出勤簿の手書き管理は、主に飲食店や小売といった店舗を構える業種で今も採用されています。一方で、その適法性や効率性に疑問を感じている経営者や人事担当者の方から「労務管理上問題ないのか?」とご相談をいただくことがあります。
今回のコラム記事では、手書き出勤簿の法的位置づけを明確にし、そのリスクと問題点を詳細に解説いたします。
さらに、デジタル時代に適した効率的な勤怠管理方法や、労務リスクを軽減するための具体的な対策をご紹介します。人事労務の課題解決に悩む方々に、最新の情報と実践的なアドバイスをお届けしますのでぜひ参考にしてください。
出勤簿の手書きは違法なのか?法的根拠と実態
結論、出勤簿の手書きは違法ではありませんが、労働時間管理の観点から推奨はできません。
手書きの出勤簿は、客観的な記録として扱われにくく、正確な労働時間の把握が困難になる可能性があります。
労働時間管理に関する法律と規制
労働基準法では、企業に対して従業員の労働時間を適切に管理することを義務付けています。背景としては以下の点が重要となります。
- 1日8時間、週40時間の原則的な労働時間の管理
- 6時間を超える労働に対して45分、8時間を超える労働に対して60分以上の休憩時間の付与
- 時間外労働や深夜労働に対する割増賃金の支払い
これらの規制を遵守するためには、正確な労働時間の記録が不可欠なのです。
手書き出勤簿の法的位置づけ
手書きの出勤簿は、労働基準法上の「賃金その他労働関係に関する重要な書類」に該当します。そのため
- 5年間の保存義務(当面は3年間でも可)
- 記録の改ざんや紛失は30万円以下の罰金の対象となる可能性
ただし、手書きの出勤簿は労働時間の管理における「客観性」に欠ける可能性があります。
厚生労働省のガイドラインと自己申告制
厚生労働省は、労働時間の適正な把握のためのガイドラインを定めています。
このガイドラインでは、以下の方法が推奨されています。
- 使用者が自ら現認することによる確認
- タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録による確認
手書きの出勤簿は自己申告制に該当するため、以下の点に注意が必要です。
- 従業員への自己申告制の説明
- 申告内容の実態確認
- 休憩や時間外報告の適正性確認
- 自己申告を妨げる要因の排除
また、近年では「Excelやスプレッドシート」による勤怠記録について、労働基準監督署から指摘されるケースが増えております。指摘の理由としては「記録された勤怠時間の修正が容易である」ためです。
必ずしも手書きの出勤簿は違法とは言えない一方で、労働基準監督署からの指摘リスクも高まっており、労働時間の適正な把握のためには、より客観的な記録方法(タイムカードやICカード、デジタル勤怠管理システムなど)の導入が推奨いたします。
手書き出勤簿のリスクと問題点
では、具体的に手書きの出勤簿を利用するにあたって、どのような問題点があるのでしょうか。
手書きの出勤簿は、一見簡単で手軽な勤怠管理方法に思えますが、実際にはいくつかの重大なリスクがありますので、確認していきましょう。
不正打刻・改ざんのリスク
まず、手書きの出勤簿は、容易に改ざんできてしまうという大きな問題があります。例えば
- 従業員が遅刻した際に定時の出社時間を記載することができる
- 残業時間を水増しして申告することができる
このような可能性があるでしょう。
また、企業側が残業代削減や長時間労働の隠蔽のために従業員の勤怠情報を改ざんするリスクもあります。
このような不正は、労使間の信頼関係を損なう可能性があります。
客観性の欠如と労働時間の証明困難
手書きの出勤簿は、トラブルになった場合は厚生労働省が定める「原則的な客観的な記録」としては認められない可能性があります。
自己申告制による記録は客観性に欠けるため、労働時間の適切な把握が困難になります。労使トラブルが発生した場合、手書きの出勤簿は労務管理資料としての価値が低く、会社側の主張が認められにくくなる可能性があるのです。
管理・集計の手間と人的ミス
手書きの出勤簿を使用すると、集計業務がすべて手作業になり、かなりの労力が必要になります。
記入漏れや書き間違いがあれば、各従業員へ確認を取った上で修正する必要があり、毎月の給与計算時に担当者の負担は計り知れません。
また、給与計算時には労働時間の集計ミスといったトラブルも起こりやすくなります。これらの作業は人事・労務担当者の負担を増大させ、業務効率を低下させる原因でしかないのです。
柔軟な働き方への対応困難
手書きの出勤簿は、多様化する現代の働き方に対応しづらいという問題もあります。
外回りの営業職や現場作業員など、オフィス外で働く機会が多い従業員は、出勤簿を記入するためだけに帰社しなければならず、無駄な移動時間が発生します。
また、近年急増している在宅勤務やリモートワークにも対応できません。
このような柔軟な働き方に対応できないことは、企業の生産性や従業員の満足度に悪影響を与える可能性があります。
以上のリスクと問題点を考慮すると、手書きの出勤簿から、より客観的で正確な勤怠管理システムへの移行を検討することが重要です。
デジタル化された勤怠管理ツールを導入することで、これらの問題を解決し、より効率的で信頼性の高い労務管理を実現できる可能性があります。
適切な勤怠管理方法と代替手段
手書きの出勤簿を利用する問題点・リスクについて解説しましたが、具体的な代替策としてはどのようなものがあるのでしょうか。より効率的で正確な勤怠管理方法について解説しますので、手書きの出勤簿から管理方法の変更を検討されている企業様はぜひ参考にしてください。
タイムカードシステムの導入
タイムカードシステムは、多くの企業で採用されている勤怠管理方法です。
専用の機械(タイムレコーダー)にカードを通すだけで、出退勤時刻を自動的に記録できます。主なメリットは以下の通りです。
- 記入ミスを防ぐことができる
- 誰でも直感的に使用できる
- 客観的な記録として認められる
一方で、打刻漏れが発生しやすい、集計に時間がかかる、保管に場所をとるなどのデメリットもあります。
ICカードやバイオメトリクス認証の活用
次に、ICカードや指紋認証などのバイオメトリクス認証を用いた勤怠管理システムは、より高度なセキュリティと利便性を提供します。
ICカードを使用した勤怠管理の場合、以下のようなメリットがあります。
- 従業員が普段使用しているICカードを利用できる
- タイムカードの作成・入力・管理の手間を省ける
- 勤怠情報の管理・集計を効率的に行える
ただし、ICカードリーダーや勤怠管理システムの導入に伴うコストや、カードの紛失リスクなどに注意が必要です。
クラウド型勤怠管理システムの利点
弊社がオススメしているのは「クラウド型勤怠管理システム」です。
最新のテクノロジーを活用した効率的な勤怠管理方法で、主な利点として
- リモートワークに対応
- データ集計・分析の効率化
- 給与計算との連携
上記があります。
リモートワーク対応
クラウド型システムは、場所を問わず勤怠管理が可能です。スマートフォンやパソコンから打刻できるため、リモートワークやテレワークに最適といえます。
データ集計・分析の効率化
クラウド型システムでは、労働時間や残業時間を自動で集計し、わかりやすい表やグラフで表示できます。
これにより、勤務状況をリアルタイムで把握し、適切な業務指導を行うことが可能になります。
給与計算との連携
多くのクラウド型勤怠管理システムは、給与計算システムとデータ連携が可能です。
残業時間や有給休暇取得日数などを自動的に給与計算システムへ出力し、正確な給与計算を行えます。これにより、転記ミスなどのヒューマンエラーを防止できます。
クラウド型勤怠管理システムの導入により、企業は労働時間管理の効率化、コスト削減、そして労務リスクの軽減を実現できます。ただし、導入にあたっては自社の業態や規模に適したシステムを選択することが重要です。
まとめ:適切な勤怠管理で企業価値を高める
適切な勤怠管理は、企業の成長と持続可能性に直結する重要な要素です。最後に、勤怠管理システム導入に向けた具体的なステップを紹介いたします。
勤怠管理システム導入の検討ステップ
勤怠管理システムの導入を検討する際は、以下のステップを踏むことをおすすめします。
- 導入目的の明確化:現状の課題を洗い出し、システム導入で解決したい問題を特定
- システムタイプの選択:クラウド型とオンプレミス型のメリット・デメリットを比較し、自社に適したタイプを選ぶ
- 機能の検討:就業規則や働き方に対応しているか、外部システムとの連携が可能かなど、必要な機能をリストアップ
- ベンダーの選定:サポート体制や導入実績などを考慮し、信頼できるベンダーを選定する
- 試験運用:全社導入前に、一部の部署や従業員でテスト運用を行い、問題点を洗い出す
- 従業員周知:新システムの使用方法や利点について、従業員に十分な説明を実施
- 段階的な導入:問題なく運用できることを確認しながら、段階的に全社展開を推進
適切な勤怠管理システムの導入は、企業の生産性向上と労務リスク軽減に大きく貢献します。しかし、システム選びから導入まで、専門的な知識と経験が必要となる場合があります。
弊社では、お客様の業種や規模、特有の課題に応じた最適な勤怠管理ソリューションをご提案しております。システム導入でお悩みの方は、ぜひ弊社までお問い合わせください。
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