試用期間の延長は合法?企業が知っておくべきルールと注意点

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新入社員や中途採用者を雇用する際、多くの企業が「試用期間」を設けています。

しかし、業務適性や勤務態度を見極めるために試用期間を延長したいと考えるケースも少なくありません。「果たして試用期間の延長は法律的に認められるのか?」という疑問を抱く経営者や人事担当者も多いでしょう。

本記事では、試用期間延長の合法性や労働基準法上のルール、企業が注意すべきポイントについてわかりやすく解説していきます。

試用期間の延長は法的に問題ない?企業が押さえるべき基本

試用期間は社員の能力や適性を確認するための制度ですが、延長する場合には必ずしも「違法」とは限りません。ただし、延長には法的な根拠や手続きを理解したうえで、適切に対応する必要があります。ここでは、試用期間延長の基本的な考え方を整理していきましょう。

試用期間の延長が可能な法的根拠

労働基準法には「試用期間の上限」について明確な規定は存在しません。つまり、法律上は一定の条件を満たせば試用期間を延長することが可能です。その根拠は以下のように整理できます。

  • 労働契約自由の原則
    労働契約は企業と労働者の合意によって成立するため、合理的な理由があれば試用期間を延長することも認められます。
  • 客観的な合理性と社会的相当性
    裁判例では、試用期間の延長は「客観的に合理的」であり「社会的に相当」と認められる場合に限って有効とされています。
    例:業務適性を十分に判断できない場合、病気や休職などにより評価が困難な場合など。

このように、試用期間の延長自体は違法ではなく、合理的な理由があるかどうかが判断基準になるのです。

延長が「法的に禁止されている」わけではない理由

「試用期間は○か月まで」と法律で明確に規定されているわけではありません。そのため、延長自体が直ちに違法となるわけではないのです。
ただし、注意すべきは無制限に延長できるわけではないという点です。以下のようなケースでは違法性が疑われる可能性があります。

  • 不当な長期延長
    業務に支障がないのに、評価を引き延ばす目的で長期延長を行う場合。
  • 更新の透明性がない場合
    就業規則や雇用契約書に延長の可能性が明記されていないにもかかわらず、一方的に延長する場合。
  • 事実上の雇用不安定化
    延長を繰り返すことで正社員としての地位を不当に先延ばしするような運用。

つまり、試用期間延長は「禁止されていない」が、「乱用は許されない」というのが実態といえるでしょう。

延長を認めるための要件とは?3〜4つの重要ポイント

試用期間を延長することは法律上認められていますが、企業が自由に決定してよいわけではありません。労働者の権利を不当に侵害しないために、一定の要件を満たす必要があります。ここでは、延長を認める際に企業が押さえておくべき重要なポイントを解説します。

就業規則または雇用契約書に規定があること

試用期間の延長を有効に行うためには、事前に就業規則や雇用契約書に「延長の可能性」が明記されていることが不可欠です。これがない場合、後から一方的に延長を通告しても無効とされるリスクがあります。

  • 就業規則の例:「業務遂行能力の判断に不足がある場合は、試用期間を最大○か月延長することがある」
  • 雇用契約書の例:「試用期間は3か月とし、必要に応じて延長する場合がある」

このように明文化しておくことで、労使間のトラブルを未然に防ぐことができるでしょう。

延長に「合理的な理由」が必要であること

延長を行うには、単なる企業側の都合ではなく合理的な理由が求められます。裁判例でも「客観的な合理性と社会的相当性」が基準とされています。具体的には以下のようなケースが挙げられます。

  • 労働者が病気やケガで長期間欠勤し、業務適性の評価が困難だった場合
  • 繁忙期で十分な指導や評価ができなかった場合
  • 業務遂行能力はあるが、職場のルールや協調性などの適応度を確認する必要がある場合

一方で、「単に人員削減を検討している」「なんとなく判断を先延ばししたい」といった理由では、合理性が認められにくいと考えられます。

合理的な理由とは?事例と裁判例から学ぶ

試用期間を延長する場合、「合理的な理由」が必要不可欠です。これは裁判例においても一貫して示されている基準であり、単なる企業の都合や人員調整のためでは認められません。ここでは、延長が認められやすい代表的な事例を紹介し、実際の運用に役立つポイントを解説します。

病気・怪我・長期休業などによる判断材料不足

試用期間中に労働者が病気や怪我で長期間勤務できず、十分な評価が行えなかった場合は、延長の合理的理由として認められることがあります。

例えば「試用期間中にインフルエンザで2週間欠勤し、業務適性の判断が困難だったため延長した」ケースでは、客観的に評価困難であることが明白なため、合理性が認められる可能性が高いでしょう。

勤務態度や能力の不十分さを改善目標とした延長

勤務態度や能力に一定の課題が見られる場合、即座に不採用とするのではなく改善の機会を与えるために延長することも合理的と判断されるケースがあります。
具体例としては次のようなものがあります。

  • 業務遂行はできるが、報連相が不足しているため改善を求める
  • 専門知識はあるが、職場のルールやマナーに不適応が見られる
  • 協調性に課題があり、チームでの業務に支障が生じている

このような場合、改善目標を明示し、その達成度を再評価するための延長であれば合理性が認められやすいといえるでしょう。

他部署適性確認・経歴詐称・無断欠勤などの具体例

延長が妥当とされた事例の中には、以下のようなケースも見られます。

  • 他部署適性の確認:配属先では評価が難しかったため、別部署での勤務を通じて総合的に判断する
  • 経歴詐称の疑い:学歴や職歴に虚偽の可能性があり、調査や追加確認のため延長
  • 無断欠勤や遅刻の頻発:本採用を即否定するのではなく、改善を促すための機会として延長

裁判所も、これらが「合理的な判断材料の不足」や「改善のための機会提供」として機能している場合には、延長を有効と認める傾向があります。

このように、試用期間の延長が有効かどうかは「企業が一方的に延ばしたいから」ではなく、評価に必要な合理的根拠があるかどうかで判断されるのです。

延長期間は社会通念上妥当な範囲に収める

試用期間の延長が法律で明確に禁止されていないとはいえ、どれだけでも引き延ばせるわけではありません。裁判例や労働実務の通説では、「社会通念上妥当といえる範囲」に収めることが求められます。ここでは延長期間の目安と、無制限延長のリスクについて整理します。

延長を含めても「1年以内」が目安の根拠

労働基準法に試用期間の上限は明記されていませんが、判例や厚生労働省の通達などから延長を含めても概ね1年以内が妥当と考えられています。

  • 裁判例でも「1年を超える試用期間は長すぎる」と判断された事例がある
  • 通常の職務能力や勤務態度であれば、1年以内で評価が可能と考えられる
  • 社会通念上、正社員としての安定した地位を1年以上先送りするのは不合理とされやすい

したがって、延長を行う場合でも「延長前+延長後」で合計1年を超えないように設定するのが安全でしょう。

無期限・繰り返しの延長は「無効」となるリスク

試用期間を「無期限」に設定したり、理由なく何度も繰り返し延長することは、無効と判断されるリスクが非常に高くなります。

  • 繰り返し延長の問題点
    ・実質的に「本採用を先延ばししているだけ」とみなされる
    ・雇用の安定性を害し、労働者に過度な不安を与える
    ・裁判でも「社会的に相当性を欠く」と判断されやすい
  • 実務上のリスク
    ・不当労働行為として争われた場合、企業側が敗訴する可能性が高い
    ・延長の繰り返しは「解雇回避のための濫用」として無効となるケースがある

したがって、延長はあくまで一時的・限定的な措置として運用し、繰り返し行わないことが重要です。

延長の手続きと実務フロー:トラブル防止のポイント

試用期間を延長する場合、手続きを誤ると「無効」と判断されたり、労働者とのトラブルに発展する恐れがあります。企業としては、延長の必要性が認められる場合でも、適切なフローに沿って進めることが不可欠です。ここでは、延長を行う際に押さえておくべき実務ポイントを解説します。

事前の通知と労働者の明確な同意を得る

試用期間を延長する際は、労働者に対して事前に通知し、明確な同意を得ることが重要です。
一方的に延長を告げるだけでは、トラブルの火種になりやすく、最悪の場合「無効」と判断されるリスクもあります。

実務上は次のような流れが望ましいでしょう。

  1. 延長の理由を具体的に説明する
  2. 延長期間(例:3か月間)を明示する
  3. 労働者に質問や意見を述べる機会を与える
  4. 合意を得た上で、書面により正式に記録する

このプロセスを踏むことで、労使双方の理解が深まり、後の紛争リスクを大幅に減らすことができます。

延長理由・期間を記した書面(同意書)の整備・保管

口頭での合意だけでは、後になって「そんな説明は受けていない」といったトラブルに発展しかねません。そのため、延長理由や延長期間を明記した同意書を作成し、双方で署名・押印の上で保管することが必要です。

  • 書面に記載すべき項目の例
  • 試用期間を延長する具体的な理由(例:勤務態度の改善状況を再評価するため)
  • 延長後の期間(例:2か月間、最大で○年○月○日まで)
  • 評価方法や確認ポイント(例:勤怠状況、チーム業務への適応など)
  • 延長中の処遇(給与や待遇が変わる場合は明記)
  • 保管の重要性
    作成した同意書は、労働契約関連書類と一緒に保管し、必要に応じて提示できるようにしておくことが望ましいでしょう。

こうした書面化のプロセスを徹底することで、企業側が適正に対応していることを証明でき、万一の労務トラブルにも備えることができます。

延長が無効となる典型ケースと企業リスク

試用期間の延長は、一定の条件を満たせば合法ですが、手続きや理由を誤ると「無効」と判断されるリスクがあります。無効とされた場合、企業は不当解雇や労働条件の不利益変更を理由に訴えられる可能性があり、損害賠償や労使関係の悪化につながりかねません。ここでは、延長が無効となりやすい典型例を確認しておきましょう。

就業規則に定めがない延長は「不利益変更」となる可能性

試用期間の延長を行うには、就業規則や雇用契約書にあらかじめ延長の可能性が規定されていることが前提です。規定が存在しない状態で一方的に延長を行えば、それは労働条件の変更にあたり、労働者にとって不利益変更とみなされる可能性があります。

  • 就業規則や契約書に延長条項がなければ「そもそも延長はできない」と判断されやすい
  • 労働者にとって雇用の安定性が損なわれるため、裁判でも企業側が不利になりやすい
  • 結果として「延長は無効」とされ、本採用扱いと判断される場合もある

このため、延長を予定している場合は必ず規定を整備し、入社時に労働者へ周知しておく必要があります。

曖昧な理由や手続き不備による延長は裁判で無効となる例

延長の理由があいまいであったり、適切な手続きを踏んでいない場合も、裁判で「延長無効」と判断されるケースがあります。

  • 延長理由が抽象的
    「もう少し様子を見たい」「評価が定まらない」といった曖昧な説明では合理性が認められにくい
  • 同意を得ていない
    労働者の合意なしに延長を通告した場合は、手続きの不備とされやすい
  • 書面化していない
    口頭のみのやり取りでは「言った・言わない」の争いになり、企業側の主張が通りにくい

裁判例の中には、企業が「改善の余地がある」として延長したものの、理由が具体的でなかったため無効とされた事例もあります。このような失敗を防ぐには、延長の根拠を明確にし、手続きをきちんと記録に残すことが不可欠です。

延長を安易に行うと、企業にとって大きなリスクとなり得ます。ルール整備・合理的理由・適切な手続きの3点を守ることが、トラブル回避の最善策といえるでしょう。

延長後の対応と本採用の判断ポイント

試用期間を延長した後は、単に時間を引き延ばすのではなく、明確な評価基準に基づいて本採用の可否を判断する必要があります。企業が延長を適正に行ったとしても、その後の運用が不十分であれば、労務トラブルの原因となりかねません。ここでは延長後に企業が意識すべきポイントを解説します。

指導・評価の継続と改善状況の記録

延長後は、労働者に対して具体的な指導を継続し、その改善状況を記録に残すことが重要です。
評価が不十分であれば「改善の機会を与えなかった」とみなされ、解雇が不当と判断される可能性があります。

  • 指導内容の明確化
    例:勤怠の改善、報告・連絡・相談の徹底、業務遂行スピードの向上など
  • 定期的なフィードバック
    週単位・月単位で面談を行い、進捗を確認する
  • 記録の作成
    指導内容や労働者の反応を文書化し、後から証拠として残せるようにする

こうしたプロセスを経ることで、延長後の判断が客観性を持ち、法的に認められやすくなります。

解雇予告・解雇手当の有無など法的整備を確認

試用期間中であっても、解雇にあたっては労働基準法のルールが適用される点に注意が必要です。延長後に不採用(解雇)を決定する場合、以下の法的要件を確認しておきましょう。

  • 解雇予告義務
    原則として30日前に予告する必要あり
    → 30日前予告ができない場合は「解雇予告手当(30日分の平均賃金)」を支払う義務がある
  • 客観的合理性・社会的相当性
    試用期間中であっても、「解雇権濫用法理」が適用されるため、合理的な理由が必要
  • 即時解雇が認められるケース
    経歴詐称や重大な服務規律違反など、信頼関係を著しく破壊する行為がある場合

このように、延長後の不採用は「試用期間だから自由に切れる」というわけではなく、解雇に関する法的要件を満たさなければ無効とされるリスクがあります。

延長後は、指導・記録・法的整備を徹底することで、最終的な本採用判断を正当化できるでしょう。企業にとっても労働者にとっても納得感のある運用が求められます。

企業向けまとめ:安心・納得の延長運用へ

試用期間の延長は、法律で明確に禁止されているわけではありませんが、合理的な理由・就業規則や契約書での明記・適切な手続きといった要件を満たすことが不可欠です。
また、延長期間も社会通念上妥当な範囲に収めることが求められ、繰り返し延長や無期限の扱いはリスクを高める要因となります。

企業としては、以下のポイントを押さえることが重要です。

  • 延長の根拠を明確にし、就業規則や雇用契約書に反映させる
  • 労働者に十分な説明を行い、同意を得た上で書面に残す
  • 延長後は指導と評価を継続し、記録を残して客観性を担保する
  • 本採用拒否を行う際には、労働基準法の解雇規制に従う

これらを徹底することで、トラブルを防ぎつつ、安心・納得の延長運用が可能となるでしょう。

もし試用期間の延長や労務対応に関してご不安がありましたら、ぜひ弊社までお気軽にお問い合わせください。専門家が企業の実情に合わせた最適なサポートをご提供いたします。

この記事の執筆者

滝本 旭
滝本 旭社会保険労務士法人ステディ 代表社員
資格:社会保険労務士
Copyright © 社会保険労務士法人ステディ
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