社会保険の随時改定とは?条件・タイミング・注意点を社労士が解説

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社会保険の手続きの一つ、「随時改定」についてしっかり理解をされておりますでしょうか。

昇給や手当の変更があったとき、「社会保険料はいつ変わるのか」「手続きは必要なのか」と迷った経験がある方も多いと思います。

随時改定は、条件やタイミングを正しく理解していないと、不要な届出をしてしまったり、逆に本来必要な手続きを見落としてしまうことがあります。

この記事では、社会保険の随時改定について、制度の基本から判断に必要な条件、実際に反映される時期、実務で注意すべきポイントまでを整理して解説いたします。

専門用語はできるだけかみ砕き、初めて制度に触れる方でも全体像をつかめる構成で進めていきますので、人事労務担当者の方の「なんとなく不安」を「理解できた」にするために、ご一読いただければ幸いです。

そもそも社会保険の「随時改定」とはどのような手続き?

社会保険の手続きの中でも、「随時改定」は特に分かりにくい制度の一つです。

言葉としては聞いたことがあっても、「どんなときに行うのか」「定時決定と何が違うのか」を正確に説明できる人は多くありません。ここでは、随時改定の基本的な考え方を押さえ、制度全体の位置づけを見ていきましょう。

「随時改定」の意味について

随時改定とは、従業員の給与に大きな変動があった場合に、社会保険料の基準となる標準報酬月額を見直す仕組みです。

通常、社会保険料は年に1回の「定時決定」によって決まりますが、昇給や手当の変更などにより給与水準が大きく変わったまま放置すると、実際の収入と保険料にズレが生じてしまいます。

そのズレを是正するため、一定の条件を満たした場合に限り、年の途中でも標準報酬月額を変更する手続きが定められており、これを「随時改定」と言います。

会社が任意で判断するものではなく、要件に該当すれば原則として手続きを行う必要があります。

なぜ随時改定という仕組みがあるのか

社会保険料は、将来受け取る年金額や、病気・出産時の給付額にも影響します。そのため、実態とかけ離れた報酬額を基準にし続けることは、従業員にとっても制度上望ましくありません。

たとえば昇給によって給与が恒常的に上がっているのに、保険料だけが低いままだと、給付とのバランスが崩れます。逆に、給与が下がっているのに高い保険料を払い続けるのも不公平といえるでしょう。

随時改定は、こうした不整合を防ぎ、報酬と保険料の関係を現実に近づけるための調整弁として設けられています。

対象となる社会保険の種類

随時改定の対象となるのは、以下の社会保険です。

  • 健康保険
  • 厚生年金保険

いずれも「標準報酬月額」を基準に保険料が計算されるため、その金額を見直す随時改定が重要になります。

一方、雇用保険は賃金総額に保険料率を掛けて計算する仕組みのため、随時改定という考え方はありません。この点も混同しやすいポイントなので、最初に整理しておくと理解しやすくなります。

随時改定が必要になる3つの条件

随時改定は「給与が変わったら必ず行うもの」ではありません。

一定の要件をすべて満たした場合にのみ、社会保険の標準報酬月額を見直す仕組みです。ここでは、実務でも特に重要となる3つの条件を順に整理します。

条件を正しく理解しておかないと、不要な手続きをしてしまったり、逆に本来必要な届出を見落としたりする原因になりますので、確認していきましょう。

要件1:固定的賃金が変動していること

最初の条件は、「固定的賃金」に変動があったかどうかです。

固定的賃金とは、毎月ほぼ一定額で支給される給与項目を指しており、代表的な固定的賃金には、以下のようなものがあります。

  • 基本給
  • 役職手当
  • 職務手当
  • 資格手当
  • 通勤手当

昇給や降給、役職変更に伴う手当の新設・廃止などにより、これらの金額が変わった場合は、随時改定の検討対象になります。

一方、残業代や休日出勤手当のように、月ごとに金額が変動するものは固定的賃金には該当しません

一時的な残業代・手当は対象にならないの?

随時改定の相談で多いのが、「残業が増えて手取りが増えたが、随時改定は必要か」という疑問です。結論から言うと、残業代や一時的な手当の増加だけでは、原則として随時改定は行われません

あくまで判断の起点となるのは固定的賃金です。

残業代が増えて総支給額が大きく変わっていても、基本給や固定手当が変わっていなければ、随時改定の要件を満たさないケースが大半です。この点を理解しておくと、不要な確認作業や誤解を減らすことができます。

要件2:変動後の3ヶ月間の平均額と、従来の標準報酬月額との間に「2等級以上」の差が生じたこと

固定的賃金が変動した月を起点に、3ヶ月間の報酬(残業代等も含む総額)の平均を計算します。その結果、現在の等級と新しい等級を比較して2等級以上の差が出る必要があります。

たとえば、昇給はしているものの、3ヶ月の平均額の等級が従来から1つしか変わらない場合は、随時改定の対象にはなりません。

このため、「給与が上がった=必ず随時改定」というわけではなく、等級の変動幅が重要な判断基準になります。

要件3:変動後の3ヶ月間、すべて「支払基礎日数」が17日以上あること

3つ目の条件は、変動月から3ヶ月間、いずれの月も給与支払の対象となる日数が17日以上なければなりません。

ただし、特定適用事業所に勤務する短時間労働者の場合は、11日以上が要件となります。

随時改定が行われるタイミングと反映時期

随時改定は条件だけでなく、「いつチェックし、いつから反映されるのか」を正しく理解しておくことが重要です。ここを曖昧にしたままだと、届出の遅れや、従業員からの問い合わせ対応で混乱しがちになります。この章では、実務の流れに沿ってタイミングを整理します。

いつからチェックが始まるのか

随時改定の起点となるのは、固定的賃金が変動した月です。

昇給や降給、役職変更などが行われた月を含め、その翌月・翌々月までの3か月間が確認対象となります。

たとえば、4月に基本給が改定された場合、

  • 4月
  • 5月
  • 6月

この3か月間に支払われた報酬の平均額を基に、随時改定の要件を満たすかどうかを判断します。

「変更が決まった月」ではなく、「実際に変更後の給与が支払われた月」を基準に考える点が、実務では特に重要です。

標準報酬月額はいつ変更される?

3か月分の給与が確定した時点で、平均額が算出できるようになります。

その結果、2等級以上の差が生じていれば、会社は「月額変更届」を提出し、標準報酬月額の改定手続きを行います。

ここで注意したいのは、3か月の平均を見終わる前に標準報酬月額が変わることはないという点です。
途中の1か月や2か月の給与だけを見て判断することはできず、必ず3か月分が揃ってから手続きが行われます。

保険料に反映される具体的なタイミング

随時改定による標準報酬月額は、4か月目の給与から適用されます。

ただし、社会保険料の引き落としが「当月徴収」「翌月徴収」どちらのパターンに設定しているのかという点は注意が必要です。

先ほどの例で言えば、4月に固定的賃金が変わった場合、7月分の社会保険料から新しい標準報酬月額が使われることになりますが

  • 社会保険料が「当月徴収」の場合→7月支払い時の給与から反映
  • 社会保険料が「翌月徴収」の場合→8月支払い時の給与から反映

このように、タイミングが異なります。

従業員から「昇給したのに、すぐに保険料が変わらないのはなぜか」と聞かれることも少なくありませんので、自社の社会保険料の控除タイミングがどのようなルールなのかしっかり確認しておきましょう。

随時改定は即時反映される制度ではなく、一定期間を置いてから調整される仕組みであることを、あらかじめ説明しておくと誤解を防げます。

定時決定・月額変更との違い

随時改定を理解するうえで避けて通れないのが、「定時決定」や「月額変更届」との違いです。名前や手続きが似ているため混同されがちですが、目的とタイミングは明確に分かれています。ここでは、それぞれの役割を整理し、実務で迷わない判断軸を作っていきます。

「月額変更届」と随時改定の関係

随時改定とセットで登場するのが「月額変更届」です。随時改定は制度の名称であり、実際の手続きとして提出する書類が月額変更届になります。

つまり、「随時改定を行う=月額変更届を提出する」という関係ですので、人事労務担当者の方はしっかりと押さえておきましょう。

この点を混同して、「随時改定という書類がある」と誤解されるケースも少なくありません。あくまで、随時改定という考え方に基づいて、月額変更届という届出を行う、という整理になります。

定時決定(算定基礎届)との違い

定時決定とは、毎年1回、原則として4月・5月・6月の給与を基に標準報酬月額を決定する仕組みです。
会社は7月に算定基礎届を提出し、その結果が9月分の社会保険料から反映されます。

一方、随時改定は年1回の定時決定とは異なり、年の途中で給与が大きく変わった場合に行う調整です。
定時決定が「定期的な見直し」だとすれば、随時改定は「例外的な修正」と考えると理解しやすくなります。

「随時改定(月額変更)」と「定時決定(算定基礎)」どちらが優先されるの?

7月・8月・9月の「月額変更(随時改定)」は、年に1度の「算定基礎届(定時決定)」の結果を上書きして優先される、という特別なルールがあります。

まず、7月・8月・9月のいずれかの月で「月額変更」に該当した人がいる場合、その人の新しい保険料は「月額変更届」によって決まります。

たとえ会社全体で「算定基礎届」をすでに提出していたとしても、この3ヶ月に該当する人が出た場合は、改めて「月額変更届」を出す必要があります。

ただし、最初から「この人は7〜9月に月額変更になる」と分かっているケースでは、事業主が申し出ることで、その人についての算定基礎届の記入をまるごと省略して、手続きを一度で済ませることができます。

  • 7・8・9月の月額変更は、算定基礎(9月改定)よりも優先される
  • 算定基礎届を出した後でも、該当者がいれば必ず月額変更届を追加で出す
  • あらかじめ対象だと分かっていれば、算定基礎届の手続きの省略が可能

複雑に見えますが、要するに「直近の給与変動(月変)を正しく反映させるために、定例の算定よりも優先して処理する」という考え方です。

このルールを知らないと、本来不要な月額変更届を提出してしまったり、逆に必要な随時改定を見逃したりする原因になります。「今は定時決定の流れに乗っているのか、それとも例外的な調整なのか」という視点で整理すると、判断しやすくなると思います。

随時改定が行われないケース

随時改定は条件を満たした場合に行う手続きですが、給与額が変わったように見えても、実際には随時改定の対象にならないケースも多くあります。

ここを正しく理解していないと、「手取りが増えたのに届出していないのは問題では?」といった不要な不安につながりがちです。代表的な対象外ケースを整理しておきましょう。

残業が増えただけの場合

最も多い誤解が、「残業代が増えた=随時改定が必要」という考え方です。

残業代や休日出勤手当は、月ごとに変動する性質の賃金であり、固定的賃金には該当しません。

たとえば、繁忙期に残業が続いて総支給額が大きく増えていても、基本給や固定手当が変わっていなければ、随時改定の要件は満たしません。

一時的な業務量の増減まで反映してしまうと、標準報酬月額が頻繁に変わってしまうため、制度上も対象外とされています。

賞与が増えた場合

賞与(ボーナス)が支給された、あるいは金額が増えた場合も、原則として随時改定は行われません。
賞与は毎月の報酬とは別に扱われ、社会保険料も「賞与に対する保険料」として個別に計算されます。

そのため、賞与額がいくら増えても、標準報酬月額そのものを見直す理由にはならない、という点を押さえておく必要があります。

「年収が上がったから随時改定」という単純な判断は誤りです。

【具体例付き】随時改定が必要なケースとは

制度の説明だけでは、随時改定の判断はなかなか身につきません。

ここでは、実際の職場で起こりやすいケースを取り上げながら、「どこが判断ポイントになるのか」を具体的に確認していきます。条件に当てはめて考えることで、実務での迷いを減らすことができます。

昇給した場合のケース

もっとも典型的なのが、定期昇給や評価によるベースアップです。

基本給が一定額引き上げられ、その状態が継続して支給される場合は、「固定的賃金の変動」に該当します。

このとき、昇給後の給与を3か月間平均し、標準報酬月額の等級が2等級以上変わっていれば、随時改定の対象になります。

一方で、昇給額が小さく、等級が1つしか変わらない場合や、等級が変わらない場合は、随時改定は行われません。

役職手当がついた場合のケース

昇進により役職手当が新たに支給される場合も、随時改定の判断が必要になります。役職手当は毎月定額で支給されることが多く、固定的賃金に該当するためです。

たとえば、一般社員から主任に昇格し、役職手当が加算された結果、報酬水準が大きく上がった場合は、3か月平均と等級差を確認する必要があります。

昇給が伴わなくても、手当の新設だけで随時改定の要件を満たすケースがある点は、見落としやすいポイントです。

勤務日数・時間が変わった場合のケース

勤務形態の変更も、随時改定につながることがあります。

たとえば、短時間勤務からフルタイム勤務に変更された場合や、所定労働時間が恒常的に増減した場合です。

このようなケースでは、基本給や月給の算定方法そのものが変わることが多く、結果として固定的賃金が変動したと判断されます。

一方、繁忙期対応として一時的に勤務日数が増えただけの場合は、3か月要件を満たさず、随時改定に該当しないこともあります。

「勤務の実態が継続的に変わったのか」「一時的な調整にすぎないのか」という視点で整理すると、判断しやすくなります。

会社・従業員それぞれの注意点

随時改定は制度としての理解だけでなく、立場ごとの注意点を押さえておくことが重要です。

会社と従業員では、見ているポイントや不安に感じやすい点が異なります。この章では、それぞれの立場で気をつけたい実務上のポイントを整理します。

会社側が見落としやすいポイント

会社側で特に多いのが、「昇給はしたが、随時改定の確認をしていなかった」というケースです。

給与改定の手続きと社会保険の手続きは担当者が分かれていることも多く、情報共有が不十分だと、月額変更届の提出漏れにつながります。

また、「残業が増えているから念のため随時改定を出そう」といった過剰対応も注意が必要です。

随時改定は要件が明確に決まっているため、該当しない届出を行うと、後から修正が必要になることもあります。

固定的賃金の変動有無、3か月平均、等級差という基本軸を毎回確認することが、実務上のミス防止につながります。

従業員が知っておきたい随時改定による影響

従業員側にとって気になるのは、「随時改定で何が変わるのか」という点でしょう。

随時改定が行われると、標準報酬月額が変わり、健康保険料・厚生年金保険料の金額も変動します。

昇給後しばらくしてから保険料が上がるケースもあれば、逆に給与が下がった後に保険料が下がるケースもあります。

「昇給=すぐ手取りが減る」「降給=すぐ楽になる」とは限らないため、反映までにタイムラグがある仕組みを理解しておくことが大切です。

手取り額がどう変わるかの考え方

随時改定による影響は、単純に「損か得か」で判断できるものではありません。

保険料が上がれば手取りは減りますが、その分、将来の年金額や、傷病手当金・出産手当金などの給付額にも反映されます。

短期的な手取りだけを見るのではなく、社会保険全体の仕組みの中で位置づけを理解することが重要です。

会社側も、従業員から質問を受けた際には、「なぜ今変わるのか」「何に影響するのか」を説明できるようにしておくと、無用な不安や誤解を防ぐことができます。

【Q&A形式で解説】随時改定に関してよくある質問

随時改定については、制度を理解していても細かな点で疑問が残りやすいものです。ここでは、実務や日常のやり取りの中で特によく聞かれる質問を取り上げ、判断のヒントを整理していきます。

随時改定は従業員から申請できる?

随時改定の手続きは、会社が行うものであり、従業員が直接年金事務所に申請することはできません。
ただし、昇給や勤務条件の変更があったにもかかわらず手続きが行われていない場合、従業員から会社へ確認すること自体は問題ありません。

その際は、「随時改定をしてほしい」と制度名を出すよりも、「社会保険料の基準は見直されていますか」といった聞き方の方が、実務上はスムーズなことが多いでしょう。

パート・アルバイトも対象になる?

パートやアルバイトであっても、社会保険の被保険者であれば随時改定の対象になります。

雇用形態ではなく、社会保険に加入しているかどうかが判断基準です。

たとえば、勤務時間の増加により月給換算額が大きく変わり、その状態が継続する場合は、正社員と同様に随時改定の要件を確認する必要があります。

一方、社会保険に加入していない場合は、そもそも随時改定の対象にはなりません。

随時改定をしなかった場合どうなる?

要件を満たしているにもかかわらず随時改定を行わなかった場合、年金事務所から後日指摘を受ける可能性があります。

年金事務所の調査などで発覚すると、さかのぼって標準報酬月額を訂正し、保険料を再計算することになるケースもあります。

結果として、会社・従業員の双方に追加負担や事務的な手間が生じることもあるため、「迷ったら要件を確認する」という姿勢が重要です。

随時改定は頻繁に発生する手続きではありませんが、見落としたときの影響は小さくない点を押さえておきましょう。

随時改定を正しく理解し、実務で迷わないために

社会保険の随時改定は、給与が変わったときに必ず行う手続きではなく、明確な条件を満たした場合にのみ行われる調整です。

固定的賃金の変動があり、その状態が3か月続き、標準報酬月額が2等級以上変わるかどうか。この3点を冷静に確認することが、判断の軸になります。

また、定時決定との優先関係や、残業代・賞与が原則として対象外である点を理解しておくことで、実務上のミスや誤解を防ぐことができます。

制度そのものは複雑に見えますが、考え方は一貫しており、「継続的な給与水準の変化かどうか」を見極めることが最も重要です。

会社にとっては手続き漏れを防ぐ視点として、従業員にとっては保険料や給付への影響を理解するための知識として、随時改定の仕組みを正しく押さえておくことが大切です。給与に変動があったときは、慌てて判断せず、条件に照らして一つずつ確認する。その積み重ねが、実務での安心につながります。

もし随時改定や社会保険手続きに不安がある方は、お気軽に弊社までご相談くださいませ。

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