社会保険料は、従業員の給与から控除する本人負担分だけでなく、会社が負担する分もあるため、人件費を管理するうえで正確な計算が欠かせません。
ただし、実際の給与額に一定の料率を掛ければよいわけではなく、標準報酬月額や標準賞与額、加入している健康保険、従業員の年齢などによって金額が変わります。
計算方法を誤ると、給与の控除額や会社の納付額に差が生じるだけでなく、従業員への説明や修正対応が必要になることもあります。
この記事では、社会保険料に含まれる項目や基本的な計算式、従業員負担と会社負担の違いを、具体例を交えながら解説します。給与や賞与の計算方法、入社・退職時の注意点も紹介するため、経営者や人事労務担当者が実務を確認する際にお役立てください。
社会保険料とは?経営者・人事が押さえたい基本
社会保険料とは、病気やけが、老後、介護などの生活上のリスクに備えるため、会社と従業員が負担する保険料です。給与計算では従業員の給与から控除する金額に目が向きがちですが、会社側にも負担が発生します。
経営者や人事労務担当者は、給与明細に記載する控除額だけでなく、会社が負担する法定福利費まで把握しておくことが大切です。まずは、社会保険料に含まれる項目と、それぞれの負担方法を整理しましょう。
社会保険料に含まれる保険の種類
一般的に、会社の給与計算で「社会保険料」と呼ばれるものには、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料などが含まれます。近年は子ども・子育て支援金も加わっているため、それぞれの対象者や負担方法を正しく区別しなければなりません。
| 種類 | 主な役割 | 主な対象者 |
|---|---|---|
| 健康保険料 | 病気やけが、出産などの医療費を支える | 健康保険に加入する従業員 |
| 介護保険料 | 介護サービスに必要な費用を支える | 原則40歳以上65歳未満の従業員 |
| 厚生年金保険料 | 老齢・障害・遺族年金の給付を支える | 厚生年金に加入する従業員 |
| 子ども・子育て支援金 | 子育て支援制度の財源に充てる | 医療保険の加入者 |
このほか、会社には子ども・子育て拠出金の負担もあります。名称は似ていますが、子ども・子育て支援金とは負担の仕組みが異なるため、給与計算や人件費の試算では分けて扱う必要があります。
社会保険と労働保険の違い
給与計算や人件費管理では、社会保険とあわせて労働保険も確認します。両者はまとめて扱われることがありますが、対象となるリスクや保険料の負担方法が異なります。
社会保険は、主に健康保険、介護保険、厚生年金保険を指します。一方、労働保険は雇用保険と労災保険の総称です。雇用保険料は会社と従業員の双方が負担しますが、労災保険料は原則として会社が全額を負担します。
従業員の給与から控除する金額だけを社会保険料として管理すると、会社が実際に負担する人件費を正確に把握できません。採用予算や昇給額を検討する際は、社会保険と労働保険の会社負担分を含めて計算することが重要です。
社会保険料は従業員と会社のどちらが負担する?
健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料などは、原則として会社と従業員の双方が負担します。会社は従業員負担分を給与から控除し、会社負担分と合わせて保険者へ納付します。
ただし、すべての保険料が同じ割合で負担されるわけではありません。健康保険組合によっては会社側の負担割合が大きい場合があり、子ども・子育て拠出金や労災保険料のように会社だけが負担するものもあります。
そのため、「給与から控除した社会保険料と同額を会社も負担する」と単純に考えるのは適切ではありません。実際の会社負担額を確認する際は、加入している健康保険の料率や事業の種類、従業員の年齢などを踏まえて個別に計算する必要があります。
社会保険料の計算に必要な3つの要素
社会保険料を計算するには、「標準報酬月額または標準賞与額」「保険料率」「従業員と会社の負担割合」の3つを確認します。毎月の総支給額に料率を直接掛けるわけではないため、給与計算では基礎となる金額を正しく把握することが重要です。
特に健康保険料率は、加入先や事業所の所在地によって異なります。前年の料率や別の都道府県の保険料額表を使用すると控除額を誤るため、計算対象月に適用される最新情報を確認しましょう。
毎月の給与にかかる社会保険料は、原則として次の式で計算します。
社会保険料=標準報酬月額×保険料率
労使折半となる保険料については、算出した金額を会社と従業員で分けて負担します。たとえば、標準報酬月額が30万円、保険料率が10%、労使折半の場合、全体の保険料は3万円です。単純化すると、従業員負担と会社負担はそれぞれ1万5,000円になります。
ただし、実際の給与計算では端数処理や加入する健康保険の負担割合を確認しなければなりません。保険料額表に本人負担額が記載されている場合は、独自に計算するよりも該当する等級の金額を確認するほうが確実です。
標準報酬月額とは
標準報酬月額とは、従業員が受け取る報酬月額を、一定の幅で区分した等級に当てはめた金額です。
健康保険料や厚生年金保険料の計算では、実際の総支給額ではなく、この標準報酬月額を使用します。
報酬月額には、基本給だけでなく、役職手当、住宅手当、残業手当、通勤手当なども含まれます。現金で支給するものに限らず、通勤定期券や住宅など、労働の対価として現物で支給するものも原則として対象です。一方、臨時に支払われる金銭や、年3回以下の賞与などは毎月の報酬には含めません。
たとえば、基本給が28万円でも、通勤手当2万円と残業手当3万円が支給されていれば、報酬月額は原則33万円です。ただし、社会保険料は33万円に直接料率を掛けるのではなく、保険料額表で該当する標準報酬月額を確認して計算します。
標準賞与額とは
賞与にかかる社会保険料は、毎月の標準報酬月額ではなく「標準賞与額」を基礎に計算します。標準賞与額は、税引き前の賞与総額から1,000円未満を切り捨てた金額です。
たとえば、賞与の総支給額が60万8,500円の場合、標準賞与額は60万8,000円となります。この金額に健康保険や厚生年金保険などの料率を掛け、従業員負担分と会社負担分を算出します。
標準賞与額には上限があり、健康保険は年度累計573万円、厚生年金保険は1カ月あたり150万円です。同じ月に複数回賞与を支給した場合は合算して判断するため、高額な賞与を支給する会社では特に注意が必要です。
保険料率は加入先・都道府県・年齢で変わる
厚生年金保険料率は全国共通ですが、協会けんぽの健康保険料率は都道府県支部ごとに異なります。また、原則40歳以上65歳未満の従業員には介護保険料が加わるため、標準報酬月額が同じでも年齢によって給与からの控除額が変わります。
保険料率は年度によって改定されることがあります。協会けんぽでは、2026年度の健康保険料率と介護保険料率が2026年3月分、原則として4月納付分から改定されています。給与計算担当者は、事業所所在地に対応した年度別の保険料額表を確認し、適用開始月を間違えないようにしましょう。
毎月の給与にかかる社会保険料の計算方法
毎月の給与にかかる社会保険料は、原則として標準報酬月額に各保険の料率を掛けて計算します。健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料などを個別に算出し、従業員負担分を給与から控除する流れです。
ただし、適用する料率や対象者は保険ごとに異なります。給与計算では、従業員の標準報酬月額、年齢、加入している健康保険、料率の適用時期を確認してから計算しましょう。
健康保険料の計算方法
健康保険料は、次の式で計算します。
健康保険料=標準報酬月額×健康保険料率
協会けんぽの場合、健康保険料率は事業所の所在地に応じて決まります。従業員の住所ではなく、社会保険の適用事業所がある都道府県の料率を使用する点に注意が必要です。
算出した保険料は原則として会社と従業員で折半します。ただし、健康保険組合では独自の料率や負担割合を定めていることがあるため、加入先が公表する保険料額表を確認してください。
介護保険料の計算方法
介護保険料は、原則として40歳以上65歳未満の従業員が対象です。計算式は次のとおりです。
介護保険料=標準報酬月額×介護保険料率
協会けんぽの2026年度の介護保険料率は、全国一律1.62%です。会社と従業員が折半するため、標準報酬月額が30万円の場合、全体の介護保険料は4,860円、単純計算による本人負担額は2,430円となります。
従業員が40歳または65歳になると控除の取り扱いが変わります。誕生日当日ではなく、法律上の年齢到達日を基準に判断するため、対象月を誤らないよう注意しましょう。
厚生年金保険料の計算方法
厚生年金保険料は、次の式で求めます。
厚生年金保険料=標準報酬月額×18.3%
厚生年金保険料率は全国共通で、会社と従業員が半分ずつ負担します。標準報酬月額が30万円の場合、保険料の総額は5万4,900円、従業員負担額と会社負担額はそれぞれ2万7,450円です。
健康保険とは標準報酬月額の等級や上限が異なる場合があります。給与計算では、健康保険と厚生年金の標準報酬月額をそれぞれ確認する必要があります。
子ども・子育て支援金の計算方法
2026年4月分から、医療保険料とあわせて子ども・子育て支援金の負担が始まりました。協会けんぽにおける2026年度の支援金率は0.23%です。
子ども・子育て支援金=標準報酬月額×0.23%
被用者保険では会社と従業員が折半します。標準報酬月額が30万円の場合、支援金の総額は690円、単純計算による本人負担額は345円です。
子ども・子育て拠出金の計算方法
子ども・子育て拠出金は、厚生年金保険の標準報酬月額を基礎として計算します。2026年度の拠出金率は0.36%です。
子ども・子育て拠出金=標準報酬月額×0.36%
子ども・子育て支援金と異なり、拠出金は会社が全額を負担します。そのため、従業員の給与から控除してはいけません。会社の人件費を試算する際は、給与明細に表れない法定福利費として計上しましょう。
賞与にかかる社会保険料の計算方法
従業員へ賞与を支給した場合も、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料などが発生します。ただし、毎月の給与に使用する標準報酬月額ではなく、賞与額を基にした「標準賞与額」で計算する点が特徴です。
給与計算担当者は、1,000円未満の端数処理や保険ごとの上限を確認したうえで、従業員負担分を賞与から控除します。賞与支払届の提出も必要になるため、計算と届出をあわせて管理しましょう。
賞与の基本的な計算式
賞与にかかる社会保険料は、標準賞与額に各保険の料率を掛けて算出します。
賞与の社会保険料=標準賞与額×各保険の保険料率
健康保険料や厚生年金保険料などは原則として会社と従業員で負担します。従業員負担分は、所得税などとあわせて賞与から控除し、会社負担分を加えて納付します。
2026年4月分から始まった子ども・子育て支援金も、給与だけでなく賞与が計算対象です。協会けんぽにおける2026年度の支援金率は0.23%で、被用者保険では労使が負担します。
標準賞与額の求め方
標準賞与額とは、税引き前の賞与総額から1,000円未満を切り捨てた金額です。手取り額や所得税控除後の金額ではなく、通貨と現物で支給した賞与の合計額を基にします。
たとえば、賞与の総支給額が50万8,750円の場合、標準賞与額は50万8,000円です。この標準賞与額に健康保険料率、介護保険料率、厚生年金保険料率などを掛けます。
同じ月に賞与を2回以上支給した場合は、それぞれを別々に計算するのではなく、その月に支給した賞与を合算して標準賞与額を求めます。
健康保険料・介護保険料の計算
賞与にかかる健康保険料は、標準賞与額に加入先の健康保険料率を掛けて計算します。協会けんぽの場合は、事業所所在地の都道府県に適用される料率を使用してください。
40歳以上65歳未満の従業員については、原則として介護保険料も加わります。賞与支給日時点の年齢だけで判断せず、介護保険の資格取得・喪失の時期を確認して計算することが大切です。
厚生年金保険料の計算
賞与にかかる厚生年金保険料は、標準賞与額に18.3%を掛けて算出し、原則として会社と従業員が半分ずつ負担します。
たとえば、標準賞与額が60万円の場合、厚生年金保険料の総額は10万9,800円です。従業員負担額と会社負担額は、それぞれ5万4,900円となります。
標準賞与額には保険ごとに上限がある
標準賞与額は、支給額が高くても全額が計算対象になるとは限りません。健康保険の上限は、毎年4月1日から翌年3月31日までの年度累計で573万円です。
一方、厚生年金保険の上限は1カ月あたり150万円となっています。同じ月に複数回支給した場合は合算して上限を適用するため、役員賞与や高額賞与を支給する際は注意しましょう。
賞与を支給したら賞与支払届を提出する
会社が賞与を支給したときは、従業員ごとの支給額や標準賞与額を記載した賞与支払届を日本年金機構へ提出します。届出の内容を基に標準賞与額や保険料が決定されるため、給与計算上の金額と一致しているか確認してください。
賞与支払予定月に賞与を支給しなかった場合も、登録状況に応じて不支給の届出が必要です。賞与支給後は、控除計算だけで処理を終えず、対象者・支給日・支給額・届出状況まで一連の業務として管理しましょう。
社会保険料をモデルケースで計算
社会保険料の計算方法を理解するには、実際の数字に当てはめて確認するのが効果的です。ここでは、東京都の協会けんぽに加入している会社を例に、39歳と45歳の従業員で本人負担額がどのように変わるかを計算します。
実務では端数処理や徴収時期によって金額が異なる場合があるため、最終的には最新の保険料額表と照合してください。
計算例の前提条件
今回は、2026年4月分以降の保険料を次の条件で計算します。給与の総支給額と標準報酬月額は、いずれも30万円と仮定します。
健康保険料率は9.85%、子ども・子育て支援金率は0.23%、介護保険料率は1.62%、厚生年金保険料率は18.3%です。子ども・子育て拠出金率は0.36%ですが、会社が全額を負担します。
39歳の従業員の本人負担額
39歳の従業員には、原則として介護保険料がかかりません。本人負担額は、次のように計算します。
- 健康保険料:30万円×9.85%÷2=1万4,775円
- 子ども・子育て支援金:30万円×0.23%÷2=345円
- 厚生年金保険料:30万円×18.3%÷2=2万7,450円
計算結果、本人負担の合計は、4万2,570円です。
なお雇用保険料や所得税、住民税は別途控除が必要となりますので、給与明細の控除総額とは一致しないことはご注意ください。
45歳の従業員の本人負担額
45歳の従業員は介護保険第2号被保険者に該当するため、健康保険料などに加えて介護保険料を負担します。
介護保険料の本人負担額は「30万円×1.62%÷2=2,430円」です。ほかの条件が39歳の従業員と同じ場合、本人負担の合計は4万5,000円となります。
会社負担額を計算
会社は労使折半となる保険料に加え、子ども・子育て拠出金を全額負担します。標準報酬月額30万円に対する拠出金は「30万円×0.36%=1,080円」です。
| 対象者 | 本人負担額 | 会社負担額 | 労使合計 |
|---|---|---|---|
| 39歳 | 42,570円 | 43,650円 | 86,220円 |
| 45歳 | 45,000円 | 46,080円 | 91,080円 |
給与の総支給額が30万円の場合、社会保険関係の会社負担を加えた支出額は、39歳で34万3,650円、45歳で34万6,080円です。ただし、実際の総人件費には雇用保険料や労災保険料なども加わります。
給与計算結果と納入告知額を照合する
給与計算後は、従業員ごとの控除額を集計し、日本年金機構などから届く納入告知額と照合します。金額が一致しない場合は、標準報酬月額、年齢、保険料率、入退社日、徴収対象月を確認しましょう。
端数処理や資格取得届・月額変更届の反映時期によって差が生じることもあります。単に差額を修正するのではなく、どの従業員のどの保険料に違いがあるかを特定することが重要です。
社会保険料が決まる時期と変更されるタイミング
毎月の社会保険料は、給与額が変わるたびに自動で増減するわけではありません。入社時や毎年の定時決定、昇給・降給に伴う随時改定などを通じて標準報酬月額が決まり、その金額を基に保険料を計算します。
人事労務担当者は、標準報酬月額が変更される条件と適用月を正しく把握する必要があります。給与計算への反映が1カ月ずれると、従業員からの控除額にも過不足が生じるため注意しましょう。
入社時は資格取得時決定を行う
従業員が社会保険へ加入するときは、雇用契約や賃金規程などを基に、入社後に受け取る予定の報酬月額を算出します。その金額を保険料額表の等級に当てはめ、入社時の標準報酬月額を決定する仕組みです。
報酬には基本給だけでなく、通勤手当や役職手当など、継続して支払う手当も含めます。残業代のように入社時点で金額が確定していない報酬は、同じ業務に従事する従業員の実績などから見込額を算出します。
毎年の定時決定では算定基礎届を提出する
会社は原則として、7月1日時点で在籍する被保険者について、4月・5月・6月に支払った報酬を算定基礎届で届け出ます。
対象となる3カ月の報酬平均額を基に、新しい標準報酬月額を決定します。
定時決定後の標準報酬月額は、原則としてその年の9月から翌年8月まで適用されます。ただし、支払基礎日数が不足している月がある場合や、8月・9月に随時改定が予定されている場合などは、通常とは異なる取り扱いが必要です。
昇給・降給時は随時改定の対象か確認する
基本給や固定手当などの固定的賃金が変わった場合は、月額変更届が必要になる可能性があります。随時改定は、原則として次の条件をすべて満たす場合に行います。
- 固定的賃金に変動があった
- 変動月から3カ月間の支払基礎日数が基準を満たしている
- 3カ月平均による標準報酬月額と従前の等級に2等級以上の差がある
条件を満たした場合、固定的賃金が変動した月から4カ月目に標準報酬月額を改定します。単に残業時間が増えて給与額が上がっただけでは、原則として随時改定の対象になりません。
育児休業終了後に報酬が下がった場合
育児休業から復帰した後、短時間勤務などによって報酬が下がることがあります。育児休業終了時に3歳未満の子を養育している従業員は、本人の申出により、通常の随時改定に該当しなくても標準報酬月額を変更できる場合があります。
育児休業終了日の翌日が属する月以後3カ月間の報酬平均額を基に、4カ月目から新しい標準報酬月額を適用します。自動的に変更される制度ではないため、会社は対象者から申出を受けたうえで、育児休業等終了時報酬月額変更届を提出します。
入社・退職時の社会保険料を計算する際の注意点
入社や退職が月の途中であっても、健康保険料と厚生年金保険料は原則として日割り計算をしません。資格を取得した月から、資格喪失日が属する月の前月まで、月単位で保険料が発生します。
特に間違えやすいのが、月末退職時の控除と、入社・退職が同じ月に発生するケースです。給与の締め日や会社の徴収方法も確認し、最終給与から控除する月数を判断しましょう。
月の途中で入社した場合
従業員は、原則として入社日に社会保険の被保険者資格を取得します。月の途中で入社しても、その月の健康保険料と厚生年金保険料は1カ月分発生します。
たとえば、4月20日に入社した場合でも、4月分の保険料を日数で按分することはありません。給与が日割りで少なくなる場合は、社会保険料の控除によって手取り額が大きく減ることがあるため、入社時に説明しておくとトラブルを防ぎやすくなります。
月の途中で退職した場合
社会保険の資格喪失日は、原則として退職日の翌日です。資格喪失日が属する月の前月分まで保険料が発生するため、月末より前に退職した場合、通常は退職月分の保険料がかかりません。
たとえば、6月20日に退職した場合、資格喪失日は6月21日となり、会社で負担する社会保険料は5月分までです。退職後に再就職しない場合は、国民健康保険や国民年金などへの切り替えが必要になります。
月末退職では退職月分まで保険料がかかる
6月30日に退職した場合、資格喪失日は翌日の7月1日です。そのため、6月分まで健康保険料と厚生年金保険料が発生します。
会社が前月分の保険料を翌月の給与から控除する「翌月徴収」を採用している場合、最終給与から5月分と6月分の2カ月分を控除することがあります。控除額が通常より大きくなるため、対象者には事前に説明しておくことが大切です。
当月徴収と翌月徴収の違い
社会保険料を給与から控除する時期は、会社の給与規程や運用によって異なります。翌月徴収では、4月分の保険料を5月支給の給与から控除します。一方、当月徴収では4月分を4月支給の給与から控除します。
入社・退職時は、会社がどちらの方法を採用しているかを確認しなければなりません。資格取得月や資格喪失月だけで判断すると、控除漏れや二重控除が起こる可能性があります。
同じ月に入社・退職した場合
同じ月内に資格を取得し、月末前に資格を喪失することを「同月得喪」といいます。この場合、原則として1カ月分の保険料が発生します。
ただし、厚生年金保険では、資格を取得した月に退職し、同じ月内に別の会社の厚生年金または国民年金へ加入した場合、先に加入していた会社の厚生年金保険料が不要になることがあります。年金事務所から会社へ還付されたときは、従業員負担分も本人へ返還しなければなりません。
社会保険料が免除されるケース
従業員が産前産後休業や育児休業を取得した場合、一定の要件を満たすと、休業期間中の健康保険料と厚生年金保険料が免除されます。免除されるのは従業員負担分だけではなく、会社負担分も同様です。
ただし、休業を取得しただけで自動的に免除されるわけではありません。会社が所定の申出書を提出する必要があるため、休業期間や提出期限を正確に管理しましょう。
産前産後休業中の保険料免除
産前産後休業期間中は、健康保険料と厚生年金保険料の労使双方の負担が免除されます。対象となるのは、出産予定日前42日、多胎妊娠では98日から、出産日の翌日以後56日までのうち、妊娠または出産を理由として働かなかった期間です。
休業中の給与が有給か無給かは、免除の判定に影響しません。また、免除期間も被保険者資格は継続し、将来の年金額を計算する際は保険料を納めた期間として扱われます。会社は「産前産後休業取得者申出書」を提出します。
育児休業中の保険料免除
育児休業等を取得した場合も、原則として休業開始月から、休業終了日の翌日が属する月の前月まで保険料が免除されます。
開始月と終了日の翌日が属する月が同じ場合でも、その月に14日以上の育児休業等を取得すれば、月額保険料の免除対象になります。月末時点だけで機械的に判断せず、同月内の休業日数も確認してください。
賞与にかかる保険料が免除される条件
育児休業中に賞与を支給しても、必ず賞与の社会保険料が免除されるわけではありません。賞与月の末日を含み、連続して1カ月を超える育児休業等を取得した場合に限り、賞与にかかる健康保険料と厚生年金保険料が免除されます。
「1カ月以上」ではなく「1カ月を超える」ことが条件です。短期間の育児休業を賞与支給月に取得した場合は、月額保険料が免除されても、賞与保険料は免除されないケースがあります。
一般的な休職では原則として保険料が発生する
私傷病などによる一般的な休職は、産前産後休業や育児休業のような法定の免除制度とは異なります。被保険者資格が継続している限り、無給であっても原則として社会保険料が発生します。
給与から控除できない場合は、従業員から会社へ振り込んでもらうなど、徴収方法をあらかじめ決めておく必要があります。休職規程には、本人負担分の納付日や振込方法、未納時の対応を定めておくと実務上の混乱を防げます。
免除には会社からの申出が必要
産前産後休業や育児休業の保険料免除を受けるには、会社が日本年金機構へ申出書を提出します。休業期間が変更された場合や、予定より早く復職した場合には、終了日や変更内容に関する届出も必要です。
人事労務担当者は、休業申請、給与計算、社会保険の届出を別々に管理せず、対象期間と免除月を一覧で照合できるようにしておきましょう。
社会保険料の計算でよくある間違い
社会保険料の計算ミスは、保険料率だけでなく、標準報酬月額や対象年齢、資格取得・喪失月の確認不足によっても発生します。誤った金額を給与から控除すると、従業員への返金や追加徴収が必要になり、会社側の納付額にも差が生じます。
給与計算を確定する前に、どのような間違いが起こりやすいのかを把握し、確認項目を社内で統一しておきましょう。
給与の総支給額に保険料率を直接掛けている
毎月の健康保険料や厚生年金保険料は、原則として実際の総支給額ではなく、標準報酬月額を基に計算します。
給与が前月より増減していても、標準報酬月額が変わっていなければ、社会保険料も基本的には変わりません。給与明細を作成する際は、その月の総支給額ではなく、会社が管理している標準報酬月額を参照してください。
古い保険料率や別の都道府県の料率を使っている
協会けんぽの健康保険料率は都道府県ごとに異なり、年度によって改定されます。事業所が移転した場合や年度が変わった場合は、適用する料率と変更月を確認しなければなりません。
従業員の住所地ではなく、原則として適用事業所の所在地に対応する保険料額表を使用します。給与計算ソフトを利用している場合も、料率が自動更新されているとは限らないため注意が必要です。
従業員の年齢を確認していない
原則として40歳以上65歳未満の従業員には、介護保険料が加わります。40歳や65歳になる従業員を見落とすと、本人負担額と会社負担額の両方に誤りが生じます。
年齢は誕生日当日ではなく、法律上の年齢到達日を基に判定します。給与計算システムの生年月日が正しく登録されているかも確認しましょう。
通勤手当や残業手当を報酬から除外している
標準報酬月額の基礎となる報酬には、基本給のほか、通勤手当、役職手当、住宅手当、残業手当なども原則として含まれます。所得税が非課税となる範囲の通勤手当も、社会保険では報酬に含まれる点が間違いやすいポイントです。
算定基礎届や月額変更届を作成するときは、課税対象額だけでなく、社会保険上の報酬額を集計してください。
昇給後の月額変更届を確認していない
基本給や固定手当が変わり、一定の条件を満たした場合は、随時改定の対象になります。標準報酬月額に2等級以上の差が生じても月額変更届を提出しなければ、古い等級で保険料を控除し続けることになります。
一方、残業代だけが増えた場合は、原則として随時改定の起点になりません。固定的賃金の変動があったかを最初に確認することが大切です。
賞与支払届や入退社時の処理を見落としている
賞与を支給した場合は、標準賞与額を基に保険料を計算し、賞与支払届を提出します。また、入退社時は日割り計算をせず、資格取得月と資格喪失月を基準に保険料の発生月を判断します。
給与計算を確定する前に、次の項目を確認するとミスを防ぎやすくなります。
- 最新年度の保険料額表を使用しているか
- 標準報酬月額と従業員の年齢が正しいか
- 入退社、昇給、賞与、休業の情報が反映されているか
- 子ども・子育て支援金と拠出金を区別しているか
- 控除額と納入告知額に不自然な差がないか
計算担当者だけに確認を任せず、届出情報と給与データを照合する仕組みを整えることで、控除漏れや二重控除を防ぎやすくなります。
社会保険料は最新の料率と標準報酬月額を確認して計算しよう
社会保険料は、毎月の給与額に保険料率を直接掛けるのではなく、原則として標準報酬月額を基に計算します。賞与については、1,000円未満を切り捨てた標準賞与額を使用するため、給与とは計算方法が異なります。
また、健康保険料率は加入先や事業所の所在地によって変わり、従業員の年齢によっては介護保険料も加わります。入社・退職、昇給・降給、産前産後休業や育児休業などが発生した場合は、資格取得・喪失月や標準報酬月額の変更、保険料免除の対象期間も確認しなければなりません。
会社の負担額を把握するときは、従業員の給与から控除する金額だけでなく、会社負担の健康保険料や厚生年金保険料、子ども・子育て拠出金、労働保険料なども含めて考えることが大切です。額面給与だけで人件費を見積もると、採用や昇給後に予算との差が生じる可能性があります。
給与データと社会保険の届出情報を定期的に照合し、保険料額表や納入告知額も確認することで、控除漏れや二重控除を防ぎやすくなります。制度改正や料率変更にも注意しながら、自社の給与計算と人件費管理に反映していきましょう。
この記事の執筆者

- 社会保険労務士法人ステディ 代表社員
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