性を保ち、不要なリスクを回避することが可能ですので、調査を受けた企業が実施すべき具体的な対応ステップを順を追ってお伝えいたします;
①書類・帳簿の準備:勤怠・賃金・雇用契約・36協定等
調査の初動としてまず求められるのが、各種労務関係書類の提出です。
これには、社員の出勤簿やタイムカード、賃金台帳、雇用契約書、そして36協定届などが含まれます。とくに重要なのは、「形式的に整っているか」ではなく、「実態と整合しているか」という点です。
たとえば、出勤簿と賃金台帳の内容が一致していなければ、「残業代の未払い」や「労働時間の隠蔽」とみなされかねません。
また、36協定が未締結または未提出である場合、時間外労働そのものが違法となる可能性があります。これらの資料は、調査官からの提示要求があった時点で即座に提出できるよう、日頃から整備・管理しておくことが肝要です。
②担当者の対応姿勢: 誠実さと協力的な態度
調査当日の対応者の姿勢も、調査結果に大きく影響します。
調査官は書類の整備状況だけでなく、企業の「法令遵守に対する姿勢」も重視します。質問に対して曖昧な受け答えをしたり、不自然に防御的な態度を取ったりすれば、かえって疑念を招く可能性があるため注意が必要です。
基本的には、調査官の質問には正確に、かつ誠実に回答することが求められます。分からないことがあればその旨を伝え、後日改めて回答する旨を伝えるなど、冷静で協力的な対応が望まれます。虚偽や隠蔽は、最も厳しく処分される原因となりますので、注意してください。
また、調査対応には人事・労務部門の経験者、または社会保険労務士など専門家が同席することで、不要な誤解や過度な不安を避けることができます。
③指摘事項への是正計画の策定と実行
調査の結果、何らかの法令違反が確認された場合には、「是正勧告書」または「指導票」が交付されます。
| 種類 | 是正勧告書 | 指導票 |
|---|---|---|
| 指摘内容 | 法令違反(違法状態) | 改善が望ましい事項(予備軍) |
| 効力とリスク | 違反状態の放置は**送検(刑事罰)**のリスクがある | 法令違反ではないが、放置すると是正勧告書に切り替わる可能性 |
| 最優先の対応 | 即座に違法状態を解消し、是正報告書を提出 | 指摘事項を真摯に受け止め、改善計画に基づき対応、報告 |
この文書には具体的な違反内容と、その改善期限が記載されており、企業側はこれに基づいて是正措置を講じなければなりません。
是正計画の策定において重要なのは、単なる形式的な修正ではなく、再発防止を見据えた根本的な改善策を盛り込むことが求められます。例えば、未払い残業が問題であれば、勤怠管理システムの見直しや管理職向けの教育体制の強化など、制度面・運用面の両方から見直しを図る必要があります。
また、改善の進捗や実施状況を社内で共有し、全社的なコンプライアンス意識の向上につなげる取り組みも併せて行うとよいでしょう。
是正後の報告書提出と再監督の備え
是正措置が完了したら、その内容を「是正報告書」として所定の書式にまとめ、労働基準監督署へ提出します。この報告書では、具体的にどのような措置を講じたのか、いつ実行したのか、再発防止策はどうなっているかなどを明確に記載する必要があります。
提出後、労基署が必要と判断した場合には「再監督」が実施されることもあります。
この際、以前と同様の違反が再発していれば、より厳しい行政処分や送検がなされるリスクが高まります。したがって、報告書提出で終わりにするのではなく、是正内容が実際に職場に根付いているかどうかを継続的に確認していく姿勢が不可欠です。
労基署とのやり取りは、単なる行政対応にとどまらず、自社の労務体制を再構築する契機と捉えるべきでしょう。その視点を持つことが、健全な組織運営への第一歩となります。
労基署の調査対応でやってはいけないこととそのリスク
労働基準監督署の調査において、企業の対応姿勢は調査結果に直結する極めて重要な要素です。
とくに、調査そのものを軽視したり、違反行為を隠そうとする行動は、かえって企業にとって致命的なリスクをもたらすことがあります。以下では、絶対に避けるべき対応と、それに伴う法的・社会的リスクについて詳しく解説します。
調査を無視・拒否・妨害することの法律的リスク
労働基準監督官は、「労働基準法第101条」に基づき、企業に対して立ち入り調査を行う権限を有しています。この調査に対して、出入りを拒否したり、調査を妨げる行為を行った場合、同法第120条により「30万円以下の罰金」が科される可能性があります。
さらに、こうした行為は「調査から何かを隠している」という印象を与え、調査官の警戒を強める結果にもつながります。仮に重大な違反が見つかれば、通常よりも厳格な対応が取られる恐れがあるため、調査への協力は企業の信頼を守る上でも極めて重要です。
調査は決して敵対的なものではなく、法令遵守の機会と捉えるべきです。誠実な対応こそが、企業リスクを最小限に抑える最善の方法と言えるでしょう。
虚偽の説明・書類改ざん・隠蔽のリスク
調査対応で最も重大な禁止行為のひとつが、「虚偽の説明」や「書類の改ざん」、「事実の隠蔽」です。
これらの行為は、労基法だけでなく「刑法(私文書偽造罪・公務執行妨害)」に抵触する可能性があり、場合によっては刑事告発の対象となることもあります。
たとえば、実際には締結していなかった36協定を遡って作成したり、賃金台帳を都合よく改変する行為は、調査を妨害する意図と見なされ、悪質性が高いと判断されます。また、虚偽の報告をした事実が発覚すれば、是正の猶予が得られないばかりか、社名公表の対象になる可能性もあるでしょう。
万が一、過去に違反があったとしても、誠実にその事実を説明し、是正の意思を明確にすることが最もリスクの低い対応であることを、企業は再認識すべきです。
通報社員に対する報復行為の禁止とその罰則
通報を行った社員に対して、「報復的な扱い」をすることは、法律により明確に禁じられています。
とくに、「公益通報者保護法」では、通報を理由とする解雇、降格、減給、不利益な配置転換などは一切認められず、これに違反した場合は、行政処分や損害賠償請求の対象となります。
また、労働者が通報を行った事実を周囲に漏らすことも、パワーハラスメントやプライバシーの侵害と見なされるリスクがあり、企業のガバナンス全体が問われる事態になりかねません。
逆に、通報をきっかけに職場の問題を洗い出し、環境改善につなげる姿勢を持つことで、内部通報制度を健全に機能させ、企業全体の信頼性を高めることも可能です。
問題の指摘に耳を傾ける柔軟な組織こそが、持続的な成長を遂げる基盤を築けると言えるでしょう。
通報されないための予防策と社内体制作り
労基署への通報や突然の立ち入り調査は、企業にとって多大なリスクとなり得ます。
しかし、その多くは「日常の管理不足」や「従業員との信頼関係の欠如」から生じています。つまり、通報を未然に防ぐには、労務体制の整備とともに、従業員が安心して働ける環境づくりが不可欠です。以下では、企業が実践すべき具体的な予防策と体制構築のポイントについて解説します。
労務管理制度・勤怠管理の見直し
通報の中で最も多いのが、長時間労働や未払い残業といった「労働時間」に関する問題ではないでしょうか。
これは、制度上の整備が不十分であるか、あるいは制度があっても現場で適切に運用されていないことが要因となるケースが多いです。
勤怠管理は単に出退勤の記録にとどまらず、労働時間の実態を正確に把握し、残業や休憩時間の管理を徹底する仕組みでなければ意味がありません。タイムカードやICカード打刻だけでなく、PCログや業務日報との突合も取り入れるなど、多面的なチェック体制が求められます。
また、管理職に対しては「労働時間の把握義務」があることを改めて教育し、部下の勤務実態に無関心であることが企業リスクにつながるという認識を持たせることが重要でしょう。
就業規則・36協定・法律文書の整備と備置き
労務トラブルの背景には、就業規則や36協定、各種法定書類の不備が隠れているケースが多くあります。特に36協定が未提出または内容が実態と乖離している場合、法令違反に直結します。
まずは、自社の就業規則が最新の法改正に対応しているかを確認しましょう。また、全従業員に対して内容が周知されているか、閲覧可能な状態になっているかも重要です。規則が形骸化していては、いざというときの防波堤にはなりません。
法定三帳簿(労働者名簿、出勤簿、賃金台帳)を含め、労働関係書類は所定の期間、適切に保存・備置されているかどうかも、調査時の確認ポイントとなります。
社員教育・相談窓口の設置
通報リスクの多くは、従業員が「社内で相談できない」「声を上げられない」環境に原因があります。
これを防ぐには、日頃から労働法に関する社員教育を行い、法令順守の重要性と相談制度の利用方法を周知することが求められます。
社内に労務相談窓口を設置し、匿名での相談や苦情が可能な体制を整えることも有効です。相談内容は記録し、必要に応じて人事部門や経営層が迅速に対応できるようにしておくことで、トラブルの芽を早期に摘み取ることができます。
また、ハラスメント対策やメンタルヘルスの相談体制も、企業の信頼性を高める要素となります。従業員が「会社は話を聞いてくれる」と感じられる仕組みが、外部通報の抑止につながるのです。
定期的な内部監査・外部専門家によるチェック
企業内部だけで管理体制を完結させるのは限界があります。労務リスクを客観的に評価し、法令順守状況を定期的に点検するには、内部監査体制を整えることが有効です。
加えて、社会保険労務士や労働問題に詳しい弁護士など、外部の専門家による定期的な監査やアドバイスを受けることで、見落としがちな問題点を早期に発見できます。とくに法改正の多い分野では、最新の実務対応を把握している外部専門家の知見を取り入れることで、トラブル防止に繋がります。
社内外のチェック機能を組み合わせて、コンプライアンス体制を“生きた仕組み”として運用することこそが、通報されない職場づくりの本質と言えるでしょう。
労基署調査におけるケーススタディ
労働基準監督署の立ち入り調査は、決して他人事ではありません。
実際に多くの企業が、通報を契機に調査を受け、是正や処分に至った経験をしています。ここでは、実際に起きた(または起こり得る)事例をもとに、企業が学ぶべきポイントや成功と失敗を分けた要因についてお伝えいたします。
実際に突然立ち入り調査があった会社の事例
ある中堅製造業の企業では、ある日突然、労基署の職員が複数人で訪れ、通報をもとにした臨検調査が行われました。内容は、「月100時間を超える残業が常態化している」というもの。
当初、総務担当者は戸惑いながらも、過去3ヶ月分の勤怠データと賃金台帳を提出。すると、システム上は36協定の上限内に見えるが、実際のPCログや業務指示書と照合すると、隠れ残業が常態化していたことが明らかになりました。
この会社は、調査後に是正勧告を受け、全社員の労働時間管理システムを刷新。管理職に対しても残業把握の教育を徹底し、半年後の再監督では「是正済み」と判断されました。初動対応に誠実さがあったことが、事態の沈静化に寄与したといえます。
通報→是正勧告→送検など至った企業も
一方で、あるIT企業では、従業員からの匿名通報を受けて労基署の申告監督が入りました。問題とされたのは「未払い残業」と「パワハラの放置」でしたが、企業側が最初の調査に非協力的で、帳簿の提出を渋ったことが悪印象を与えました。
さらに、調査後に是正報告を提出せず、改善の意思も曖昧だったため、労基署は再度立ち入りを実施。その際、タイムカードとPCログの乖離、関係者の証言から「意図的な残業代未払い」が認定され、最終的には法人として書類送検される事態に発展しました。
このケースでは、違反の有無以上に、「企業の姿勢」が厳しく問われるということが重要であると感じます。調査への不誠実な対応は、リスクを倍増させる結果となるのです。
対応がうまくいき、被害を最小限にできた会社の成功要因
あるサービス業の企業では、従業員からの通報をきっかけに調査が行われたものの、非常にスムーズに対応し、是正勧告を回避できた例もあります。
この企業は、日頃から社労士と連携し、法改正ごとに就業規則を見直し、36協定も年1回更新していました。勤怠もICカードと業務日報のダブルチェックで管理しており、通報内容(休憩未取得の疑い)についてもすぐに実態を説明できる状態にありました。
調査官は、整った記録と担当者の協力的な姿勢を評価し、指導標の交付のみで調査が終了に。このようなケースでは、日頃の準備が最大の防御策になることが明らかです。
この成功事例から分かるのは、労基署への対応力は、突発的な反応ではなく、日々の法令遵守体制の「積み重ね」で決まるということです。
まとめ:通報対応は平時の体制整備から始まっている
労働基準監督署の調査は、突然訪れることが多く、企業にとって大きなプレッシャーとなります。しかし、通報を恐れるのではなく、日頃からの労務管理体制を整備しておくことで、調査にも冷静に対応でき、リスクを最小限に抑えることが可能です。
今回のコラム記事では、労基署からの通報に対して企業がとるべき初動対応、立ち入り調査の流れ、やってはいけない対応、そして通報を防ぐための社内整備や成功・失敗事例まで、包括的に解説してきました。
重要なのは、問題が起きてから慌てて対応するのではなく、「通報されない会社づくり」を日頃から意識し、予防と改善を積み重ねていくことです。
社労士法人ステディでは、企業の労務管理体制構築から、労基署対応、就業規則の整備、従業員対応のアドバイスまで幅広くサポートしております。突然の調査に備えたい、通報されない職場環境を作りたいとお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。
初回相談は無料で承っております。中小企業の現場に精通した社会保険労務士が、貴社の実情に即した具体的なアドバイスをいたします。
この記事の執筆者

- 社会保険労務士法人ステディ 代表社員
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