従業員から突然「体調が悪くなったため、出社できません。急ですが、有給休暇で休んでもいいでしょうか?」といった勤務ができない連絡を受けることも多いのではないでしょうか。
会社のルールとして「有給休暇は休暇前日までに申請する必要がある」と定めているような場合、
- 従業員の希望通り、有給休暇として処理するのか
- 会社のルールに従い、当日の有給休暇申請は認めずに欠勤として処理するのか
人事労務担当者や、経営者の方の頭を悩ませる問題になります。
また「先日の欠勤を有給休暇扱いにしてもらえますか?」といった類似のご相談も、よく弊社に寄せられます。
今回のコラム記事では、欠勤を有給休暇に振り返ることができるのか?法律的な側面から、実施する場合の注意点、メリットデメリットなど詳しく解説いたします。
欠勤は有給休暇に振り替えることはできる?基本的な考え方
本来、労働日に勤務ができないと「欠勤」扱いになり、給与から欠勤分を控除することが一般的ですが、「有給休暇」を取得した日については給与は控除されません。
しかしながら、欠勤した日を後から有給休暇に振り返ることは可能なのでしょうか?まずは有給休暇の基本的な考え方から確認しましょう。
有給休暇は原則「事前申請」
労働基準法では
使用者は、前各項による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
引用:e-Gov法令検索|労働基準法
上記のように「事業の正常な運営を妨げる場合」は従業員から請求された有給休暇を他の日に取得させることができるとされています。これは、時季変更権と呼ばれる会社の権利です。
有給休暇が事後申請された場合は、すでに過ぎている日を有給休暇と扱うことになりますので「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するのかどうか判断の余地がありません。
つまり、会社側が権利を行使できない状況になってしまうのです。これらの理由から、会社も時季変更権が利用できる状況にするためには有給休暇は「事前申請」が原則として考えることになるのです。
欠勤を有給休暇に振り替える「事後申請」への対応
前述の通り、有給休暇は「事前申請」が原則です。
一方で、体調不良などの急な理由で当日欠勤となり、後日欠勤を有給休暇に振り替えることはできるのでしょうか?
結論、会社が認める場合は欠勤を有給休暇に振り替えることが「可能」です。
あくまでも会社が認める場合に限られますので「欠勤を有給休暇に振り替える義務や責任はない」点はしっかりと確認しておきましょう。
欠勤を有給に振り替える際の注意点
欠勤を有給に振り替える際、会社の承認が必要な他にいくつか気をつけるポイントがあります。
社内ルールの整備や従業員の意向を尊重した対応が求められ、誤った対応をしてしまうと組織風土に悪影響を及ぼす可能性があります。
欠勤を有給休暇に振り替える際の注意点を解説しますので、自社で対応ができるのか確認してみましょう。
欠勤を自動的に有給休暇に振り替えるのは違法
欠勤日については、給与から欠勤分控除することになります。
会社として「給与が減るのはかわいそうだから、残っている有給休暇を振り替えてあげよう」とした場合、トラブルの種になりますので注意しなければなりません。
従業員の有給休暇を会社が指定して使わせることは
- 有給休暇の計画的付与をしている日
- 有給休暇取得義務化のための時季指定
といった例外対応を除き、労働基準法違反となります。
従って、従業員から「欠勤日を有給休暇に振り替えてほしい」と申し出がないのであれば、会社のルールに則った処理を行いましょう。
事後の申請方法や手続きのルール化が必要
一般的に、有給休暇の申請方法や手続きは就業規則に明文化します。明確なルールを就業規則に記載していない場合は有給休暇の事前・事後申請に関する取り扱いがあやふやになりますので注意してください。
事後申請を認める就業規則の例文
原則「事前申請」としながらも、一定の理由がある場合に「事後申請を認める」場合は「緊急時ややむを得ない理由がある場合に限り、年次有給休暇の事後申請を認めることもある」といったように、会社側の裁量で判断できるように条文を整えている会社もよく見受けられます。
事後申請の手続きに関する就業規則の例文
手続きについても、同様のイメージです。
例えば「年次有給休暇は、休暇を取得する◯日前までに、有給休暇取得届を上長に提出する」と規定し、「緊急時ややむを得ない理由がある場合に限り、上長に電話もしくはメールで連絡し、事後出勤時に遅滞なく有給休暇取得届を提出する」といった例外の取り扱いについても文面化しておきましょう。
トラブルを避けるための実務上の注意点
欠勤を有給に振り替える際には、トラブルを避けるために
- コミュニケーションを明確に取っておく
- 口頭だけで済まさずに書面に記録しておく
上記の点にも注意しましょう。
コミュニケーションを明確に取っておく
欠勤日に対して有給休暇の振り替えができるケース・できないケースをしっかりと説明し、従業員に理解してもらうことが重要です。
振り替えの手続きを丁寧に説明しておかなければ、不適切な理由での事後申請が提出される可能性があります。
書面での記録
「言った」「言わなかった」の水掛け論から労務トラブルにつながるケースが多々あります。
欠勤を有給休暇に振り替える場合「従業員からの書面申請に対して会社が承認をした」と記録を残すことが大切です。
申請から承認までの過程を全て書面で記録し、後で確認できるようにしておきます。
まとめ
欠勤と有給休暇は、従業員の給与に直接関わりますので、慎重に対応をしましょう。
従業員から欠勤日を有給休暇に振り替えほしい、と相談を受けた際、就業規則に則った対応ができるように、下記のような文言が整備できているのか予めチェックしてみてください。
- 有給休暇の〇日前までに申請が必要であることが記載できているか?
- 上長の事前承認が必要であると明文化できているか?
- 病気などのやむを得ない場合のみ後からの申請でも認められるとしているか?
実務の観点から、欠勤を有給休暇に変更することは少なくありません。企業と従業員の双方にとって最適な労務管理をするためには就業規則・社内制度の整備は必要不可欠です。
もし、労務管理に関してご不明点やお困りごとがございましたら、お気軽にお問い合わせください。専門のスタッフが丁寧に対応させていただきます。