パートから正社員への転換:有給休暇の取り扱いなど知っておくべきポイント

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パート 正社員

パートタイム労働者から正社員への転換は、キャリアアップの重要な機会の一つです。人手不足で悩む中小企業では、優秀なパート従業員の定着を図るために正社員への転換を推進することがよく見受けられます。

パートから正社員への転換の過程は雇用形態・雇用条件が変更となりますので、特に有給休暇の取り扱いについて注意が必要です。

本記事では、

  • 転換時の有給休暇の継続性
  • 付与日数
  • 関連する法律や企業の義務

上記について詳しく解説しますので、今後パートから正社員へのキャリアアップ制度の構築を検討される企業様はぜひご参考ください。

パートから正社員への転換とは

パートから正社員への転換は、非正規雇用から正規雇用へのキャリアアップを意味します。

多くの企業が従業員のスキルや貢献度を評価し、パート社員に正社員になるチャンスを提供しています。この転換は、個人のキャリア発展と企業の人材活用の両面で重要な役割を果たします。

まずは、パートと正社員がどのように異なるのか確認した上で、パートから正社員へ転換する場合のメリットを従業員目線・会社目線でそれぞれ確認しましょう。

パートと正社員の違い

パートと正社員では、労働時間の長さがよく取り上げられますが、その他にも相違点があります。

次の表はパートと正社員を比べたときに異なるポイントとなりますので、確認してみましょう。

カテゴリ正社員パート
雇用の安定性無期雇用が基本有期雇用が多い
労働時間フルタイムが一般的短時間勤務が主流
責任と権限大きな責任と権限限定的な責任と権限
給与体系月給制が多く、昇給や賞与の機会も多い時給制が一般的
福利厚生充実した福利厚生福利厚生が限定的
キャリア発展昇進や異動の機会が多く、長期的なキャリア形成がしやすい昇進や異動の機会が少ない

パートから正社員に転換する従業員のメリット

パートから正社員に転換することで、収入や福利厚生の安定、キャリアアップの機会など、従業員にとって多くのメリットが得られます。ここでは、その主なポイントを整理してご紹介します。

収入の安定と向上

正社員になることで毎月の収入が安定し、昇給や賞与も期待でき、将来的な収入アップが見込めます。また、社会的信用が高まりますので、ローンや賃貸契約でも有利となる可能性があります。

キャリアアップと成長の機会

より責任ある立場で働くことで、スキルアップの機会が増え、将来のキャリア発展につながります。

福利厚生と雇用保障の充実

正社員としての無期雇用により、雇用が安定し、社会保険や場合によっては付与される有給休暇の日数も増えますので、手厚い福利厚生も享受できると言えるでしょう。

パートから正社員に転換させる企業のメリット

パートから正社員への転換は、企業にとっても多くのメリットをもたらします。

従業員のスキル向上やモチベーションの向上を促進し、職場の安定性や生産性を高めることが可能です。ここでは、その主な利点について詳しく説明します。

人材確保と組織の安定

優秀な人材を正社員として迎え入れることで、企業は長期的な人材確保が可能となります。正社員化により、従業員が持つ経験やスキルを企業に定着させることができ、組織の安定性と一体感を高め、業務の継続性にもつながります。

従業員の成長とモチベーション向上

正社員への転換は、従業員にとって「認められている」という意識を与え、仕事に対する責任感とモチベーションが向上します。

また、スキルアップやキャリア形成を支援することで、従業員の成長を促し、企業への貢献意識も高まります。

業務効率化と企業イメージ向上

経験豊富な従業員を正社員として登用することで、業務の引き継ぎや知識の共有が円滑に行われ、業務効率が向上します。

加えて、正社員転換を積極的に行う企業として社会的評価が高まり、外部からの信頼やブランド力の向上にも寄与します。

また、パートから正社員へ転換する場合、企業は「キャリアアップ助成金」を利用して最大80万円受給できる可能性もあります。

キャリアアップ助成金については次の記事で紹介していますので、ぜひ併せてご一読ください。

パートから正社員への転換手順

パートタイム労働者から正社員へ転換する場合、労働条件が大きく変わることになりますので従業員と企業の双方で重要な手続きが必要になります。

どのようなプロセスを設けるのか会社によって異なりますが、転換の意思表示、転換の対象となるための評価、必要な手続きや書類についてよくある事例を紹介いたします。

転換の申し出ルールの設定

まず、パート社員が正社員転換を希望する際の申し出方法を明確に定めます。

具体的には、申請用紙や申請フォームを通じた申告といった形式を設け、さらに転換申請可能な勤務期間(例:入社後1年以上)などの条件も就業規則に記載します。

これにより、パート社員にとってもわかりやすい申請プロセスを構築できます。

必要な書類と選考方法の策定

転換の申し出を受けた際に必要な手続きや書類をあらかじめ決定しておきましょう。

企業側は、

  • 書類審査
  • 面接
  • 実務評価

このような各種選考方法を事前に定義し、適正を評価するプロセスを明確にします。

さらに、転換が承認された場合に提出すべき雇用契約書や社会保険手続きの書類も準備しておくことで、スムーズな対応が可能になります。

転換後の勤務条件や注意事項の明示

正社員転換後の勤務条件や変更点についても、あらかじめパート社員に周知しておくことが重要です。

例えば、労働時間や給与、福利厚生などがどのように変更されるかを正確に示し、新たに適用される制度についても説明します。

また、正社員として求められる業務や責任範囲についての明確なガイドラインを提供することで、転換後の期待と役割が理解され、従業員も安心して新たなポジションに適応できます。

パートから正社員へ転換した場合の有給休暇に関する注意点

有給休暇は労働者の権利として重要ですが、パートタイム労働者から正社員への転換時には特に注意が必要です。以下、詳細に解説します。

パートと正社員の有給休暇の違い

雇用形態に関わらず、6ヶ月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に付与されるというルール自体は同じですが

パートと正社員では、付与される有給休暇の日数が大きく異なります。

 正社員(フルタイム労働者)の場合、

  • 週所定労働日数が5日以上、または週所定労働時間が30時間以上の場合
  • 勤続6ヶ月で10日付与され、その後勤続年数に応じて最大20日まで増加

上記日数が有給休暇として付与されることになりますが、

 パート・アルバイトの場合

  • 週所定労働日数や週所定労働時間に応じて比例付与される
  •  例えば
    • 週4日勤務: 勤続6ヶ月で7日付与、最大15日まで増加
    • 週3日勤務: 勤続6ヶ月で5日付与、最大11日まで増加
    • 週2日勤務: 勤続6ヶ月で3日付与、最大7日まで増加

このように、勤務日数(もしくは週の労働時間)によって、付与される有給休暇の日数が異なるのです。

ただし、パート・アルバイトでも週30時間以上勤務の場合は正社員と同じ付与日数となりますので注意しましょう。

転換時の有給休暇の取り扱い

パートタイム労働者が正社員に転換する際、有給休暇の取り扱いについても考慮が必要です。

従業員の勤続年数によって付与される有給休暇の日数が異なります。

パートタイムで働いていた期間については、正社員に転換したとしても勤続年数として通算しなければなりません

また、転換後は付与日数の再計算が行われ、正社員としての基準に基づいて新たな付与日数が算出されます。

さらに、転換前に未消化となっている有給休暇は引き継がれるため、従業員が転換後もこれを利用できるようにします。このように、有給休暇に関する取り扱いについても従業員に明確な説明を行うことが重要です。

有給休暇の繰り越しについて

有給休暇の繰り越しに関しては、パートタイム労働者と正社員に共通のルールが適用されます。

繰越期間として、有給休暇は付与から2年間有効で、繰り越せる日数の法定上限はありませんが、最大で前年度の付与日数と同数までとされています。

また、消化時には繰越分から先に消化するのが一般的です。なお、2年を経過すると時効により消滅するため、計画的に取得することが重要です。

有給休暇は労働者の権利であり、パートタイム労働者から正社員への転換時にも適切に引き継がれるべきです。

企業は転換時の有給休暇の取り扱いを明確にし、従業員に周知することが大切です。また、従業員も自身の有給休暇の状況を把握し、適切に取得するよう心がけましょう。

転換時の給与と待遇の変化

パートタイム労働者から正社員への転換時には、給与や待遇に大きな変化が生じます。以下、主な変更点について詳しく解説します。

給与体系の変更点

パートタイムから正社員に転換することで、給与体系に大きな変化が生じます。

時給制から月給制への移行や、昇給・賞与制度の対象となることにより、収入面での安定と向上が期待されます。また、正社員特有の諸手当や残業代の計算方法も異なるため、給与体系全体について十分な理解が必要です。

基本給の構造変更

パートタイムの時給制から正社員の月給制に移行します。基本給は職務内容や能力、経験年数などを考慮して決定され、パートタイム時の評価基準から変更される点に注意が必要です。

昇給制度の導入

正社員転換により、定期昇給や業績連動型の昇給制度の対象となります。多くの企業では、業績や評価に応じて年次昇給が行われるため、収入が長期的に安定して向上する見込みが得られます。

賞与の支給

正社員転換により、夏季・冬季の賞与支給対象となることが多く、賞与額は基本給や業績評価に基づいて決定されます。これはパートタイムからの大きな変化であり、年間収入にも影響を与えます。

諸手当の追加

正社員には、役職手当や家族手当、住宅手当など、様々な手当が支給される可能性があります。パートタイム時には対象外だった手当が加わることにより、トータルでの収入が大幅に増加するケースもあります。

残業代の計算方法変更

正社員では、月給を基に残業代が計算されます。時給制のパートタイム時と比べて計算方法が異なるため、時間外勤務の取り扱いも変わる点に留意が必要です。

社会保険加入の影響

正社員転換により、健康保険や厚生年金などの社会保険への加入が求められるようになります。これにより保険料負担が増える一方で、病気や老後の保障が手厚くなり、長期的な安心感・経済的なリスクに備えられる点が大きなメリットです。

雇用保険の条件変更

正社員転換により、雇用保険の加入条件が変更されることで、万が一の離職時に受け取れる失業給付の受給要件や金額が変わる可能性があります。これにより、失業期間中の生活支援がより手厚くなり、経済的な安心感が増します。

健康保険・厚生年金への加入

正社員転換に伴い、パートタイム時に未加入だった場合でも健康保険や厚生年金の強制加入が必要になります。これにより保険料の負担が増えますが、病気や怪我の際の保障や老後の年金受給額が充実し、安心して長期的に働ける環境が整います。

パートタイムから正社員への転換は、給与面だけでなく、様々な待遇の改善につながります。ただし、責任や業務量の増加も伴うため、転換を検討する際は総合的に判断することが重要です。また、企業側も「同一労働同一賃金」の原則に基づき、公平で納得性の高い待遇変更を心がける必要があります。

パートから正社員への転換を促進する法律

パートタイム労働者から正社員への転換を促進するため、日本では複数の法律が整備されています。これらの法律は、非正規雇用労働者の待遇改善と雇用の安定化を目的としています。

労働契約法第18条(無期転換ルール)

労働契約法第18条は、いわゆる「無期転換ルール」を定めています。このルールの主な内容は以下の通りです。

  1. 同一の使用者との間で、有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できる。
  2. 通算5年のカウントは、2013年4月1日以降に開始した有期労働契約が対象となる。
  3. 無期転換の申込みは、通算5年を超える契約期間の初日から、その契約期間の末日までの間に行う必要がある。
  4. 使用者は、労働者からの無期転換の申込みを拒否することはできない。

このルールにより、長期にわたって有期契約で働いているパートタイム労働者も、安定した雇用を得る機会が保障されています。

パートタイム・有期雇用労働法

パートタイム・有期雇用労働法は、パートタイム労働者や有期雇用労働者の待遇改善を目的とした法律です。この法律の中で、正社員への転換に関連する主な規定は以下の通りです。

  1. 事業主は、通常の労働者への転換を推進するための措置を講じなければならない(第13条)
  2. .転換推進措置の具体例
    1. 通常の労働者を募集する際、その募集内容をパートタイム労働者にも周知する
    2. 通常の労働者のポストを社内公募する際、パートタイム労働者にも応募の機会を与える
    3. パートタイム労働者から通常の労働者への転換試験制度を設ける
  3. 事業主は、パートタイム労働者から求められた場合、転換推進措置の内容を説明しなければならない。

この法律により、パートタイム労働者が正社員になるための機会が確保されるとともに、企業側にも積極的な取り組みが求められています。

まとめ:パートから正社員への転換を成功させるポイント

パートタイム労働者から正社員への転換は、キャリアアップの重要な機会です。これまでの内容を踏まえ、転換を成功させるための主要ポイントを整理すると

  • 法律の理解:労働契約法やパートタイム・有期雇用労働法など、関連法規を正しく理解する
  • 企業の制度把握:自社の正社員転換制度や申請手順を事前に確認・策定する
  • 転換後の変化への準備:給与体系や社会保険、福利厚生の変更について従業員に周知する
  • 長期的なキャリアプランの策定:正社員転換後のキャリアパスを考え、目標を設定する

企業としては、上記のような取り組みが必要といえるでしょう。

パートから正社員への転換は、個人のキャリア形成と企業の人材活用の両面で重要な過程です。しかし、具体的な転換方法や準備については、個々の状況や企業の制度によって異なる場合があります。

より詳細な助言や個別の状況に応じたサポートが必要な場合は、専門家によるコンサルティングサービスをご利用いただくことをおすすめします。弊社では、会社の状況に併せた「正社員転換制度」の導入支援をしています。

パートから正社員への転換に関する疑問や不安がある企業様はお気軽にお問い合わせください。

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