深夜手当の計算は、一見シンプルに思えても、実務では法令理解の不足や思い込みによるミスが起こりやすい領域です。
特に人事・労務担当者にとって、深夜手当の誤算は従業員との信頼関係を損なうだけでなく、未払い残業代として後から大きな労務リスクに発展する可能性も否定できません。
そこで本記事では、労働基準法に基づく深夜手当計算の正しい考え方を整理しつつ、現場で頻発しがちな計算ミスや注意点をわかりやすく解説します。日々の給与計算や勤怠管理に不安を感じている方にとって、実務に活かしていただけると思いますので、ぜひご一読ください。
深夜手当計算とは?企業が押さえるべき基礎知識
深夜手当の計算を正しく行うためには、まず「そもそも深夜手当とは何か」「どのような労働が対象になるのか」といった基礎知識を正確に理解しておく必要があります。
制度の前提を曖昧にしたまま実務に入ると、計算以前の段階で誤りを抱え込んでしまうおそれがあります。ここでは、人事・労務担当者が必ず押さえておくべき深夜手当の基本的な考え方を整理いたします。
深夜手当の定義と対象時間帯
深夜手当とは、一定の時間帯に労働したことに対して、通常の賃金に上乗せして支払われる割増賃金を指します。
残業手当や休日手当と混同されやすいものの、深夜手当は「労働した時間帯」に着目して支給義務が発生する点が特徴です。
まず、法令上どのように深夜時間が定義されているのか、また実務で判断に迷いやすいケースについて具体的に見ていきましょう。
労働基準法における深夜時間の考え方
労働基準法では、午後10時から午前5時までの時間帯を「深夜」と定義しています。
この時間帯に少しでも労働が及んだ場合、その該当時間分については原則として25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
ここで注意したいのは、所定労働時間内か時間外労働かを問わず、深夜時間に労働していれば深夜手当が発生するという点でしょう。
たとえば、シフト制で22時以降も勤務する従業員であれば、残業でなくても深夜手当の対象になります。この基本ルールを理解していないと、「残業でないから割増は不要」といった誤った判断につながりやすいため気をつけてください。
深夜労働に該当するケース・しないケース
深夜労働に該当するかどうかは、実務上よく混乱が生じるポイントです。判断を誤らないためにも、代表的なケースを整理しておくことが重要です。
深夜労働に該当する主なケースとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 22時以降に業務対応や接客を行った場合
- 休憩時間を除き、実作業が深夜時間帯に及んだ場合
- 仮眠時間であっても、実質的に業務拘束があると判断される場合
一方で、次のようなケースでは深夜労働に該当しないと判断される可能性があります。
- 完全に業務から解放された休憩時間
- 自宅待機で、労働としての拘束性が認められない時間
このように、「会社にいる=労働」「夜だから必ず深夜労働」と単純に判断できない点が、深夜手当の難しさと言えるでしょう。
深夜手当が必要となる従業員の範囲
深夜手当は、特定の雇用形態や職種だけに限定されるものではありません。
誰に支払う必要があり、誰が例外となるのかを正しく理解しておくことが、不要なトラブルを防ぐ近道となります。
ここでは、雇用形態ごとの考え方と、特に質問が多い管理監督者の扱いについて解説します。
正社員・契約社員・アルバイトで違いはある?
深夜手当の支給義務は、雇用形態による違いはありません。
正社員であっても、契約社員・パート・アルバイトであっても、深夜時間帯に労働した場合は同様に深夜手当を支払う必要があります。
実務では「アルバイトだから対象外」「時給制だから深夜手当は含まれているはず」といった誤解が見受けられますが、これらは明確な誤りです。
むしろ、雇用形態による区別を設けてしまうと、不公平な取り扱いとして労使トラブルに発展するおそれもあるため注意が必要でしょう。
管理監督者に深夜手当は支払う必要は?
管理監督者については、「残業代が不要」というイメージが先行しがちですが、深夜手当に関しては扱いが異なります。
確かに、管理監督者は時間外労働や休日労働の割増賃金の支払い義務が免除されますが、深夜手当については原則として支給が必要です。
そのため、たとえ管理職であっても、22時から5時の間に労働した場合には、深夜割増分を支払わなければなりません。
また、そもそも「管理監督者」に該当するかどうかは厳格に判断されるため、肩書きだけで判断するのは危険です。この点を軽視すると、後から未払い賃金を請求されるリスクも否定できないでしょう。
深夜手当の計算方法【基本ルール】
深夜手当の計算は、法令で定められたルールに沿って行えば決して難解なものではありません。しかし実務では、「割増率の意味を正しく理解していない」「計算の基礎となる賃金の考え方を誤っている」といった理由でミスが発生しがちです。
ここでは、人事・労務担当者として必ず押さえておきたい深夜手当計算の基本ルールを、順を追って解説していきます。
深夜割増率と計算の考え方
深夜手当の計算において、最も重要となるのが「深夜割増率」と「何を基準に計算するか」という点です。
この前提を理解していないと、計算ミスにつながる可能性がありますので、割増率の意味と、計算の土台となる通常賃金の考え方を押さえておきましょう。
深夜割増率は「25%」
深夜労働に対する割増率は、通常賃金の25%以上と定められています。
これは、「通常賃金 × 1.25」で賃金を支払うという意味ではなく、通常賃金に25%分を上乗せして支払う義務があるという考え方です。
例えば、時給1,200円の従業員が深夜に1時間働いた場合、
- 通常賃金:1,200円
- 深夜割増分:1,200円 × 25% = 300円
となり、深夜の時間帯に1時間勤務した場合、合計で1,500円を支払う必要があります。
このように、割増部分だけを別枠で捉える意識を持つことが、計算ミス防止につながるでしょう。
残業代単価となる賃金に含める・含めない手当
深夜手当の計算で頻繁に問題となるのが、「残業代単価となる賃金(割増賃金の基礎)に何を含めるのか」という点です。
原則として、毎月固定的に支払われ、労働の対価としての性質を持つ賃金は、残業代単価となる賃金に含めて計算します。
割増元となる賃金に含める手当の代表例は以下のとおりです。
- 基本給
- 役職手当
- 職能手当・資格手当
一方、次のような手当は、原則として残業代単価となる賃金には含めません。
- 通勤手当
- 家族手当
- 住宅手当(生活補助的性格が強いもの)
この線引きを誤ると、深夜手当の単価そのものがズレてしまうため、給与規程と照らし合わせながら慎重に判断する必要があるでしょう。
ただし、家族の人数や居住形態にかかわらず「一律10,000円を支給する」ようなルールにしている場合は残業代単価となる賃金に含める必要がありますのでご注意ください。
深夜手当計算の基本式
割増率と通常賃金の考え方を理解したところで、次は具体的な計算式を確認します。
雇用形態や賃金体系によって計算方法が異なるため、実務で混乱しないよう整理しておくことが重要です。
時給制の場合の計算式
時給制の場合、深夜手当の計算は比較的シンプルです。基本となる計算式は次のとおりです。
深夜手当 = 時給 × 深夜割増率(25%) × 深夜労働時間
たとえば、時給1,100円で深夜に2時間働いた場合、
1,100円 × 25% × 2時間 = 550円
となり、通常賃金とは別に550円の深夜手当を支給する必要があります。シフト制の多い業種では、この計算を日々正確に積み上げることが求められるでしょう。
月給制の場合の計算式
月給制の場合は、まず1時間あたりの賃金単価を算出する必要があります。
一般的な計算手順は以下の流れです。
① 月給 ÷ 月平均所定労働時間 = 時間単価
② 時間単価 × 25% × 深夜労働時間 = 深夜手当
例えば、月給24万円、月平均所定労働時間160時間の従業員が、深夜に5時間働いた場合、
時間単価:240,000円 ÷ 160時間 = 1,500円
深夜手当:1,500円 × 25% × 5時間 = 1,875円
このように、月給制では「月平均所定労働時間の設定」が計算の正確性を左右します。設定根拠が曖昧なまま計算していると、後々指摘を受ける可能性もあるため注意が必要でしょう。
残業・休日出勤と重なる場合の深夜手当計算
深夜手当の計算で特に難易度が高いのが、残業や休日出勤と深夜労働が重なったケースです。
割増率が複数絡むため、計算ロジックを正しく理解していないと、過不足のある支給につながりやすくなります。
ここでは、人事・労務担当者が混乱しやすい重複割増の考え方を整理し、実務での判断ミスを防ぐポイントを解説します。
深夜残業が発生した場合の割増率
通常の深夜労働とは異なり、残業時間帯が深夜に及んだ場合には、複数の割増率を合算して考える必要があります。まずは、割増率の仕組みを正確に押さえましょう。
残業+深夜の割増率の考え方
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える残業が深夜時間帯に行われた場合、以下の割増率が適用されます。
時間外労働割増:25%
深夜労働割増:25%
この2つは別々に発生する割増であるため、合計すると50%以上の割増となります。つまり、計算上は「通常賃金 × 1.5」で支払うイメージです。
例えば、時給1,200円の従業員が、法定外残業として深夜に1時間働いた場合、
1,200円 × 50% = 600円(割増分)
合計支給額:1,800円
となります。
「深夜だから25%だけ」「残業だから25%だけ」と片方しか加算しないミスは、実務で非常に多いため注意が必要でしょう。
法定内残業と法定外残業の違い
残業という言葉は日常的に使われますが、法的には法定内残業と法定外残業で扱いが異なります。
- 法定内残業:所定労働時間を超えるが、法定労働時間内(8時間以内)
- 法定外残業:法定労働時間(8時間)を超える労働
深夜時間帯に法定内残業が行われた場合、適用される割増は深夜割増25%のみです。一方で、法定外残業+深夜労働となると、先述のとおり割増率は合計50%以上になります。
この区別を曖昧にしたまま計算すると、割増率の過不足が生じやすいため、勤怠管理段階から切り分けて把握することが重要です。
深夜休日労働の計算方法
次に注意したいのが、休日労働と深夜労働が重なるケースです。特にシフト制や交替勤務のある職場では、発生頻度も高く、誤算が起こりやすいポイントと言えるでしょう。
休日割増と深夜割増の重複計算
法定休日に労働した場合、休日労働割増として35%以上の割増賃金が必要です。この労働が深夜時間帯に及んだ場合、さらに深夜割増25%が加算されます。
つまり、法定休日の深夜労働では、
- 休日割増:35%
- 深夜割増:25%
- 合計割増率:60%以上
となり、「通常賃金 × 1.6」で支払う計算になります。
割増率が高くなる分、計算ミスが賃金額に大きく影響する点は見逃せません。
企業が間違えやすい計算パターン
深夜休日労働で特に多い誤りとして、次のようなケースが挙げられます。
- 休日割増35%に深夜割増25%を含んだものと誤解している
- どちらか一方の割増しか適用していない
- 法定休日と法定外休日(所定休日)を混同している
これらのミスは、「休日だから35%払っている」「深夜だから25%払っている」と思い込んでいることが原因で起こりがちです。
しかし実際には、割増は重複して発生するという原則を理解していなければ、適正な支払いにはなりません。
深夜手当計算の具体例【ケース別】
ここまでで深夜手当の基本ルールや割増率の考え方を整理してきましたが、実務では「理屈は分かっていても、実際の計算になると不安」という声も少なくありません。
そこで本章では、アルバイト・パートと月給制社員それぞれについて、具体的な数値を用いた計算例を紹介します。ケース別に確認することで、自社の給与計算に当てはめやすくなるはずです。
アルバイト・パートの深夜手当計算例
アルバイト・パートの場合は時給制であることが多く、深夜手当の計算自体は比較的シンプルです。ただし、シフトの組み方によっては見落としやすい注意点も存在します。
時給1,200円の場合の計算例
例えば、時給1,200円のアルバイトが、22時から翌1時までの3時間勤務したケースを考えてみましょう。この場合、すべてが深夜時間帯に該当します。
- 通常時給:1,200円
- 深夜割増分:1,200円 × 25% = 300円
- 深夜時間帯の時給:1,500円
したがって、
- 1,500円 × 3時間 = 4,500円
が、この日の支給額となります。
「通常時給+割増分」という考え方を明確に持つことで、計算ミスを防ぎやすくなるでしょう。
シフト制勤務での注意点
シフト制の場合、22時をまたぐ勤務が多く、深夜手当の対象時間を正確に切り分ける必要があります。
例えば、20時〜翌1時までの5時間勤務であれば、
- 20時〜22時:通常労働(2時間)
- 22時〜翌1時:深夜労働(3時間)
というように、時間帯ごとに賃金を分けて計算しなければなりません。
「1日の勤務時間すべてを深夜扱いしてしまう」「逆に深夜時間を含め忘れる」といったミスは、シフト制の現場で特に起こりやすいため注意が必要でしょう。
月給制社員の深夜手当計算例
月給制社員の場合、まず時間単価を算出する必要があるため、アルバイトよりも計算手順が一段階増えます。その分、設定の考え方を誤ると、深夜手当全体に影響が及びます。
所定労働時間から時給を算出する方法
例えば、
- 月給:300,000円
- 月平均所定労働時間:160時間
この場合の時間単価は、
- 300,000円 ÷ 160時間 = 1,875円
となります。
この社員が深夜に4時間労働した場合の深夜手当は、
- 1,875円 × 25% × 4時間 = 1,875円
と計算できます。
月給制では、この「月平均所定労働時間」をどのように設定しているかが、計算の正確性を左右すると言えるでしょう。
固定残業代がある場合の扱い
固定残業代制度を導入している企業では、深夜手当の扱いに特に注意が必要です。
固定残業代に深夜割増分が含まれていない場合、深夜労働については別途25%以上の割増賃金を支払う義務があります。
一方で、「固定残業代に深夜分も含めている」とする場合でも、
- 対象となる時間数
- 通常残業分と深夜分の内訳
- 金額の算定根拠
が明確でなければ、無効と判断されるリスクもあります。
「固定残業代があるから深夜手当は不要」と安易に判断するのは危険であり、制度設計と運用の両面で慎重な対応が求められるでしょう。
深夜手当計算で企業が注意すべきポイント
深夜手当は計算ルール自体は明確であるにもかかわらず、実務の現場ではミスが後を絶ちません。
その背景には、制度理解の不足だけでなく、給与体系や勤怠管理の複雑さが影響しているケースも多く見受けられます。
ここでは、企業が特に注意すべきポイントを整理し、深夜手当の未払いを防ぐための視点を解説します。
計算ミスが起こりやすい原因
深夜手当の計算ミスは、単なる計算間違いというよりも、「前提となる考え方の誤り」から発生することがほとんどです。代表的な原因を把握しておくことで、同じ失敗を繰り返さずに済むでしょう。
割増率の誤認
最も多いミスが、割増率の誤認です。
「深夜は25%」「残業は25%」「休日は35%」と個別の数字は覚えていても、重複する場合に合算するという原則が抜け落ちているケースが少なくありません。
例えば、
- 法定外残業+深夜労働
- 法定休日+深夜労働
といった場面で、どちらか一方の割増しか適用していないと、結果として未払いが発生します。
割増率は「どれか一つを選ぶ」のではなく、「該当するものをすべて足す」という考え方が重要でしょう。
割増基礎となる賃金に含める手当の判断ミス
次に多いのが、通常賃金に含める手当の判断ミスです。
基本給のみを基準に計算してしまい、本来含めるべき役職手当や資格手当を除外しているケースが見受けられます。
この誤りは、1時間あたりの単価そのものを低く算出してしまうため、深夜手当だけでなく、残業手当全体の未払いにつながる点が厄介です。
給与規程の文言だけで判断せず、「その手当が労働の対価かどうか」という実質的な観点で見直す必要があるでしょう。
未払いが発覚した場合のリスク
深夜手当の未払いは、単なる社内問題にとどまらず、法的・金銭的リスクへと発展する可能性があります。発覚後に慌てないためにも、想定されるリスクを理解しておくことが重要です。
労基署からの是正指導
従業員からの申告や定期監督などをきっかけに、深夜手当の未払いが判明すると、労働基準監督署から是正指導を受ける可能性があります。
是正勧告自体に罰則はありませんが、対応を怠れば、企業の信頼性低下や追加調査につながることも考えられます。
また、是正内容によっては、他の賃金項目や労働時間管理まで確認されることもあり、結果として問題が拡大するケースも少なくありません。
過去に遡って支払うケース
未払いが確認された場合、原則として過去に遡って支払う義務が生じます。
賃金請求権の時効は原則3年であるため、最大で3年分の深夜手当をまとめて支払うケースも想定されます。
従業員数が多い企業や、長期間誤った計算を続けていた場合には、金額が想像以上に膨らむこともあるでしょう。
こうしたリスクを回避するためにも、定期的な計算ルールの見直しと、第三者視点でのチェック体制を整えることが重要だと言えます。
深夜手当計算を効率化する方法
深夜手当の計算は、正確性が求められる一方で、日々の勤怠管理や給与計算業務の中では大きな負担になりがちです。特に従業員数が多い企業や、シフト制・交替制勤務を採用している職場では、手作業による対応に限界を感じている担当者も多いのではないでしょうか。
ここでは、深夜手当計算を効率化し、ミスや属人化を防ぐための代表的な方法を紹介します。
勤怠管理システムを活用するメリット
近年、多くの企業で導入が進んでいるのが勤怠管理システムです。深夜手当計算においても、システム活用は非常に高い効果を発揮します。
手計算とシステム計算の違い
手計算の場合、以下のような工程が必要になります。
- 出退勤時刻から深夜時間帯を切り分ける
- 残業・休日との重複を判定する
- 割増率を確認し、賃金単価に反映する
これらを人の手で行うと、どうしても確認漏れや入力ミスが発生しやすくなります。一方、勤怠管理システムを利用すれば、打刻データをもとに深夜時間を自動判定し、割増賃金まで一貫して計算することが可能です。
「計算しているつもりでも、実は間違っていた」というリスクを大幅に低減できる点は、大きな違いと言えるでしょう。
人事・給与担当者の負担軽減
勤怠管理システムの導入は、正確性だけでなく、担当者の業務負担軽減にも直結します。
深夜手当の確認や修正にかかっていた時間を削減できれば、その分、制度設計や従業員対応といった本来注力すべき業務に時間を割くことができます。
また、担当者が異動・退職した場合でも、計算ルールがシステムに組み込まれていれば、属人化を防ぎやすい点も見逃せません。長期的な視点で見れば、業務の安定運用につながるでしょう。
社労士・外部専門家への相談
もう一つの有効な手段が、社労士など外部専門家への相談・依頼です。特に自社の給与体系が複雑な場合や、法令対応に不安がある場合には、積極的に検討する価値があります。
自社対応と外注の判断基準
すべてを自社で対応すべきか、それとも外注すべきかは、企業規模や体制によって判断が分かれます。一般的には、次のような場合は外部専門家の活用が向いていると言えるでしょう。
- 勤怠・給与ルールが複雑で、判断に迷うケースが多い
- 人事・労務の専任担当者がいない
- 過去に未払いリスクを指摘されたことがある
一方で、シンプルな制度設計かつ十分な社内体制が整っている場合は、自社対応でも問題ないケースもあります。重要なのは、「判断に迷ったまま放置しない」ことです。
法改正への対応を任せるメリット
労働関連法令は、定期的に改正が行われます。割増賃金や労働時間に関するルールも例外ではありません。
外部専門家に相談・委託していれば、法改正情報をタイムリーに把握し、自社制度へ反映するサポートを受けることができます。
結果として、深夜手当の未払いや是正対応といったリスクを未然に防ぐことができ、企業としてのコンプライアンス強化にもつながるでしょう。
深夜手当計算に関するよくある疑問
深夜手当に関しては、制度自体を理解していても、運用段階で細かな疑問が生じやすいものです。特に「固定残業代との関係」や「端数処理の扱い」は、担当者から頻繁に質問が寄せられるポイントと言えるでしょう。
ここでは、実務でよくある疑問について、法的な考え方を踏まえながら分かりやすく整理します。
深夜手当は固定残業代に含められる?
結論から言うと、一定の条件を満たせば含めることは可能ですが、実務上は慎重な対応が求められます。曖昧な設計のまま含めてしまうと、無効と判断されるリスクがあるため注意が必要です。
含められるケース・含められないケース
固定残業代に深夜手当を含められるかどうかは、明確性が最大の判断基準となります。
含められる可能性があるケースとしては、以下の条件を満たしている場合です。
- 固定残業代に「深夜割増分を含む」ことが明確に示されている
- 通常残業分・深夜残業分それぞれの時間数と金額が区別されている
- 就業規則や雇用契約書に具体的な算定根拠が記載されている
一方で、次のような場合は含められない(無効と判断される)可能性が高いでしょう。
- 「残業代込み」としか記載されていない
- 深夜分が何時間分・いくら分なのか分からない
- 実際の深夜労働時間が固定分を超えているのに差額を支払っていない
実務上は、固定残業代に深夜手当まで含める設計は管理が難しく、結果的にリスクが高くなりやすい点も理解しておくべきでしょう。
深夜手当の端数処理はどうする?
深夜手当の計算では、割増計算の過程で端数が発生することが少なくありません。端数処理の方法を誤ると、少額であっても未払いと判断される可能性があります。
切り捨て・切り上げのルール
労働基準法では、賃金計算における端数処理について、一定の範囲での処理を認めています。代表的な考え方は次のとおりです。
- 1か月における時間外労働、休日労働および深夜業のおのおのの時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること。
- 1時間当たりの賃金額および割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること。
- 1か月における時間外労働、休日労働、深夜業のおのおのの割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、2と同様に処理すること。
重要なのは、時間ごと・日ごとに端数処理を行わないという点です。
毎日の深夜手当を個別に切り捨ててしまうと、月単位で見ると未払いが積み重なっているケースもあります。
そのため、深夜手当を含む割増賃金は、原則として月単位で合算したうえで端数処理を行う運用が望ましいでしょう。
まとめ|深夜手当計算を正しく理解し、労務リスクを未然に防ごう
本記事では、人事・労務担当者が押さえておくべき深夜手当計算の基本から実務対応までを体系的に解説してきました。
深夜手当は「22時〜5時の労働に対して25%以上の割増賃金を支払う」というシンプルな原則がある一方で、残業や休日労働との重複、通常賃金の範囲、固定残業代との関係など、判断を誤りやすいポイントが数多く存在します。
特に注意すべき点として、以下のポイントが挙げられるでしょう。
- 深夜・残業・休日の割増率は重複して加算される
- 雇用形態にかかわらず、深夜労働には原則として深夜手当が必要
- 通常賃金に含める手当の判断ミスは、未払いリスクを拡大させる
- 計算ミスが発覚すると、過去に遡った支払いや是正指導につながる可能性がある
こうしたリスクを回避するためには、正しい知識を持つことはもちろん、勤怠管理システムの活用や、社労士など外部専門家の力を借りることも有効な選択肢となります。
「今の計算方法で本当に問題ないのか」「自社の給与体系は法令に沿っているのか」と少しでも不安を感じた場合は、早めにチェックすることが重要です。
深夜手当の見直しは、単なる計算業務の改善ではなく、従業員との信頼関係を守り、企業のコンプライアンスを強化する第一歩と言えるでしょう。
まずは自社の深夜手当ルールや給与規程を見直し、必要に応じて専門家へ相談するところから始めてみてはいかがでしょうか。
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この記事の執筆者

- 社会保険労務士法人ステディ 代表社員
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