管理監督者の残業代:適用条件と注意点を社労士が徹底解説

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「管理監督者だから残業代は出ない」と思っていませんか?実は、それは必ずしも正しくありません。労働基準法では、管理監督者に該当する場合、一部の労働時間規制が適用除外となるものの、深夜労働手当などの支払い義務が残るケースもあります。しかし、企業によっては「名ばかり管理職」として、不適切な運用がなされることもあり、労働者・企業双方にとってリスクとなる可能性があります。

本記事では、管理監督者の法的定義、残業代が支払われるケースと支払われないケース、企業が注意すべきポイントについて詳しく解説します。さらに、過去の判例をもとにした具体的な事例や、労働基準監督署の調査で問題視されるポイントについても取り上げ、実務で役立つ情報を提供します。

「自分は管理監督者として正しく扱われているのか?」
「会社の管理職制度に問題はないか?」

このような疑問をお持ちの方は、ぜひ最後までお読みください。正しい知識を身につけることで、適切な労務管理を行い、労働トラブルを未然に防ぐことができます。

管理監督者とは?労働基準法上の定義と適用範囲

企業の管理職の中には、「管理監督者」として扱われる人もいれば、一般的な管理職として業務を担っている人もいます。しかし、「管理職だから残業代は支払われない」という考えは誤解です。労働基準法では「管理監督者」として認められるための厳格な要件があり、単に役職名が「部長」や「課長」であっても、それだけで管理監督者と見なされるわけではありません。

本章では、管理監督者の法的定義を整理したうえで、一般的な管理職との違い、具体的にどのような役職が該当するのかについて詳しく解説します。企業の人事・労務担当者はもちろん、自身が管理監督者として適切に扱われているのか確認したい方にとっても、必須の知識です。

管理監督者の法的定義

労働基準法では「管理監督者」に該当する労働者について、労働時間、休憩、休日の規定が適用されないと定められています(労働基準法第41条第2号)。つまり、管理監督者に認められれば、一般の労働者のように法定労働時間(1日8時間、週40時間)や、休日の確保義務が適用されなくなるのです。

(労働時間等に関する規定の適用除外)
第四十一条 この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

e-GOV「労働基準法

しかし、どのような人物が管理監督者として認められるのかについては、法令上の明確な基準がないため、過去の判例や行政解釈が重要な判断基準となります。厚生労働省のガイドラインや裁判例によると、管理監督者に該当するためのポイントは以下の3点です。

  1. 経営者と一体的な立場にあるか
    • 経営方針や人事決定に深く関与している
    • 部署の業務運営に裁量権がある
  2. 労働時間に関する裁量があるか
    • 出退勤の自由度が高く、労働時間管理の対象外である
  3. 一般の労働者と比べて待遇が優遇されているか
    • 役職手当や管理職手当が支給され、残業代が不要なほどの高い給与水準がある

この3つの要素を満たしている場合、管理監督者として認められる可能性が高くなります。ただし、形式的な役職名だけではなく、実態としてこれらの条件を満たしているかどうかが重要です。

一般的な管理職との違い

企業の管理職の中には、「管理監督者」に該当する者と、該当しない者が混在しています。一般的な管理職と管理監督者の違いを整理すると、以下のようになります。

項目管理監督者一般的な管理職
労働時間規制適用除外(法定労働時間・休憩・休日の適用なし)適用(労働時間管理の対象)
出退勤の自由原則として裁量あり就業規則や勤務時間の適用を受ける
残業代の支払い不要(ただし深夜労働手当は必要)時間外労働には残業代が発生
経営に関与する度合い経営者に近い立場部署の業務遂行が主な業務
待遇一般労働者と比較して高待遇通常の給与体系に基づく

一般的な管理職であっても、労働時間の管理が必要であり、残業代が発生するのが通常です。これに対し、管理監督者は経営側の立場に近く、労働時間の裁量を持ち、待遇面で一般労働者とは明確に異なることが求められます。

しかし、実際には「名ばかり管理職」として、実態としては労働者と変わらないにもかかわらず、管理監督者として扱われてしまうケースが多く、これが問題となることがあります。適切な基準を理解し、企業側も労働者側も正しく判断することが重要です。

管理監督者に該当する役職の具体例

管理監督者に該当する可能性が高い職種・役職には以下のようなものがあります。

管理監督者として認められやすい役職

  • 取締役(執行役員含む)
  • 事業部長・本部長
  • 工場長・支店長・支社長
  • 店舗の統括責任者(エリアマネージャー など)

これらの職種は、組織の方針決定に関与し、業務遂行の裁量を持ち、経営側の判断を担う立場であるため、管理監督者として認められやすい傾向にあります。

管理監督者と判断されにくい役職

  • 一般的な課長・部長
  • 店長(特にチェーン店舗)
  • 工場・営業所の現場責任者
  • チームリーダー・ユニットリーダー

例えば、「店長だから管理監督者」という考えは適切ではありません。過去の裁判では、チェーン店の店長が実質的にアルバイト・パートと変わらない業務をしており、経営側の裁量がなかったため、管理監督者ではないと判断されたケースもあります。

また、「管理職手当がある=管理監督者」とはなりません。管理職手当の支給額が残業代を大幅に下回る場合、労働基準監督署の指摘を受けるリスクがあります。企業は、役職の実態を踏まえて適切な労務管理を行う必要があります。

管理監督者の労働時間と残業代:適用される規定と除外される規定

「管理監督者は残業代が出ない」と言われることが多いですが、これは一概には正しくありません。確かに、管理監督者として認められると、労働基準法の一部の規定が適用除外となり、一般労働者のように労働時間の管理を受けなくなります。しかし、それでもすべての労働時間ルールが適用されないわけではなく、一部の規定は適用され続けるため、企業側も労働者側も正しい理解が必要です。

本章では、管理監督者に適用される労働時間のルール、適用除外となる規定、深夜労働や有給休暇に関するポイント、そして残業代が支払われないケースとその理由について詳しく解説していきます。

労働時間・休憩・休日に関する適用除外

管理監督者は、労働基準法第41条第2号に基づき、以下の規定が適用除外となります。

労働時間の適用除外

管理監督者は法定労働時間(1日8時間・週40時間)の制限を受けません。そのため、1日12時間働いても、労働基準法上は違反とならないのです。

  • 一般労働者:1日8時間、週40時間を超えた場合は残業代支払いが必要
  • 管理監督者:労働時間の管理対象外のため、時間外労働の規定が適用されない

企業側は、管理監督者が長時間労働に陥りやすいことを考慮し、健康管理や働き方改革を推進することが求められます。労働時間管理は不要でも、過労死ライン(1ヶ月80時間以上の残業)を超える働き方が問題視されることは変わりません

休憩時間の適用除外

通常、労働基準法では6時間を超える労働で45分、8時間を超える労働で1時間の休憩を付与することが義務付けられています。しかし、管理監督者はこの休憩時間のルールも適用除外となります。

  • 一般労働者:労働時間に応じて休憩時間を確保する義務
  • 管理監督者:休憩を取るかどうかは自己裁量

休日の適用除外

通常、週1回以上の休日を与えることが法律で義務付けられています(労基法35条)。しかし、管理監督者にはこの休日の付与義務も適用されません。

  • 一般労働者:少なくとも週1回、または4週4日の休日を確保
  • 管理監督者:休日の取得は裁量に委ねられる

企業側は、管理監督者だからといって休日をまったく与えない運用はNGです。休日を取らせないことで労働者の健康を害した場合、安全配慮義務違反として企業が責任を問われる可能性があります。

深夜労働や有給休暇に関する適用規定

管理監督者には一部の労働時間規制が適用されないものの、完全に自由な労働環境が認められるわけではありません。特に、深夜労働と有給休暇については、管理監督者であっても適用される重要なルールがあります。

深夜労働の割増賃金は必要

管理監督者であっても、午後10時から午前5時までの深夜労働には25%の割増賃金が発生します。これは、労働基準法の41条2号で適用除外されていないため、管理監督者であっても企業は深夜労働手当を支払う義務があるのです。

例を上げますと、管理監督者が午前0時まで働いた場合には「22時~0時」の2時間分は割増賃金を支払う必要あるということです。企業側は「管理監督者だから深夜手当は不要」と誤解しないように注意しましょう。

有給休暇は管理監督者でも取得可能

労働基準法の規定では、管理監督者であっても年次有給休暇の取得権は保証されています。企業側が「管理監督者だから有給はない」とすることは違法です。

  • 企業は管理監督者にも有給休暇を付与する義務がある
  • 取得時の給与は通常の労働日と同様に支払う必要がある

管理監督者に対しても、有給休暇を取りやすい環境を整えることが、健康維持や離職防止に繋がります。企業は有給休暇の取得率が低い場合、労働基準監督署の調査対象になる可能性もあることは忘れてはいけません。

残業代が支払われないケースとその理由

管理監督者は、法律上、時間外労働(いわゆる残業)の概念が適用されないため、原則として残業代は発生しません。しかし、これにはいくつかの条件があります。

残業代が発生しないケース

以下の条件を満たしている場合、企業は残業代を支払う必要がありません。

  • 労働時間の管理対象外(=自由裁量がある)
  • 高い給与や役職手当が支給されている
  • 実態として経営側に近い職務を担っている

つまり、「働く時間の自由度が高く、経営者と一体となって業務を遂行し、労働時間を自ら管理できる立場」にあることが前提です。

企業が注意すべき「名ばかり管理職」の問題

実態として、管理監督者の条件を満たしていないのに「役職だけ管理職」として扱われるケースが多く見られます。特に、長時間労働を強いられながら、実態として業務裁量がなく、残業代も支払われない状態は違法と判断される可能性が高いです。

  • 出退勤が厳しく管理されている
  • 役職手当が残業代相当より低額
  • 経営判断に関与していない

このような場合、「名ばかり管理職」として、労働基準監督署の指導や、裁判で残業代の未払いを指摘されることがあります。

企業は、管理監督者の適用条件を慎重に判断し、不適切な運用を避けるべきです。不当に管理監督者と認定してしまうと、後に大きな法的リスクを抱えることになりかねません

管理監督者の判断基準:職務内容・責任・権限・待遇

企業の管理職がすべて「管理監督者」に該当するわけではなく、労働基準法上の判断基準を満たしているかどうかが重要です。管理監督者として認められるためには、職務内容、責任の範囲、労働時間の裁量性、給与・待遇など、実態に基づく判断が必要です。

近年、管理監督者の名のもとに過重労働を強いる「名ばかり管理職」問題が社会問題化しており、企業側は適切な基準を設けることが求められています。本章では、管理監督者の判断基準について、企業が確認すべきポイントを解説します。

職務内容と責任の範囲

管理監督者として認められるかどうかは、その役職の名称ではなく、実際の職務内容と責任の範囲に基づいて判断されます。具体的には、以下のような職務内容が求められます。

企業経営に関与しているか

管理監督者は、単なる現場の責任者ではなく、企業の経営方針や人事に関与できる立場である必要があります。

たとえば、以下のような権限がある場合、管理監督者として認められる可能性が高くなります。

  • 部署やチームの方針決定に携わる
  • 人事評価や採用・解雇の決定権を持つ
  • 会社全体の業績に影響を与える裁量権がある

裁判例では、「業務の裁量権がない管理職は管理監督者とは認められない」との判断がされています。名目だけの管理職になっていないか、企業は慎重に判断することが重要です。

他の従業員を指揮・監督する立場か

管理監督者には、部下の労働管理や業務の遂行に対する監督権限があるかが問われます。

具体的には以下のような要素が考慮されます。

  • 部下の業務指導や目標設定を行う
  • 勤務スケジュールの決定やシフト管理を行う
  • 部署の業績に対する責任を負う

例えば、「〇〇部長」などの役職があっても、単に自身の業務をこなしているだけで、部下を指導・監督する権限がなければ、管理監督者とは言えません

労働時間の裁量性と勤務態様

管理監督者と一般の労働者の大きな違いの一つが、労働時間の管理がどの程度自由かという点です。管理監督者であると認められるためには、労働時間の裁量権があることが重要なポイントとなります。

出退勤の自由度が高いか

管理監督者は、勤務時間を自身の裁量で決定できることが原則です。

例えば、以下のような特徴がある場合、労働時間の裁量性があると見なされます。

  • 出社・退社時間が自由に決められる
  • 休日や勤務時間の調整が可能
  • 業務遂行のために必要な範囲で、自らのスケジュールを組み立てられる

一方で、実際には「始業・終業時間が厳格に管理されている」「出勤・退勤を厳しく指示されている」場合、管理監督者としての適用が認められない可能性が高くなります。

残業が強制される環境ではないか

管理監督者は、法的に残業時間の制限を受けませんが、これは自らの裁量で勤務時間を決められることが前提です。
しかし、現実には「裁量がないのに長時間労働を強いられる」ケースが少なくありません。

  • 毎日12時間以上の勤務を強制される
  • 上司から時間管理の指示を細かく受ける
  • 残業が常態化し、実質的に労働時間の裁量がない

このような場合、管理監督者と認められず、残業代を請求できる可能性が高いため、企業は適切な労働環境の整備が必要です。

給与・待遇面での判断ポイント

管理監督者には、一般の労働者と比べて明確な待遇の優遇があることが前提とされています。これは、「管理監督者だから残業代が出ない」という条件の代わりに、十分な報酬が支払われていることが求められるためです。

一般の労働者よりも高額な給与が支給されているか

管理監督者には、一般の従業員と比較して明らかに高額な給与が支給されていることが重要なポイントになります。

  • 役職手当や管理職手当が支給されている
  • 時間外労働の手当を含んでも一般社員より高収入である
  • 給与総額が「基本給+時間外手当」の合計より明確に高い

「役職手当をつけているから管理監督者」という考えは危険です。
実際には、役職手当が残業代相当以下であれば、不適切な管理監督者の適用と判断されるリスクが高いため、十分な給与設定が求められます。

昇進・昇給の仕組みが適切に整備されているか

管理監督者は、一般の労働者とは異なり、役職に応じた昇進・昇給の仕組みが明確であることが望ましいです。

  • 年次評価や業績評価に基づく昇給制度がある
  • 役職に応じた賞与やインセンティブが支給される
  • 業績への貢献が明確に給与へ反映される

「責任だけ負わされて、待遇が変わらない」という状態は、管理監督者として適切な運用がなされていない可能性があります。

名ばかり管理職の問題点とリスク:企業が注意すべきポイント

「管理職だから残業代は支払わない」という考え方は、労働基準法の管理監督者制度を誤解したものです。実際には、労働基準監督署の調査や裁判において「名ばかり管理職」と判断され、企業が高額な未払い残業代の支払いを命じられるケースが相次いでいます

名ばかり管理職とは、管理監督者としての実態がないにもかかわらず、企業側が管理監督者扱いすることで労働時間の規制を外し、残業代を支払わない状態を指します。本章では、名ばかり管理職の定義、過去の判例から学ぶリスク、企業が取るべき対策について詳しく解説します。

名ばかり管理職とは?

「管理監督者」という言葉がつくと、一見すると会社の経営に近い立場にあるように思われがちですが、実際には**「役職名」だけではなく、業務の実態が管理監督者に該当するかが重要**です。

名ばかり管理職の典型的な特徴

名ばかり管理職と判断されるケースでは、以下のような特徴が見られます。

  • 経営判断に関与していない
    • 会社の方針決定や人事権限がない
    • 部署の方針を決める裁量がない
  • 労働時間の裁量がない
    • 出退勤時間が厳格に管理されている
    • 他の従業員と同じようにシフト制で勤務
  • 給与が一般の労働者と変わらない
    • 役職手当がわずかで、残業代を支払わないためむしろ給与が減る
    • 残業時間を考慮すると時給換算でアルバイト以下になる

裁判では、「役職の名称だけで判断されるのではなく、実態として管理監督者の業務を担っているか」が問われます。つまり、部長や課長であっても、実質的に一般社員と同じ働き方をしているならば、名ばかり管理職と認定される可能性が高いのです。

過去の判例から学ぶリスク

名ばかり管理職に関する裁判は増加傾向にあり、特に以下のような業界では問題が顕著です。

  • 外食産業
  • 小売業(コンビニ・スーパー)
  • 運輸・物流業
  • 営業職(不動産・保険 など)

企業が管理監督者として扱っていた労働者が、実際には「名ばかり管理職」であると判断された判例を見ていきましょう。

マクドナルド事件(東京地裁・2008年)

【概要】
ファストフード店の店長が「管理監督者」として扱われ、残業代が支払われていなかった事例。裁判所は、

  • 経営方針の決定権がない
  • 労働時間の裁量がなく、勤務時間が厳格に管理されていた
  • 給与が一般労働者と比べて著しく高くなかった

という点を理由に、「管理監督者ではない」と判断。結果としては企業側に対し、未払い残業代約750万円の支払いを命じる判決が出ています。

大手コンビニ店長事件

【概要】
全国展開するコンビニチェーンの店長が、労働基準法上の管理監督者として扱われていた。しかし、

  • 売上ノルマの達成が主な業務であり、経営判断を行う権限がなかった
  • 本部の指示通りにシフトを組むだけで、独自の裁量はなかった

という点が問題視され、名ばかり管理職と認定。最終的には、未払い残業代として数百万円の支払いを命じられています。

このような判例が示すのは、「管理監督者」という肩書だけでは労働基準法上の適用除外にならないということです。企業側は、実態をよく理解し、適切な人事運用を行う必要があります。

企業が取るべき対策と注意点

名ばかり管理職問題を防ぐためには、企業側が管理監督者の適用基準を厳格に運用し、適切な労務管理を行うことが重要です。

管理監督者の基準を明確化する

まず、企業は以下のような具体的な基準を設けることが求められます。

  • 経営判断に関与できるか
    • 予算・人事決定の裁量権があるか
  • 労働時間の裁量があるか
    • 出退勤の自由があるか
  • 待遇面での優遇があるか
    • 役職手当や基本給が高く設定されているか

これらの条件を満たしていない管理職には、「管理監督者」扱いをせず、適切な労働時間管理と残業代支給を行うことが求められます。

労働時間の管理を徹底する

企業が名ばかり管理職問題で訴えられないためには、労働時間の適切な管理が必要です。

  • 出退勤を厳しく管理するのではなく、労働者の裁量を尊重する
  • 残業が常態化している管理職には、実態を確認した上で法律上の管理監督者なのか確認し、該当しないのであれば適正な残業手当を支給する
  • 過労防止のための健康管理(長時間労働の是正)を行う

未払い残業代のリスクを回避する

未払い残業代が発生しないように、定期的な労働実態のチェックを行うことが重要です。

  • 労働基準監督署の調査に備え、労働時間管理の記録を整備
  • 「管理監督者」の基準を満たしているか、定期的な見直しを実施
  • 疑わしい場合は、管理監督者としての適用を見直し、適正な給与体系に修正

管理監督者の適切な運用と労務管理のポイント

管理監督者の運用を適切に行うことは、企業にとって労働トラブルを防ぐだけでなく、働きやすい職場環境を整え、組織の生産性向上にもつながります

しかし、実際には「管理監督者だから労働時間の管理は不要」「裁量があるから放置しても問題ない」といった誤解が多く、結果として長時間労働の温床になったり、名ばかり管理職としてトラブルの原因となったりすることも少なくありません。

本章では、管理監督者を適切に運用するためのポイントとして、「労働時間管理と健康配慮義務」「労使間のコミュニケーション強化」「トラブル防止のための契約書・規定の整備」について解説します。

適切な労働時間管理と健康配慮義務

管理監督者は労働時間規制の適用を受けないため、企業は労働時間の管理をしなくてもよいわけではありません

長時間労働が続けば、健康問題や労働災害のリスクが高まり、結果的に企業の責任を問われる可能性もあります。そのため、管理監督者の健康管理には特に注意を払う必要があります。

労働時間の実態を把握する

管理監督者であっても、労働時間の実態を把握し、過重労働が発生していないかチェックすることが重要です。
以下のような対策を取り入れることで、適切な労働時間管理が可能になります。

  • 勤務時間のモニタリング
    • 勤務時間の記録を定期的に確認し、長時間労働が続いていないかチェックする
    • PCのログオン・ログオフ記録や入退室管理システムを活用
  • 勤務状況のヒアリング
    • 月1回の上司との面談で業務量を確認
    • 繁忙期や業務負荷の高い部門は特に注意
  • 労働時間に関するガイドラインの策定
    • 「管理監督者であっても○○時間以上の勤務が続く場合は注意喚起」といった基準を設ける

過労死ラインを超えないよう配慮

長時間労働が常態化すると、健康障害のリスクが高まり、最悪の場合、労災認定や企業の安全配慮義務違反が問われる可能性があります。

  • 月80時間以上の残業が続く場合は、特別な対策を講じる(産業医との面談、業務量の調整など)
  • 休日の取得状況を定期的に確認し、適切な休息を取らせる
  • 健康診断の結果をもとに、業務の軽減や配置転換を検討する

労働基準法上、管理監督者には労働時間の規制が適用されませんが、それでも過重労働が原因で健康を害した場合、企業の安全配慮義務違反として訴えられる可能性があるため、慎重な対応が求められます。

労使間のコミュニケーション強化

管理監督者は経営層と一般従業員の間に立つ立場であり、労使間の橋渡し役としての役割が求められます。しかし、企業と管理監督者の間で認識のズレが生じると、労働環境の悪化やモチベーション低下の原因となります。

管理監督者との定期的な意見交換

企業が管理監督者の実態を正しく理解するためには、定期的な意見交換を行い、職務内容や働き方についてフィードバックを得ることが重要です。

  • 月1回のヒアリングを実施(業務の進捗や困っていることを聞く)
  • 人事評価の際に、労働環境の満足度調査を実施
  • 業務の負荷が過度に偏っていないかチェック

このような取り組みにより、会社としても実態把握が可能となります。

管理監督者が部下と適切な関係を築けるようサポート

管理監督者は部下をマネジメントする立場ですが、企業側が適切なサポートをしないと、パワハラ問題や職場のモラル低下につながる可能性があります

  • 管理職向けのマネジメント研修を実施
  • 部下との関係構築のための1on1ミーティングの推奨
  • パワハラ防止のための企業方針を明確に伝える

管理監督者の職務は、単に業務をこなすだけではなく、チーム全体を円滑に運営することも求められます。そのため、企業は管理監督者に対して適切な指導を行い、マネジメント能力の向上を支援することが不可欠です。

トラブル防止のための契約書・規定の整備

管理監督者に関する労働トラブルを防ぐためには、事前に契約書や就業規則を適切に整備することが重要です。曖昧なルールのまま管理監督者を運用すると、後々「名ばかり管理職」として訴えられるリスクが高まります

管理監督者の適用条件を明確にする

  • 「管理監督者としての適用基準(経営への関与、労働時間の裁量、給与水準)」を就業規則に明記
  • 役職ごとに管理監督者に該当するか否かを分類し、曖昧な適用を避ける
  • 役職手当がどのような基準で支給されるのか、明確なルールを設ける

労働契約書に管理監督者の条件を明記

  • 「管理監督者であることの条件」を具体的に記載
  • 「労働時間の裁量があること」「経営判断への関与があること」を明示
  • 深夜労働手当が支給されることを明記し、誤解を防ぐ

労働時間管理のガイドラインを策定

  • 「管理監督者であっても、○○時間以上の勤務が続く場合は労働環境の見直しが必要」といった基準を設定
  • 休日の取得状況を定期的にチェックし、休暇を適切に取得させる
  • 労働基準監督署の調査に備え、適正な労働管理体制を整備

これらの取り組みにより、会社・管理監督者双方の認識が整理され、トラブル防止につながる効果が期待されます。

専門家からのアドバイス】管理監督者制度の適切な理解と運用

管理監督者制度は、企業の経営を円滑に進めるうえで重要な役割を果たします。しかし、その適用範囲を誤ると、名ばかり管理職問題や未払い残業代の請求といった法的リスクを招くことになります。
また、近年の労働基準法の改正や裁判例の変化により、企業の管理監督者運用に求められる基準も厳格化しています。

本章では、労働基準法の最新動向、管理監督者制度に関するよくある質問、そして専門家が考える適切な運用事例について解説します。企業の人事・労務担当者はもちろん、管理職の方もぜひ参考にしてください。

労働基準法の最新動向と企業の対応

近年、労働基準法の改正や裁判例の影響を受け、管理監督者制度の適用に対する社会の目は厳しくなっています。特に、長時間労働の是正と未払い残業代の問題が注目されており、企業はこれに対応する必要があります。

労働基準法の改正による影響

  • 働き方改革関連法(2019年施行)
    • 管理監督者であっても健康管理が重要視されるようになり、長時間労働が原因で健康を害した場合、企業の責任が問われるリスクが増加。
    • 有給休暇の取得義務が明確化され、管理監督者でも最低5日の有給休暇取得が必要。
  • 労働基準監督署の取り締まり強化
    • 名ばかり管理職に対する監査が強化され、労働時間管理の実態調査が厳格化。
    • 企業が管理監督者と認めていた労働者が、監査の結果「一般労働者」と判断され、未払い残業代の支払いを命じられるケースが増加。

企業が取るべき対応策

  • 管理監督者の適用基準を見直し、制度の乱用を防ぐ
    • 出退勤の自由度がない管理職は管理監督者として扱わない。
    • 役職手当の水準が残業代相当以下の場合は、手当の見直しを検討。
  • 労働時間の管理を徹底し、長時間労働を防止
    • 管理監督者にも「月○時間以上の残業が発生した場合、労務管理部門が監査する」といった仕組みを導入。
  • 未払い残業代のリスクを回避
    • 労働基準監督署の指摘を受けないよう、就業規則や管理監督者の基準を明文化。

企業は「管理監督者=残業代不要」と安易に考えるのではなく、労働時間の適切な管理と健康配慮を行うことが、法的リスクを回避する鍵になると理解しておくことが重要です。

管理監督者の適用に関するよくある質問と回答

管理監督者制度に関して、企業や労働者からよく寄せられる質問を整理し、専門家の視点から回答します。

Q1. 役職名が「課長」「部長」なら管理監督者になるのか?

A. いいえ、役職名だけで管理監督者とは認められません。
労働基準法では、管理監督者として認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 経営方針や人事に関与できる立場であること
  • 労働時間の裁量があること
  • 一般労働者と比較して明らかに高待遇であること

単に「課長」「部長」という肩書があるだけでは、管理監督者としての適用は不十分です。

Q2. 管理監督者でも深夜労働手当は支払う必要がある?

A. はい、深夜労働手当は支払う必要があります。
管理監督者は労働時間規制の適用を受けませんが、深夜労働(22時〜5時)に対する割増賃金(25%)は適用されます

Q3. 名ばかり管理職と認定されるリスクを回避するには?

A. 適切な運用基準を設け、制度を乱用しないことが重要です。
具体的には、以下の対策を行うことで、名ばかり管理職と認定されるリスクを回避できます。

  • 労働時間管理の実態を確認し、裁量権のない管理職を管理監督者として扱わない
  • 役職手当を増額し、待遇面での優遇を明確にする
  • 就業規則に管理監督者の適用基準を明記する

まとめ:管理監督者の取り扱いは慎重に

管理監督者制度は、企業にとって重要な労務管理の一環ですが、適用基準を誤ると、名ばかり管理職問題や未払い残業代の発生といったリスクを招く可能性があります
本記事では、管理監督者の定義や労働時間・待遇の適用範囲、企業が注意すべきポイントについて詳しく解説しました。

ポイントを振り返ると、以下の点が重要です。

  • 管理監督者は、役職名ではなく実態で判断される。
  • 労働時間の裁量がなく、経営判断に関与できない場合は管理監督者として認められない。
  • 深夜労働手当は管理監督者であっても支給義務がある。
  • 長時間労働が原因で健康障害が発生した場合、企業の安全配慮義務が問われる可能性がある。
  • 管理監督者の適用基準を明確にし、適切な労働時間管理を行うことでトラブルを回避できる。

管理監督者制度の適用に不安がある企業は、制度設計や労務管理の見直しを早めに行うことが重要です
「自社の管理職が適切に運用されているか不安」「労働基準監督署の調査に対応できる体制を整えたい」など、管理監督者制度の設計・運用でお困りの方は、お気軽にお問い合わせください

適切な労務管理の整備を通じて、企業のリスクを回避し、健全な職場環境を構築するお手伝いをさせていただきます。

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