「今年からお盆休みは有給休暇を使ってもらう形にしたい」——人件費を抑えたい経営者から、こうした相談が寄せられることがあります。
しかし、これまで会社の休日として扱ってきたお盆休みを、社員の有給休暇を消化する日に切り替える場合、進め方を誤ると違法・無効と判断されるおそれがあります。
本記事では、お盆休みを有給休暇として扱うことの適法性、適法に進めるための計画年休制度の仕組み、そして手続きを誤った場合に生じるリスクまでを解説します。
「夏季休暇を有給休暇として扱う」とは、どのような状態を指すのか
同じ「有給扱い」という言葉でも、実際に何が行われているかによって、法的な意味合いは大きく異なります。
まずは、想定される2つのパターンを整理します。
すでにあるお盆休みを、有給休暇の消化日に変更するケース
1つ目は、これまで会社の所定休日(労働義務のない日)として扱ってきたお盆休みを、社員の年次有給休暇を使う日に切り替えるケースです。
たとえば、これまで就業規則で「8月13日〜15日は会社休日とする」と定めていた会社が、翌年度から「この期間は有給休暇を取得したものとして扱う」に変更する場合が該当します。
もともと働く義務のなかった日を、有給休暇で埋める形に変えるため、社員から見ると実質的に有給休暇の残日数が減る変更になります。
単に「有給扱い」と称して社員の有給残日数を減らすケース
2つ目は、労使協定などの手続きを経ないまま、会社が一方的に「夏季休暇は有給扱いにする」と通知するだけのケースです。
この場合、社員は自分の意思で有給休暇の取得日を選んだわけではなく、会社の都合で有給休暇が消化されたことになります。手続きの実態が伴わないまま「有給扱い」という言葉だけが使われている状態であり、次の章で説明する通り、法的な問題が生じやすいパターンです。
お盆休みを有給休暇として扱うことは違法なのか
結論からいえば、正しい手続きを踏めば適法に行えますが、手続きを省略すると違法・無効と判断されるおそれがあります。両者を分けるポイントを確認します。
適法になる条件(計画年休制度による場合)
労働基準法が定める「年次有給休暇の計画的付与制度」(計画年休)の手続きを踏んでいれば、お盆休みを有給休暇の消化日とすることは適法と言えます。
計画年休は、労使協定を締結したうえで、年次有給休暇のうち5日を超える部分について、あらかじめ会社が取得日を指定できる制度です。
この制度に基づいて導入する場合、お盆休みを有給休暇の消化日とすることは、労働基準法上認められた正当な運用にあたります。
違法・無効となり得るケース(一方的な不利益変更)
一方、労使協定を結ばずに、就業規則の変更や社員への説明もないまま一方的に運用を変更した場合は、話が変わってきます。
これまで所定休日だった日を有給休暇の消化日に変更することは、社員にとって実質的な労働条件の不利益変更にあたるため、一方的に制度変更してしまうと違法といえるでしょう。
労働契約法上、就業規則の変更によって労働条件を社員の不利益に変更する場合は、変更の必要性や内容の相当性など、合理性が求められます。
合理性を欠いたまま、あるいは適切な手続きを経ずに変更を行うと、変更自体が無効と判断され、社員から有給休暇の買い上げや、実際に休んでいない日の賃金支払いを求められるおそれがあります。
適法な手段となる「計画年休制度」とは
お盆休みを有給休暇の消化日として適法に運用するための代表的な方法が、計画年休制度です。仕組みを正しく理解しておく必要があります。
計画年休の仕組みと対象になる日数(5日を超える部分のみ)
計画年休は、年次有給休暇の付与日数のうち、5日を超える部分について、会社が計画的に取得日を割り振れる制度です。
たとえば、年20日の有給休暇が付与されている社員であれば、そのうち15日分を計画年休の対象にできます。残りの5日分は、社員が自由に取得日を選べる形で必ず残しておく必要があります。
この5日は、労働基準法が定める本人の自由な取得権を保障するための最低ラインであり、計画年休の対象にすることはできません。
導入に必須の労使協定
計画年休を導入するには、就業規則への規定に加えて、労働者代表との間で労使協定を締結することが必須です。
労使協定では、対象となる社員の範囲、計画的に付与する日数、具体的な取得日(お盆休みの期間など)、有給休暇の残日数が少ない社員への対応方法などを定めます。労使協定は、労働基準監督署への届出までは不要とされていますが、社内で適切に保管し、社員がいつでも確認できる状態にしておくことが求められます。
就業規則への規定も必要な理由
労使協定を結ぶだけでなく、就業規則にも計画年休に関する規定を置く必要があります。
就業規則に根拠規定がないまま労使協定だけで運用すると、制度の位置づけが不明確になり、後になって「聞いていない」というトラブルに発展しやすくなります。就業規則には、計画年休制度を導入すること、対象日数、具体的な運用は労使協定に委ねる旨を明記しておくのが一般的な進め方です。
お盆休みを計画年休に変更する場合の具体的な手続き
実際にお盆休みを計画年休に切り替える場合、順序を守って進めることがトラブル防止につながります。ここでは、具体的な手続きの流れを確認します。
労使協定で定めるべき事項
労使協定の締結にあたっては、あらかじめ定めておくべき項目を漏れなく盛り込む必要があります。
対象となる社員の範囲(全社員か、一定の勤続年数以上の社員かなど)、計画的付与の対象とする日数、具体的な取得日、そして有給休暇の残日数が計画付与の対象日数に満たない社員への対応(不足分は特別休暇として別途付与するなど)を定めておくことが一般的です。
特に最後の点は見落とされがちですが、次の章で説明するトラブルを防ぐうえで重要なポイントです。
就業規則の変更手続き
就業規則を変更する際は、社員の意見を聴取したうえで、労働基準監督署へ届け出る手続きが必要です。
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の変更について労働者の過半数代表者の意見を聴き、意見書を添付して所轄の労働基準監督署に届け出る義務があります。
この手続きを省略してしまうと、就業規則の変更自体の効力に疑義が生じるおそれがあるため、形式的な手続きであっても確実に行う必要があります。
社員への周知・説明のタイミング
制度を変更する際は、実施前に十分な周知期間を設けることが望ましいといえます。
たとえば、翌年度からお盆休みを計画年休に切り替える場合、遅くとも数か月前には社員説明会や書面での案内を行い、変更の理由と具体的な運用方法を伝えておくことが望ましい進め方です。急な変更は、社員の理解を得られないまま実施することになり、不満や不信感の原因になります。
手続きを踏まずに変更した場合に生じるリスク
労使協定や就業規則の整備、周知を省略したまま変更を進めると、会社にはさまざまなリスクが生じます。具体的な場面で確認します。
不利益変更として無効を主張されるリスク
適切な手続きを経ていない変更は、社員から無効を主張されるおそれがあります。
たとえば、社員が退職時にまとめて「お盆休みの分は本来自分の意思で取得日を選べる有給休暇だったはずだ」と主張し、消化させられた分の有給休暇の買い上げや、当該期間の賃金の支払いを求めてくるケースが想定されます。手続きの不備が明らかな場合、会社側がこの主張を退けることは難しくなります。
有給残日数が少ない社員から不満が出るリスク
入社間もない社員など、有給休暇の残日数が少ない社員にとっては、より切実な問題が生じます。
たとえば、年5日しか有給休暇が付与されていない社員に対して、お盆休みの3日間を計画年休として割り振ってしまうと、残りの自由に使える有給休暇が2日しか残らないことになります。こうした社員への配慮を怠ると、不公平感から不満が噴出し、労使協定を結んでいても運用の妥当性そのものが問われかねません。
労働基準監督署への相談に発展するリスク
社内での話し合いで解決しない場合、社員が労働基準監督署に相談するケースもあります。
労働基準監督署への相談をきっかけに、会社の有給休暇管理や就業規則全体について調査が入ることもあります。調査の結果、他の労務管理上の不備まで発覚し、対応の範囲が広がってしまうケースも少なくありません。一つの制度変更が、労務管理全体の見直しにつながる事態は避けたいところです。
お盆休みを有給休暇扱いにするなら、正しい手続きを踏むことが不可欠です
ここまで、お盆休みを有給休暇として扱うことの適法性、計画年休制度の仕組み、具体的な手続き、そして手続きを誤った場合のリスクまで解説してきました。結論として、労使協定の締結、就業規則への規定、十分な周知という3つの手続きを踏めば、お盆休みを計画年休として運用することは適法に行えます。
とはいえ、対象にできる日数の計算や、有給残日数が少ない社員への配慮、既存の就業規則との整合性は、会社ごとに確認すべき点が異なります。制度を変更する前に、現状の就業規則や有給休暇の付与状況を専門家とともに点検しておくことが、トラブルを避ける最も確実な方法です。
社会保険労務士法人ステディでは、計画年休制度の導入支援から、労使協定・就業規則の整備、社員への説明資料の作成まで、経営者の皆さまをサポートしています。「お盆休みを有給休暇扱いにしたいが、進め方に不安がある」という際は、変更を実施する前に、ぜひ一度ご相談ください。
この記事の執筆者

- 社会保険労務士法人ステディ 代表社員
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