アルバイトでも雇用保険に入れるの?加入の条件は?学生や掛け持ち勤務の場合はどうなる?
このような疑問をお持ちの経営者様・人事労務ご担当者の方も多いのではないでしょうか?
本記事では、雇用保険の基本から加入手続き、受けられる給付の種類、さらに未加入時のリスクや特殊なケースまで、アルバイトに関わる雇用保険の知識をお伝えいたします。
働く側にも雇う側にも役立つ、実務に即した情報を徹底解説しますので、ぜひご一読ください。
アルバイトでも雇用保険に加入できる?基本条件を解説
「アルバイトは雇用保険に入れない」と思っていませんか?
実は、一定の条件を満たせば、アルバイトやパートタイマーであっても雇用保険に加入できます。この章では、社労士として多くの事業主や労働者から寄せられる相談をもとに、加入の可否を判断するうえで重要なポイントをわかりやすく解説します。働く側も雇う側も、正しい知識を持って雇用保険制度を活用しましょう。
雇用保険の適用事業所とは
雇用保険はすべての「適用事業所」において、条件を満たす労働者に加入義務がある制度です。
雇用保険適用事業所とは何か?
- 労働者を一人でも雇用している事業所であれば、原則として雇用保険の「適用事業所」に該当します。
- 正社員だけでなく、アルバイトやパートタイマーも「労働者」に含まれるため、事業所が適用対象であるかをまず確認することが重要です。
特例として、農林水産業など一部の個人経営で労働者が5人未満のケースでは、適用除外となる可能性がありますが、ほとんどの企業や店舗は「適用事業所」となります。
加入対象となるアルバイトの条件
アルバイトが雇用保険に加入するためには、以下の3つの条件すべてを満たす必要があります。
①週20時間以上の所定労働時間
最も基本的な基準が「週20時間以上働いているかどうか」です。
- 例えば、1日5時間勤務×週4日=週20時間なら対象となります。
- 逆に、1日3時間勤務×週5日=週15時間の場合は、対象外となります。
ここで注意したいのは「実働時間」ではなく、まずは「所定労働時間」で判断する点です。シフト制で働く場合は、契約上の勤務予定時間で確認しましょう。
②31日以上の雇用見込み
短期アルバイトなどのように雇用期間が30日以内と明確な場合は、原則として加入対象外となります。
- 「契約期間が2カ月」や「更新の可能性あり」といった場合には、実質的に31日以上の雇用見込みがあれば対象になります。
- 雇用契約書に「更新あり」と記載があるか、採用時に更新前提であるかが判断材料になります。
曖昧なまま契約してしまうと、後からトラブルにつながるため、雇用契約書の内容をしっかり確認することが重要です。
③学生の取り扱いと例外
アルバイトであっても、学生の場合は基本的に雇用保険の対象外です。ただし例外があります。
- 雇用保険の対象外となる学生
- 昼間に学校に通う一般の大学生・専門学校生など
- 雇用保険の対象となるケース
- 定時制・通信制・夜間大学に通う学生
- すでに卒業が決まっている学生(卒業見込み証明書あり)
- 留年や休学中の学生
このように、学生であっても状況によっては対象になることがあるため、本人の在学形態をもとに個別判断が必要です。
アルバイトでも、一定の勤務条件を満たせば立派な「雇用保険被保険者」となれます。知らないまま未加入のままだと、いざというときに失業給付などを受けられない事態にもつながります。事業主としても、適切な加入手続きを行うことが労務トラブルを防ぐ第一歩です。
雇用保険の加入手続きと必要書類
アルバイトが雇用保険に加入する際には、事業主と本人の双方が役割を果たす必要があります。
事業主は正確な手続きを通じて労働者を制度に加入させ、アルバイト本人も必要な書類を準備することでスムーズに手続きが進みます。ここでは、手続きの流れと必要な書類を、社労士の実務経験を踏まえてわかりやすく解説します。
事業主が行う手続きの流れ
雇用保険への加入手続きは、原則として事業主がハローワークに届け出ることで行います。手続きの漏れや遅延があると、後日トラブルに発展することもあるため、慎重に対応することが求められます。
- 雇用契約の確認
- 週所定労働時間や雇用期間などが加入条件を満たしているかをチェックします。
- 必要書類の収集
- アルバイト本人から、マイナンバーや雇用保険被保険者証などを提出してもらいます。
- 「雇用保険被保険者資格取得届」の作成・提出
- 提出先は原則として事業所を管轄するハローワークです。
- 雇い入れ日から10日以内の提出が義務づけられています。
- 控えの保管と本人への説明
- 提出した控えや被保険者番号などを適切に保管し、本人にも加入済であることを伝えます。
実務では、電子申請(e-Gov)を利用する事業所も増えており、ペーパーレスで迅速に処理が可能です。社労士に依頼することで、正確性と法令遵守の担保にもつながります。
アルバイトが準備すべき書類
雇用保険への加入手続きは事業主が行いますが、アルバイト本人にも書類の提出が求められます。準備不足で手続きが遅れると、必要な給付が受けられないリスクもあるため、以下の書類は確実に揃えておきましょう。
雇用保険被保険者証の提出
過去に雇用保険に加入していたことがある場合、再び加入する際には「雇用保険被保険者証」が必要です。新卒や初めての就労者は不要ですが、転職や再雇用の場合は基本的に提出しなければなりません。
被保険者番号は雇用保険の加入履歴を引き継ぐために重要な情報であり、失業給付などの受給にも影響します。
もし紛失してしまった場合は、本人がハローワークで再発行の手続きを行うことが可能です。
マイナンバーの提供と注意点
マイナンバー(個人番号)の提出は、雇用保険の資格取得届を作成する際に必要不可欠です。これにより、正確な個人情報の登録・管理が可能となります。
- 提供時は番号確認書類(通知カードやマイナンバーカード)と本人確認書類(運転免許証など)の両方が必要
- 情報漏洩を防ぐため、マイナンバーの取り扱いは厳格に管理される必要があります。事業主は保管方法やアクセス制限に十分注意する
なお、マイナンバーの提供に不安を感じるアルバイトもいるため、事業主は取得目的や管理体制について丁寧に説明すると安心感につながります。
雇用保険に加入するメリットと給付内容
「雇用保険=失業手当」だけだと思っていませんか?
実は、雇用保険には失業したときだけでなく、育児やスキルアップの場面でも活用できる多様な給付制度があります。
アルバイトでも条件を満たせばこれらの給付を受けることができ、将来に備えるうえで非常に大きな安心材料となります。ここでは、主な給付内容とその受給条件を、社労士としての実務経験をもとに、わかりやすく解説していきます。
失業手当の受給要件と計算方法
失業手当(正式名称:基本手当)は、雇用保険の中でも最も認知度の高い給付です。対象となるのは、「働く意思と能力がありながら、仕事に就けていない状態にある人」です。失業手当は以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 雇用保険に原則として「離職日以前の2年間に通算12か月以上」加入していたこと
- ハローワークに求職の申し込みを行い、「積極的に就職活動をしている」こと
アルバイトでも、週20時間以上勤務し、かつ31日以上の雇用が継続していれば、加入期間としてカウントされます。
【給付日数と金額の目安】
- 支給日数は、年齢・加入年数・離職理由(自己都合か会社都合か)によって異なります。
- 金額は、離職前6ヶ月間の賃金日額をもとに「50~80%程度」の割合で計算されます。
実際には「賃金日額×所定給付率×支給日数」で算出され、上限・下限額が設定されています。たとえアルバイトであっても、受給権があることは大きなセーフティネットです。
育児休業給付金の活用も可能
雇用保険には、出産や育児、スキルアップといったライフイベントを支える給付も用意されています。非正規雇用者でも条件を満たせばこれらの給付を受けられるケースもあるので、確認することを推奨いたします。
例えば、育児休業給付金は、育児のために仕事を休んでいる間、一定の収入を補填するための制度です。育児休業給付金の対象となる主な条件は
- 1歳未満の子どもを養育するために育児休業を取得したこと
- 育児休業開始前2年間に、11日以上働いた月が12ヶ月以上であること
- 休業期間中の就業日数が最大10日以下または就業時間が80時間以下であること
- 養育する子どもが1歳6ヶ月に達するまでに労働契約が終了することが明らかでないこと
上記となっています。
受給対象になると「育児休業開始から180日間は休業開始前賃金の67%」、それ以降は「50%」(ただし支給限度あり)の給付金を受け取ることができます。
アルバイトであっても育児休業を取得できる職場であれば、支給対象となり得ますので、育児予定のある方は確認しておきましょう。
雇用保険に未加入の場合のリスクと罰則
「アルバイトだから雇用保険は必要ない」と考える事業主や、「よくわからないから加入していない」という労働者も少なくありません。
しかし、加入すべき労働者が雇用保険に入っていない状態は、重大なリスクを伴います。万が一の際に受け取れるはずの給付がもらえないだけでなく、事業主は法的責任を問われることもあります。ここでは、未加入のままでいることによるリスクと対応策を解説します。
事業主が未加入にした場合の法的責任
雇用保険は、加入要件を満たす労働者に対して、事業主が必ず手続きを行わなければならない「強制保険制度」です。にもかかわらず、加入手続きを怠った場合には、以下のような法的責任が発生します。
- 雇用保険法第83条に基づく罰則
- 加入手続きの未履行について、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
- 遡及適用による保険料の徴収
- ハローワークから過去に遡って加入指導を受けると、最大2年間までの雇用保険料の事業主負担分+労働者負担分をまとめて支払うことになります。
- 行政指導・監査対応のリスク
- 社会保険労務士としての現場経験でも、労働基準監督署や年金事務所からの調査で発覚するケースが少なくありません。企業の信用にも悪影響を与えるため、適正な加入管理は非常に重要です。
アルバイト本人が受ける不利益
事業主だけでなく、未加入の状態が続くことで、アルバイト本人にも大きな不利益が生じます。特に、長期的に働いていた人ほど、その損失は深刻です。
失業手当が受け取れないケース
アルバイトでも一定の要件を満たせば失業手当(基本手当)を受ける権利がありますが、雇用保険に加入していなければ、当然ながら給付の対象にはなりません。
- 退職後、生活資金が途絶えるリスク
- 次の就職先が見つかるまでの猶予期間が持てない
- 離職票が発行されず、就職活動が不利になる
これらは、実際の相談でも多く見られる「手遅れの後悔」に直結するポイントです。
遡及加入の可能性と手続き方法
もしも本来加入すべきだったのに未加入だったと気づいた場合、遡って加入手続きを行うことが可能なケースもあります。
- 申請は原則として事業主が行う
- 雇用保険の「資格取得届」を提出します。
- 過去の勤務状況を証明する資料
- 出勤簿・賃金台帳・雇用契約書などの客観的資料が必要です。
遡及できるのは原則として「2年以内」となりますが、雇用保険が給与から天引きされていたことが明らかである場合は、2年を超えて遡って、雇用保険の加入手続きが可能です。
とはいえ、本人が希望しても事業主が協力しない場合には難航することもあります。そのため、早めの相談と専門家への依頼が重要です。
特殊なケース:学生・掛け持ち・短期アルバイトの取り扱い
雇用保険への加入条件は一律ではなく、働く人の状況によって取り扱いが異なるケースもあります。
特に、学生アルバイト、複数のバイトを掛け持ちしている人、短期間だけ働く人などは、通常の基準とは別の判断が必要です。ここでは、実務で混乱しやすい特殊ケースに焦点を当て、適用の考え方と注意点を解説します。
学生アルバイトの雇用保険適用範囲
学生は、一般的に雇用保険の対象外とされていますが、「すべての学生が加入できない」というわけではありません。大事なのは「通学の形態と就労の実態」です。
対象外となる学生の例 | 対象となる可能性のある学生 |
・昼間の大学・短大・専門学校に在籍し、授業を受けている者(いわゆる“普通の学生”) ・高校生 | ・夜間部や定時制に通う学生 ・通信制大学に在籍する学生 ・休学中や留年中の学生(就労が主となっていると判断される場合) |
また、卒業が確定している(卒業見込み証明書を提出している)学生についても、在学中であっても「卒業予定者」として加入が可能です。雇用保険は「学業が本分か、労働が本分か」で判断されるため、状況に応じた正確な判断が求められます。
複数のアルバイトを掛け持ちする場合の注意点
アルバイトを複数掛け持ちしている場合、「どの勤務先で雇用保険に加入するのか?」という点が重要になります。なぜなら、雇用保険は1人1加入が原則で、同時に複数の事業所で加入することはできません。
主たる賃金支払者の特定方法
掛け持ちしている場合は、「主たる賃金支払者」を特定し、その事業所でのみ雇用保険に加入することが一般的です。
- 賃金の高い方
- 労働時間が長い方
- 雇用の継続性が高い方(更新あり、勤務頻度が高いなど)
主たる事業所で雇用保険の手続きを行い、他の事業所では雇用保険の加入は不要となります。なお、主たる勤務先が変わった場合には、加入先の切り替えが必要になることもあります。
雇用保険の二重加入とその対処法
まれに、2つの事業所がそれぞれ「主たる勤務先」と誤認し、二重で雇用保険の手続きをしてしまうことがあります。このような場合、以下の対応が求められます。
- ハローワークへの申し出によって、正しい加入先を確定し、片方を取り消す手続きが必要
- 給付申請時に、どちらの事業所の加入情報を使うかを明確にする必要がある
二重加入は制度上認められていないため、早期発見・訂正が重要です。事業主は、雇用契約時に掛け持ちの有無を確認し、必要に応じて主たる勤務先かどうかの確認を行うことが望まれます。
まとめ:アルバイトでも雇用保険の知識は必須
雇用保険は正社員だけの制度ではなく、アルバイトやパートタイマーであっても、一定の条件を満たせば加入が義務づけられています。本記事では、加入条件から手続きの流れ、万が一未加入だった場合のリスクまでを解説しました。
とくに、学生や掛け持ち、短期雇用などの特殊なケースでは誤解も多く、知らずに未加入のままにしてしまう事例も少なくありません。しかし、雇用保険は失業時の支援だけでなく、育児や教育支援など、長期的なキャリア形成にも役立つ大切な制度です。
事業主の皆さまにとっても、適切な加入管理は法令遵守はもちろん、従業員からの信頼確保にもつながります。「アルバイトだから大丈夫」と油断せず、正確な知識と対応が求められます。
雇用保険の加入状況に不安がある方、これから体制整備を進めたいとお考えの経営者・ご担当者様はぜひお気軽に弊社までご相談ください。制度の正しい理解と実務対応に関して、社労士がわかりやすくサポートいたします。
この記事の執筆者

- 社会保険労務士法人ステディ 代表社員
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